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 うつらうつらとしていたアメリアの意識が少しだけ浮上し、重い瞼を開くと雲ひとつない青空が見えた。

 暖かい日差しが差し、冬とは思えないほど穏やかな気候だ。


 二人の騎士がアメリアの両腕を持って無理やり歩かせ、たどり着いた先は石造りの広場だ。

 騎士が演習をするときに使う広場は大きく円を描くように見学する席が設置されている。

 当然、誰も座っているものは居ないが視線を感じてアメリアはノロノロと首を動かした。

 

 高い台座になっている椅子に青白い顔をしたビオナ姫が座っているのが見えた。

 青白い顔をして無表情なビオナ姫の両隣には剣を抜いて構えている騎士が立っている。


 アメリアが無理やり連れてこられたのを見てビオナ姫は悲鳴を上げて立ち上がろうとし、横に立っていた騎士に剣を突きつけられているのが見えた。


 広場には数十名の騎士も整列しておりアメリアの様子を見つめているのも見えた。

 皆、腕に赤い腕章を巻いている。


 

(あれからどれぐらい時間が経ったのかしら)


 日が暮れてからパーティーが始まり直ぐ捕まった。

 今、太陽が昇っているのを見ると一晩は過ぎているようだ。


 未だ薬の影響が体を支配していて、手足がマヒしたように上手く動かない。

 殴られた顔も痛みが増していて一体どれぐらい腫れているのだろうかと不安になる。


 「今から我が国を裏切った者の処刑を始める」


 レスティノの声が広場に響いた。

 裏切者でもないし、処刑なんてとんでもないとアメリアは思うが薬の為に大きく感情が動かない。

 今から殺されてしまうのだろうか。

 

 働かない頭でぼんやりと考え、不安が押し寄せるが不思議と泣き叫ぶ元気が出てこない。

 

(実物のクラウスと会いたかったな)


 他にもやりたいことが沢山あったはずなのに、クラウスに会いたいそれだけが願いだ。


 ぼんやりと見上げると笑みを称えたままレスティノが歩いてくるのが見えた。

 ゆっくりと近づいてきて、アメリアの両脇に居た騎士が一歩下がる。


 両腕を持っていた騎士の手が離れアメリアは地面に倒れ込んだ。

 走って逃げたいところだが、足どころか手も満足に動かせない。

 かろうじて顔を上げるとレスティノと目が合った。

 

 笑みを称えているが冷たい黒い瞳だ。


 「同胞達よ。よく見ておけ!少しでも不振な行動をすればこの女のように命はない!」


 レスティノが大きな声を上げながらゆっくりと剣を抜いた。

 広場に集まっていた騎士達はじっとしていて動かずアメリアとレスティノを見つめている。


 整列している騎士達は皆腕に赤い腕章が巻かれていることからレスティノの配下だろう。


 (これだけの騎士が集まっていたら逃げるのは無理ね)


 薬の影響が無くても逃げるのは不可能だとアメリアは絶望的な気分になる。

 たとえクラウスが奇跡的に助けに来てくれてもこの人数では太刀打ちできないだろう。

 ただ手紙を持っていただけなのになぜこんなことになってしまったのだろうと泣きたい気分になるが涙一つ出ない。

 

 レスティノは手を伸ばすとアメリアの髪の毛を乱暴につかんで上を向かせた。

 

「止めてください!アメリアさんは悪くないの」


 ビオナ姫の声が聞こえてレスティノとアメリアは視線を向ける。

 制止する騎士を振り切ってビオナ姫が立ち上がって大きな声を出している。


「たとえ、ビオナ姫が命令をしていたとしても国を裏切った者は許せません」


 ゆっくり言うレスティノにビオナ姫はポロポロと涙をこぼしている。


「違うわ!裏切りなんてたいそうなものじゃないの。ただ、私がアリッサム王子を好きになっただけなの。彼も私を好きだって、愛していると。だから隠れて手紙をやり取りしていただけなの!全部勘違いなのよ」


「その話は何度もお伺いしました。もし、それが真実ならビオナ姫はアリッサム王子に騙されていたのでしょう。アリッサム王子が仕掛けてきた戦争ととらえてよろしいですかな」


「だから違うのよ!」


 悲鳴にも似たビオナ姫の声が広場に響く。

 レスティノは気にした様子も無く、アメリアの髪の毛を掴んでいた手に力を加えた。


「最後に言い残すことは無いか」


「沢山あるわ」


 薬の影響でろれつが回らないながらもゆっくりと話すアメリアにレスティノは眉を上げた。


「聞いてやろう」


「教えない」


 アメリアは軽く首を振った。

 自分を殺そうとしている奴なんかに言うものか。


 大切な言葉は直接クラウスに伝えたい。


 どうしてもっと早く言わなかったんだろう。

 恥ずかしがっていないで言えばよかった。


 四六時中傍に居たのにどうして今彼は居ないのだろう。


 ぼんやりと考えているアメリアにレスティノは笑みを深くする。


「とてもいい根性だ。俺は嫌いじゃない。ただ、国を裏切った者は許さない」


 ゆっくりとレスティノは剣を振りかざした。

 剣先が太陽に当たりギラリと輝きアメリアは眩しくて目を閉じた。


 これで終わりかとアメリアは息を深く吐く。


 

「アメリア!」


 クラウスの声が聞こえたかと思うとギィンと金属がぶつかる音が響く。


 クラウスを想うあまり幻聴かと思ったが再度、呼ぶ声が聞こえた。


「アメリア!怪我は無いか」


 怒鳴りつけるようなクラウスの確かな声とともにアメリアの体が浮いた。

 引き寄せられて力強く抱きしめられた。


「アメリア!大丈夫か?」


 顎を強く持たれて顔を乱暴に左右に揺らされてアメリアは重い瞼を開ける。

 

 整った綺麗な顔がすぐ傍にあり心配そうな黒い瞳が自分を見つめている。

 その瞳は曇っていおらず、綺麗な黒い瞳の中に自分が映っているのが見えた。


「クラウス、来てくれたの」


 ろれつの回らないアメリアの言葉にクラウスは頷いた。


「ギリギリだったな」


 レスティノはどうなったのだろうかとアメリアはゆっくりと振り返った。


 大きな巨体二人が地面に押し倒されたレスティノを拘束している。

 その一人はアーサーだ。


「お兄様……」


 クラウスに抱き上げられながらアメリアが呟くとアーサーは視線だけを向けてくる。


「大丈夫か?」


 無表情だが、兄の声色から心配してくれたことが伝わりアメリアは大きく頷いた。


「大丈夫よ。……大丈夫」


 何度も繰り返して呟いていると本当に助かったのだと緊張の糸が切れたのか、涙がボロボロとこぼれてくる。


「もうダメかと思ったのよ」


 ろれつが回らないながらも大きな声で泣くアメリアの頭をクラウスは苦笑しながらギュッと抱きしめた。


力強く抱きしめられてアメリアはクラウスの胸元に顔を押し付けた。

 グリグリと顔をクラウスの胸に押し付けて実体があることを確認する。


「おい、俺の隊服で涙を拭くな。汚いだろう」


 嫌そうなクラウスの声にアメリアは顔を上げた。

 こんな状況でも潔癖症が健在しているクラウスに少し呆れてしまうが、自分を心配そうに見つめる黒い瞳をに心がギュッとなる。

 黒い瞳にはキラキラと太陽に当たって輝いてとても綺麗だ。

 霊体の時は曇って見えた瞳は今は生気を取り戻している。


 クラウスはアメリアの顔を見て顔を顰めた。


「昨日より腫れている」


 大きなクラウドの手でそっと撫でられて心臓が止まりそうになったが、それより先に痛みが走りアメリアは悲鳴を上げた。


「痛い」


「そりゃ、こんだけ腫れてれば痛いだろう。でも骨は折れて無さそうだ、良かったな」


 何がいいものか。

 アメリアは反論しようとしてが、ホッとしたせいか殴られた頬の痛みと手足が痛み出してクラウスの胸に体重を乗せる。

 緊張感から解放されたこともあり、薬のおかげか意識がふわふわとして目が重くなる。


「いいよ、少し休め。俺がちゃんと医者に見せてやるし安全な所へ連れて行くから」


 安心させるようにクラウスが優しい声でアメリアを軽く揺すった。

 揺すられると痛みが増すからやめてほしいと思うが、瞼が重くて開けていることが出来ない。


 クラウスの暖かい体温を感じていると安心感が増してますます瞼が重くなってくる。


 「クラウスにね……伝えたいことがあったの」


 まどろみながら死ぬ前に伝えておけばよかったと後悔したことを思い出して呟いた。

 クラウスが居るうちに、自分が生きているうちに伝えないとまた後悔する。

 今伝えないと。


 ウトウトしているアメリアを抱きなおしてクラウスは顔を近づけてきた。


「なんだ?」


「あのね……死んじゃう前に言いたかったの……。クラウスが好きだって……」


 半分夢の中に居るアメリアの呟きにクラウスは苦笑した。


「知っているよ」


「そっか……。それなら良かった」


 安心したアメリアは小さく呟いて薄っすら微笑むと深い眠りについた。



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