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 鉄格子のはまった窓を眺めてアメリアはため息をついた。

 レスティノに拘束されてから連れてこられたのは城の最上階の牢屋だった。

 階段を上がると見張りをしていた騎士が廊下の鍵を開け、一番近い鉄格子の部屋へと入れられた。

 長い廊下の両端は鉄格子の扉がずらりと続いて見え、アメリアは気分が重くなる。


「まさか、私が牢屋に入れられるなんて……。全部クラウスのせいだ」


 小さく呟くと、いつの間にか体から出て行ったクラウスが目の前に立っていた。


『俺のせいではないと思うが。一体どうなっているんだ』


「体の自由が効くクラウスが見に行ってくればいいでしょ!」


 アメリアが大声を出すと、クラウスは肩をすくめる。


『お前を置いて行くのは不安だ。あいつらに何をされるか分からんぞ』


 本気で心配をしている様子のクラウスにアメリアは怒りが収まり口を閉じる。

 

(そんな瞳で見られたら怒れないじゃない)

 

 霊体のクラウスの瞳は曇って見えるが、心の底から心配しているという心は伝わってくる。

 これが惚れた弱みかとアメリアは小さくため息をついた。


 「おい、隣に居るのは馬鹿な妹か?」


 石造りの壁ごしに低いアーサーの声が聞こえてアメリアは慌てて壁を叩いた。


「お兄様?どこにいるの?」


「嫌なことにお前の隣の部屋だ」


 低くドスの効いたアーサーの声にクラウスは眉をひそめる。

 声色だけで不機嫌な様子が取れる。


『すげー怒っているな。ゴリラ男』


「お兄様も捕まったの?私もなぜかパーティーを楽しんでいたのにレスティノさんに掴まったのよ」


 悲痛な声を出して言うアメリアにアーサーは舌打ちをした。


「バカな妹を持ったばかりに俺まで掴まった。お前がアリッサム王子と手紙のやり取りを誰かに見られていただろう。あいつら、アリッサム王子と俺達が結託して国をクエール王国に売るつもりだと言って捕まえやがった。数人がかりで抵抗もできなかった。あらかじめ薬を盛られていたとしか思えない。力が出なかった」


 不服そうなアーサーの声にアメリアも頷いた。


「私の事そんな風に言っていたわ。全くのえん罪よ!ポケットに入れていた手紙も取られたのよ」


「何が書いてあったんだ」


「知らないわよ。他人の恋文を見るなんてそんな酷いことはしないわ」


 流石に中身を見るような不躾なことはしない。

 きっぱり言うアメリアにアーサーは深いため息をついた。

 姿は見えないが呆れている様子がうかがえる。


「恋文でない可能性も出てきたぞ。俺達はビオナ姫にはめられたか?アリッサム王子とビオナ姫が結託してクエール王国に国を乗っ取るつもりだったとか考えられるな」


 唸るように言うアーサーにアメリアは小さく首を振った。

 いい人に思えたアリッサム王子がもしかしたらビオナ姫をたぶらかしていた可能性がある。

 そんなことは信じたくない。


「ビオナ姫はアリッサム王子に恋をしていたのは本当だと思うのよ」


「今そんな話している場合ですかぁ?僕達殺されるかもしれないんですよぉ」


『カール?お前も捕まったのか』


 アーサーとは別の方向から泣き出しそうなカールの声が聞こえてきた。

 考え込んでいたクラウスが驚いて柵をすり抜けて出て行く。


「カールさん?」


 アメリアも驚いて聞くとカールは泣き出しそうな声で答えた。


「僕も一緒に掴まりましたぁ。アメリアさん、普通に戻ったんですか?さっきまで、まるでクラウスさんが取り憑いたかのような話し方だったじゃないですが。騎士二人を投げ飛ばすし。僕怖かったですよ」


「えっ、何それ。クラウス、とうとう死んだのか?」


 別の部屋から会話を聞いていた男が驚いて声を上げた。

 アメリアが誰だろうかと疑問に思っていると様子を見に行っていたクラウスが戻って来た。


『主要な奴が大体掴まって牢屋に入れられている。ビオナ姫の護衛騎士と隊長クラスがいる』


「アメリアちゃん、もっと詳しく情報が知りたいんだが。俺達は式典が終わった後すぐに拘束された。ちなみに俺は、バスティア王子の護衛騎士隊長ベイツだ。アーサーとは同期だ」


 遠くからしゃがれた男の声が聞こえてアメリアは頷いて経緯を話し出す。


 パーティー会場であったことをかいつまんで話すと閉じ込められている騎士達が一斉に話し出した。



「おいおい。そいつはまずい。ブラバート王が既に死亡しているとは。まさか殺されたのではないだろうな」


「レスティノさんは違うって言っていましたよ」


 アメリアが答えるとアーサーが唸り声を上げた。


「まずここを出ないと何もできない。下手したら俺達から殺されるぞ」


「お兄様達、剣はどうしたの?」


 アメリアが聞くと、ベイツが答えた。


「んなもん、とっくに取り上げられているよ。柵を素手で捻じ曲げでもしないと出られない。ゴリラ男ならできるかもしれないな」


 バカにしたように言われてアーサーは鼻で笑った。


「やれるもんならとっくにやっている。ビオナ姫が俺達を裏切っていたら俺達は死ぬしかないぞ。クラウスが刺されたのもクエール王国と内通していると思われていた可能性があるな」


 アーサーが言うとクラウスはまた考え込んでいる。

 何も言わないクラウスをアメリアは睨みつけた。


「ちょっと、クラウス何かいい案はないの?」


『俺が誰かに取り憑いて鍵を開ける方法しか思いつかない』


「だったら誰かに取り憑いて!今すぐに!」


 懇願するように言うアメリアにクラウスは眉をひそめた。


『実を言うとここに来る前に何回かやっているがお前以外の体の中に入れないんだ』


「私以外に取り憑けないとかどういうことなのよ。クラウスが誰かに取り憑いて鍵を開けてくれたら助かるかもしれないのに」


 泣き出しそうなアメリアの声に、カール達が声を上げた。


「アメリアさん、誰と話しているんですか?頭おかしくなったんですか?」


「取り憑くとか一体なんなんだ!」


 ベイツも騒ぎ出したのでアーサーはため息をついて仕方なく説明をすることにした。


「刺されたクラウスが体を抜け出しているらしい。なぜかアメリアだけに見え、なぜかアメリアの体に入って自由に体を動かすことが出来る」


「あー!だからアメリアさんクラウスさんみたいに僕に話しかけてきたんですね。男二人を投げ飛ばしたのもこれで理解ができました!」


 カールの声にベイツは怪しいというように割り込んでくる。


「信じられんな。クラウスは死んだってことか?」


『俺は死んでない』


 クラウスはブスッとして言うとアメリアの体に入ってきた。


 視界がブレ、気持ちが悪い感覚にアメリアは拒否をしようとするがすでに遅く話すことすらできない。


「俺は生きている!ふざけるな、ベイツ隊長」


 アメリアの体の中に入ったクラウスは大きな声を上げる。

 アメリアの声だが話しかたがクラウスそのものだ。


「怪しいな」


「ベイツ隊長はゴリラ男と飲み会で勝負をしてすぐに酔いつぶれて負けた。ちなみにゴリラ男にベイツ隊長は酒も剣も叶わない」


 アメリアの姿をしたクラウスが言うと、ベイツは鼻で笑う。


「そんなもん。クラウスから聞いただけだろう」


「なら、半年前にトイレで大便をしていたベイツ隊長は便所紙が無くてちょうどトイレに入った俺に紙を要求したことがあったな。それもなぜか俺はアンタから便所紙を要求されることが多い。どんだけ糞を拭くのに紙を使っているんだよ」


『クラウス!私の体で汚い事言わないでよ』


 聞くに堪えない話にアメリアが講義をするが、ベイツはさすがに信用したようだ。

 

「わかったよ!お前は間違いなくクラウスだ。アメリアちゃんがそんな薄汚い話し方をするはずがないからな。ったく、可哀想に。見た目だけは美しい男がこんなに口が汚い男に取り憑かれるなんて」


 ブツブツ言っているベイツに満足してクラウスはアメリアの中に入ったまま腕を組んでカールに話しかけた。


「カール!てめぇも俺の悪口を目の前で言っていただろう。次会ったら覚えていろよ」


「ひえぇぇ。本当にクラウスさんなんですね。すいませんでした。成仏してくださいぃ~」


「俺は生きている!ふざけるなよ」


 悲鳴を上げるカールの声を聞いてクラウスは満足して頷いた。

 

「おや、もっと泣きわめいているかと思ったが元気そうだな」


 薄暗い牢屋にレスティノの声が響いた。

 

「レスティノ、てめぇ一体どういうことなんだ!」


 ガシャンと鉄格子を叩くような音と共にベイツの怒鳴り声が響いた。

 コツコツと足音が響き、アメリアの部屋の前にレスティノが現れる。

 鉄格子ごしに彼はアメリアの姿を見ると人のいい笑みを浮かべた。


「まだ、元気そうだね」


「はぁ?」


 アメリアの中に入ったままのクラウスが首を傾げた。

 その姿をレスティノは面白そうに見つめていた。




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