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 ハンカチを受け取り涙を拭いながら微笑んでいるビオナ姫があまりに美しくてアメリアはうっとりと見つめる。


「ビオナ姫様やっぱり綺麗だわ」


 小さく呟くアメリアの脇腹をクラウスは肘で突っついた。

 ハッとしてアメリアはビオナ姫に笑みを浮かべる。


「私は詳しくお話を聞いていないのでよくわかりませんが、ビオナ姫も大変でしたね」


「ありがとう。どうぞ、おかけになって」


 ビオナ姫に促されてアメリアは席についた。

 クラウスは少し離れてドアの前に護衛騎士のごとく立っている。


 ケイトがテーブルに紅茶を置くのを見ながらアメリアは口を開いた。


「あの、アリッサム王子とはどうなっているかお伺いしても大丈夫ですか?」


 アメリアが聞くとビオナ姫は頷いた。


「もちろんよ。解放された後、バスティアお兄様に伝えたの。そうしたら意外なことにすべて受け入れてくれたわ。私を応援してくれると言ってくれた。そのために今、いろいろと模索しているところよ。アリッサム王子とも面会時間を設けてもらったわ。限られた時間と監視付だけれど、隠れて会うことをしなくていいと思うだけでうれしいわ」


「それは良かったです」


 ビオナ姫の恋が実りそうでアメリアはホッとする。

 アリッサム王子もビオナ姫を純粋に愛しているのだとわかり、嬉しくなる。

 王子は姫を裏切っていなかったのだ。


「もし、結婚できなくてもお互い想いあっていたという事が確認できてうれしいわ。それだけで生きていける気がするの。恋って素敵よね」


 いつもの調子を取り戻したようなビオナ姫の語りにアメリアは頷いた。


「そうですね。私も、いろいろあってビオナ姫の気持ちがわかります」


「嬉しいわ。……アメリアさんが迷惑でなければ、またこうしてお茶にお誘いしていいかしら」


 恐々聞いてくるビオナ姫にアメリアは大きく頷いた。


「もちろんです。私なんかでよければいつでもお話しましょう」


「ありがとう」


 嬉しそうに微笑むビオナ姫はとても美しく見えた。





 

 短時間であったがビオナ姫と面会も終わり、アメリアは数日ぶりに家へ帰ることになった。

 忙しいアーサーは送れないという事でクラウスが自宅まで付き添ってくれている。


「ビオナ姫様少しすっきりした顔をしていたわね」


「そうかもな」


 隣を歩くクラウスは頷いて、アメリアに手を差し出した。


「なに?」


「いや、実体があるんだから手を繋ごうかと思って。実を言うと、俺はずっとこうして歩きたかったんだ」


 そう言うとアメリアの手を取って歩き始めた。

 大きなクラウスの手にギュッと握られてアメリアの心臓がドキドキする。


「嬉しいけれど、恥ずかしいわね。昔だったら”ちゃんと手は洗ったんだろうな”って言って私と手なんて繋いでくれなかったわよね」


「……そんなことあったかな」


 首を傾げているクラウスにアメリアは頷いた。


「あったわ」


「それより、ビオナ姫は結婚できるかわからないと言っていたが、多分嫁入りはあると思う」


「本当?良かったわ」


 喜んでいるアメリアにクラウスは渋い顔をしている。


「どうかな。ウチが起こしたごたごたにアリッサム王子も巻き込まれ、打倒クエール王国を叫ぶ団体がいると公になった。それも城の中に居たんだからたまったもんじゃない。と、いうことは俺達の国を面白く思わないヤツも多くなったんじゃないかな」


「まぁ、それはそうね」


 アリッサム王子も城に一時監禁されていた状況は、クエール王国の国民たちは穏やかでないだろう。

 反クエール王国が居るということは、アメリアの国にもう一度勝ってやるという勢力があちら側に居てもおかしくない。

 そこまで考えてアメリアは重い気持ちでもう一度頷いた。


「ビオナ姫がお嫁に行くということ?あちらの国に?」


「そうなるだろう。人質の様なものと考えていいかもしれない。まぁ、王族の婚姻というのは代々そのような形で行われているが……、あちらの国に行ったら下手したら命を狙われる可能性も出てきただろうな。今回はビオナ姫に近い立場に居るからか、少し可哀想に思う」


 クラウスらしくない発言にアメリアは微笑んだ。


「大丈夫よ。好きな人の傍で暮らせるのがきっと一番の幸せだから」


 自信を持って言うアメリアにクラウスは疑わし気な視線を向けてきた。


「なぜそう言いきれるんだ」


「私がそうだからよ。クラウスがずっと傍に居て実は嬉しかったの。たとえ幽霊でもね」


「…………なるほど」


 アメリアの告白にクラウスは照れたように視線を外した。

 少し照れたようなクラウスを見るのが新鮮でアメリアは顔を下から覗き込んだ。


「クラウスの反応が面白いわね」


「からかうなよ」


 クラウスは気持ちを整えてアメリアに向き直る。


「城の中は平常通り動いているように見えるが、内情はごたごたしていて大変な状況だ。なんせ反対派の騎士を拘束しているから人手が足りていない」


「どうなるの?」


 アーサーがほとんど家に帰っていない状況からかなり大変な状況だろうなと思いながらアメリアが聞くとクラウスはうんざりしながら答えてくれた。


「さぁな。俺は偉い人じゃないからわからんが、思想に染まり切っていない騎士は通常通り勤務させるんじゃないかって話だ。あの状況で仕方なく参加した奴もいるらしい」


「とてもそうは思えないけれどね」


 処刑される場所に居た騎士の数を思い出してアメリアは顔を顰めた。

 かなりの人数が居たように思えるが、あの中に参加したくなかったと思っている人が居たのだろうか。

 それならば助けてくれてもいいではないか。


 「それで、レスティノさんはどうなったの?あの人こそヤバイ思想よ」


 「まだ尋問中らしい。もう一発ぶん殴りたいけれどもう無理だろうなぁ。あいつと直接会う事はもうないだろう。取り調べがすんだらどうなるかは不明だが、死刑になるか遠くの牢獄に一生入れられるかすべては裁判が済んだ後だな」


「気の強い妹は?お兄さんと仲間だったんじゃない?私のシャンパンに薬を入れたのは彼女以外考えられないのよね」


 アメリアが言うとクラウスはため息をついた。


「確かに、俺も怪しいと思っているだがあの妹は全く事件に関わっていないらしい」


「嘘でしょ」


 嫌な顔をしているアメリアにクラウスも頷く。


「ただ、掴まりはしないがもうこの町には居られないだろ。身内から大犯罪者が出たんだ、これから大変だろうな」


「そうね」


 目が覚めるほど綺麗だったベネッサを思い出す。

 もし本当に彼女が何も知らなかったらと思うと少しだけ可哀想になりアメリアは気分が暗くなった。



「あら? アメリアとクラウス君?」


 気が付けばアメリアの家にたどり着いていた。

 庭に出ていたアメリアの母エマが目を見開いて歩いてきた二人を見ている。


「ただいま。やっと医者の許可が降りたの」


「そろそろ帰る頃だろうと思って待っていたのだけれど、まさかクラウス君と帰ってくるなんて……」


 何故か涙を流しながら喜んでいるエマにアメリアは若干引きながら頷いた。


「お母さま、大袈裟よ。こうして私は無事に帰って来たわ」


「それもあるけれど、クラウス君が本当にアメリアを好きだったなんて。手まで繋いで、演技じゃないわよね?絶対に嘘だと思ったのよ。私は信じていいのかしら?」


 泣きながら聞いてくるエマにクラウスも驚きながら頷く。


「色々あって、アメリアと一緒に過ごすことが幸せに感じるようになったんだ。おばさんは驚くだろうけれど」


 クラウスの言葉を聞いてエマはハンカチを取り出して涙を拭っている。


「アメリアにこんな幸せなことがあるなんて。嬉しいわ……でも、お母さん本当に重い病気なのじゃないかしら?あなた達何か私に隠していない?」


 未だ疑っている母親にアメリアは大きなため息をついた。


「お母さま、いい加減にしてよ!クラウスがこうやって言ってくれているんだから、信じてよ!」


「わかったわ」


 エマは頷くとクラウスの両手を取って頭を下げた。


「クラウス君、アメリアをよろしくね。だらしが無くてどうしょうもない子だけれど、最近は改心をして片付けが出来るようになったのよ。朝だって顔を洗って食卓にくるようになったのよ」


「はい。よく知っています」


 クラウスは全部自分のおかげだけれどという言葉を飲み込んで頷いた。


「それでもアメリアを選んでくれたなんて。嬉しいわ」


 本格的に泣き出しそうなエマにアメリアは顔を顰めつつクラウスに手を振った。


「送ってくれてありがとう。ほら、お母様クラウスは忙しいから引き止めたら悪いわよ」


「あぁ、そうね。お城で今大変なことになっているものね」


 クラウスも軽く微笑むと頭を下げた。


「じぁ、仕事に戻るから。アメリアもゆっくり休めよ」


 爽やかに言って城に帰って行くクラウスの背を見送りながらエマはアメリアの手を握りしめた。


「クラウス君に飽きられない様に頑張るのよ。毎日部屋の掃除をして綺麗にしているのよ」


「大怪我をして帰ってきた娘に他に言うことあるでしょ……」


 


 



 


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