29
顔に当たる太陽の光が眩しくてアメリアは目を開けた。
見慣れぬ白い天井に今自分は床に居るのだろうかと疑問を感じて視線を彷徨わせる。
大きな窓から差し込む太陽が部屋差し込み眩しくて目を細めた。
「おっ、やっと目が覚めたのか」
枕元から声が聞こえて視線を向けるとベッドの横の椅子に座っているクラウスと目が合った。
「クラウス……」
広い部屋にポツンと置かれているベッドに寝かされていることに気づいてアメリアはもう一度目を瞑った。
(私、どうしたんだっけ……)
長い悪夢を見ていたような感覚にアメリアは記憶を辿っていく。
「クラウスは実在しているわよね?」
「しているが?」
首を傾げているクラウスは黒い騎士服を着ていて今日も完璧にカッコいい。
「私、悪夢を見ていたのかしら。クラウスが幽霊になって私に付きまとう夢を見た気がするのよ」
「……それは本当の事だ」
クラウスの返事を聞いてアメリアは頷いた。
「やっぱり本当の事だったわよね。それで私、レスティノさんに殺されそうになったのよ」
「それも本当の事だ」
クラウスの返答にアメリアは、眠る前の記憶が蘇ってきて両手で顔を覆った。
「私、クラウスに変なこと言った気がする」
「お前が俺を好きだってことだろ。死ぬ前に言いたいことがあるって」
揶揄うように言うクラウスに死ぬほどの後悔が襲ってくる。
「あの時はどうかしていたのよ!」
忘れてしまいたい記憶だが、真実は消えることが無い。
悪夢だと思いたいが全て事実なのだ。
それも、兄も居る前でなんて言う事を言ってしまったのだと顔を覆っているアメリアは眠る前に聞いたクラウスの言葉を思い出した。
クラウスの事が好きだと言っていたアメリアに対して知っていると言っていたのだ。
「と、言うかなんでクラウスは私が好きだって知っているって言ったのよ!」
顔を覆ったままのアメリアの手を掴んでクラウスは面白そうに笑っている。
「お前、寝ている間に寝言で言っていたから」
「嘘よ!……なんて言っていたの?」
クラウスに両手を掴まれて顔を隠すことが出来なくなったアメリアは恥ずかしくて真っ赤になりながら問いかけた。
「クラウス、大好きって毎晩言っていたぞ」
「うそよぉぉ」
自分が寝言を言っていたこともショックだが、まさかそんな恥ずかしい事言っていたのかと落ち込んでいるアメリアにクラウスは上機嫌にニヤリと笑う。
「本当だよ。まぁ、そんなアメリアを見ているうちに俺もお前が好きになったがな」
「はぁ?」
寝言だから忘れてほしいと言おうとしていたアメリアは、クラウスの爆弾発言に目を丸くする。
クラウスの口から今聞きなれない言葉を聞いた気がしてアメリアは固まる。
「一緒に過ごすうちアメリアが好きになったと言ったんだ」
ゆっくりと言うクラウスの言葉が信じられないとアメリアは眉間に皺を寄せた。
クラウスが自分を好きだって言った?
疑問を持ちながらアメリアはじっとクラウスを見つめる。
「だって、私だらしがないわよ」
「嫌というほど知っているよ」
「小さい頃、私の事凄い目で見ていたじゃない」
「お互い様だろう。それこそ、アメリアは俺を”騎士と姫”に出てくるヤツとそっくりだから好きになったのか?」
クラウスに聞かれてアメリアは首を振った。
「違うわ。そんなこと微塵たりとも思わなかったわ」
あれだけ物語の騎士と比べてガッカリしていたのに、今では実物のクラウスの方が大好きだ。
小説の事などすっかり忘れていた。
「そうだろう。俺達も成長したってことかな。俺はアメリアが大好きだ。どうしてって聞くなよ」
クラウスはそう言うと照れくさそうに笑った。
「私も、クラウスが大好き。わたしも、どうしてって聞かないでね」
どうして好きなのか、口では説明できないアメリアも照れくさくて赤くなりながら微笑んだ。
「はぐらかされたらどうしようかと思ったよ」
クラウスはそう言うと照れくさい笑みを浮かべたまま寝ているアメリアのオデコにキスをする。
驚いて目を丸くするアメリアにクラウスは笑みを深くした。
「お前、ケガ人だからな。安静にしていろよ」
「……そうだったわ。あれからどうなったの?」
クラウスと想いが通じ合ったことで嬉しさで舞い上がっていたが、今までの出来事は夢では無かったのだ。
アメリアは起き上がろうとしたが痛みで顔を顰める。
クラウスはアメリアの背に手を入れて起き上がらせると枕とクッションを入れて器用にベッドの上に座らせた。
「あれから一晩しか経っていない。顔も腫れているし、足も痛いだろう」
クラウスの言う通り起き上がると殴られた顔に痛みが走る。
差し出された水と薬をゆっくり飲んでアメリアは一息ついた。
「クラウスはどうやって体に戻れたの?」
ベッドの横に置いてある椅子に座って、クラウスは口の端を上げる。
「根性だ」
「……何度やっても無理だったのに?」
アメリアに疑うような目で見られてクラウスは諦めたようにため息をついた。
「……お前を助けたいと思ったからだ。死んでしまうかもしれない、助けないとと、強く思ったら体に戻れた。それからが大変だったんだぞ」
少し照れくさそうに言ってクラウスはアメリアに向き合う。
たとえクラウス一人が城に乗り込んできたところで、どうにかなる状況だったと思えない。
牢屋に入れられていたアーサーもなぜか脱出できていたようだし、赤い布を巻いていた騎士達も多くの騎士にやり込められていた状況を薄っすらと思い出す。
「そうでしょうね。微かにしか覚えていないけれど、お兄様はどうやって出てきたの?」
アメリアの疑問にクラウスが答えようとしたところにドアがノックされた。
返事も待たずにドアが開いて顔をだしたのは巨体な体のアーサーだ。
ベッドの上に起き上がっているアメリアを見て無表情にうなずいた。
「起きたか」
「お兄様。その手どうしたの?」
部屋に入って着た兄の左手首に包帯が巻かれているのを見てアメリアは指をさした。
頑丈な兄が怪我をすることは凄く珍しい。
「妹が心配でゴリラが檻をぶっ壊したんだよ」
アーサーの後ろからもう一人巨体が入ってくると揶揄うようににやりと笑う。
筋肉質な大きな体に、頬には刀傷がついている。
恐ろしい顔をしているが、笑うと人懐っこい。
誰だろうという目で見ているアメリアにクラウスが紹介をしてくれる。
「バスティア王子の護衛騎士 ベイツ隊長だ。牢屋で声だけ聴いただろ」
「あぁ。兄がお世話になっております」
アメリアが頭を軽く下げると、ベイツは驚いたように目を見開いた。
「いやービックリ。ゴリラ男の妹って言うからどんな野蛮な子だろうかと思ったけれど可愛いなぁ。無愛想なゴリラに似なくて良かったな!」
気さくにアーサーの背中を叩きながらベイツは大口を開けて笑っている。
「お兄様、檻を壊したの?」
ムスッとしているアーサーの代りにベイツが頷いた。
「アメリアちゃんが連れて行かれた後、ずーっと檻を力ずくで広げて数時間かけてぶっ壊したんだよ」
妹の存在自体迷惑そうにしているアーサーがまさか自分をそこまで心配してくれていたのかとアメリアは感動する。
「お兄様!ありがとう」
涙をなさんばかりに喜んでいるアメリアにアーサーは無表情にうなずいた。
「血の繋がった妹が殺されるかもしれないとなれば誰でもそうなるだろ」
「でも檻を壊すなんて流石ゴリラだよ。城の檻は特に頑丈にできているんだぜ……」
呆れているベイツにアメリアは感動してアーサーを見上げた。
相変わらず無表情で感情など一切解らないが、妹を心配してくれていることが嬉しい。
てっきり厄介者だと思っていたが、それなりに可愛がってくれているのだ。




