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「スパイを連れてきました」
抵抗できず荷物のようにズルズルと引きずられながら意識を失ってたアメリアはレスティノの声で目が覚めた。
痛みに耐えながらなんとか顔を上に向け、自分が今居る場所を確認する。
白い大理石の床に敷かれた赤い長い絨毯、その先には金の王座に一人の男性が座っている。
ステンドグラスから差し込む月明かりが王座に当たり、座っている男性の困惑した顔が良く見えた。
(アダン王子だわ)
直接会ったことは無いが、第二王子でビオナ姫の兄だということはアメリアにもわかった。
ビオナ姫と同じ金色の髪の毛が満月の明かりが当たり輝いている。
「スパイ?最近ビオナ姫と懇意にしている女性だろう。たしか、クラウスの婚約者だとか……」
クラウスの想い人から婚約者になったのかとアメリアは痛みに耐えながらボンヤリと思う。
本当に婚約者だったらどれだけ嬉しいか。
クラウスの事は嫌いだったけれど、一緒に過ごすうち好きになっていった。
(クラウスに今までごめんって謝っていないわ)
反抗ばかりしていたような気がして先ほど謝っておけばよかったと後悔しているアメリアの耳にレスティノ声が響く。
「クラウスもこの女もスパイだったのですよ。みんなビオナ姫に踊らされていましたね」
「まさか、ビオナがそんなことをするはずがないだろう。その女性も間違いではないのか?」
アダン王子は困惑しながら王座の座りごちが悪いのか何度も座りなおしている。
困惑している様子から思ったほど悪くない人なのかもしれないと思った。
困惑しているということは、今の状況はアダン王子も望んでいないことだったのだろうか。
「間違いではありません。この女はアリッサム王子から手紙を密かにやり取りをしておりました」
レスティノはそう言うとアダン王子は懐から小さな手紙を取り出した。
城の裏庭でアリッサム王子から受け取ったビオナ姫あての手紙だ。
「この手紙は何度も見たが、ただの恋文ではないか。この女がアリッサム王子と恋仲だったということか?それでスパイだというのか?」
「恋文に見せていますが多分暗号が隠れていると思われます。アリッサム王子の兵を我が国に招き入れ、城を乗っ取るつもりだったのでしょう。決行日は今夜12時だと思われます」
レスティノが断言するが、アダン王子は手紙を見ながら納得していないような顔をしている。
「12時に落ち合おうと書いてあるがただ恋人同士が会いたかっただけではないのか?アリッサム王子と誰かが恋人同士という事が考えられるだろう。その女はクラウスの婚約者だから手紙のやり取りを頼まれただけではないのか?」
優しく言うアダン王子にアメリアは頷いてそうだと答えたかったか薬が効いているために声を出すことが出来ない。
何とかして自分無罪だと伝えたいが、体も怠く動かすことが出来ずにいるとレスティノは静かに首を振った。
「甘いですよ。アダン王子、もう時は動いているのです。王は我が主以外考えられない。そして、クエール王国を今度こそ撃ち落とすのです」
「やり方が少々強引すぎる。なにも今でなくていいだろう。父が亡くなったというのに……」
片手で顔を覆って言うアダン王子にレスティノは笑みを浮かべながら首を振った。
「今だからそこです。バスティア王子が王になるより、我が主が相応しい。そして今ちょうどアリッサム王子が我が城に居るのですよ。乗っ取られる前にアリッサム王子を我が手中に収めましょう」
レスティノの話を聞いて疲れたのアダン王子は大きく息を吐いた。
何を言っても無駄だと思ったのだろう、重く口を閉ざして王座の椅子に深くもたれかかっている。
乗り気ではないアダン王子の様子を見て助かるかもしれないという淡い期待が冷たいレスティノ言葉で打ち砕かれた。
「まずはこの女を処刑しましょう」
「……なぜ処刑という物騒な考えになるのだ」
眉をひそめるアダン王子にレスティノは笑みを絶やさずにアメリアの髪の毛を掴んで持ち上げる。
「裏切者は処刑される運命だということを知らしめるのです。我が国を確固たるものにするためですよ」
「お前に何を言っても無駄だという事は分かった。好きにしろ」
アダン王子は諦めたように手を振るとレスティノはますます笑みを深くする。
痛みに耐えながら、ビオナ姫やバスティア王子の姿は無いかと部屋の中を見るが彼らの姿は見えない。
広い長細い部屋には数人の騎士が立っているだけで静まり返っている。
どの騎士も左腕に赤い腕章をしているのが見えた。
レスティノの腕にも赤い腕章が巻かれている。
誰が仲間か一目でわかるようにしているのだろう。
(このままでは処刑されてしまうわ)
意識がもうろうとしながらアメリアは何とか逃げることが出来ないかと腕を動かすが上手く持ち上げることが出来ない。
痛みの為か薬の影響か、足さえも動かすことが出来ず抵抗をすると痛みが増すばかりでアメリアは体の力を抜いた。
(もうだめかもしれない)
最後に会ったクラウスの言葉を思い出すが、どうやって彼は助けてくれるつもりなのだろう。
今頃誰か体に入れる人を探しているのかもしれない。
(最後に、本物のクラウスに会いたかったな)
目を瞑っているクラウスの実体しか思い出せずアメリアは後悔をする。
せめて一目だけでも、生きているクラウスに会いたかった、触れてみたかった。
曇った黒い瞳ではなく、本物の生きたクラウスの瞳を見てみたかった。
(信じているって言ったのに……。ごめんねクラウス)
きっと彼は来ることが出来ないだろうとアメリアは薬の影響で重くなる瞼を閉じた。




