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「初めまして、アメリアさん。ベネッサと申します」


 美しいが気が強そうな印象を受けてアメリアは愛想笑いを浮かべる。


「はじめまして。アメリアです」


「アメリアさんのお名前はお伺いしております。なんでも、あのクラウス様の想い人なのだとか?」


 アメリアの目から見ても嫉妬を隠し切れないベネッサに睨みつけられる。

 ベネッサの瞳で殺されるのは無いかと思いながらアメリアが固まっているとクラウスが間に入ってくる。


『頼む!アメリア、頷いてくれ!俺はこの女が怖いんだ!』


 懇願するクラウスにアメリアは思わず頷いてしまう。


「そ、そうみたいですね」


「曖昧ね!クラウス様は本当にアメリアさんの事が好きなのかしら?ねぇ、お兄様信じられないわ」


 本人を目の前にしてよく言えると固まっているアメリアにレスティノは苦笑してベネッサの背中を撫でる。


「クラウスと幼馴染だそうだからきっと昔から好意を抱いていたのかもしれないね」


 レスティノの言葉にクラウスが首を左右に大きく振った。


『それはない!汚い部屋に住んでいるコイツは幼少期からありえないと思っていた!』


(酷いじゃない!)


 思わずクラウスを睨みつけると、たじろいだように手を左右に振った。


『昔の話だ。今は、俺の指導のおかげで綺麗な部屋だし、朝起きて身なりも整えられるし成長したな』


 (ちっとも嬉しくないわよ)


 アメリアがクラウスに目で訴えているとベネッサが不満そうにアメリアを見つめている。


「私も幼少期からクラウス様に出会っていれば、恋人になれたかもしれないのに。悔しいわ」


『気の強い女は苦手なんだよ。頼むからもう俺に関わらないでくれ』


 クラウスは自分が見えないことを忘れてベネッサに訴えている。


 (ビオナ姫と違った美しさを持つベネッサでもクラウスは好きにならないのね)


 ベネッサに興味がなさそうなクラウスにアメリアはホッと胸をなでおろした。


 「まぁ、まぁ。クラウスよりいい男は沢山いるよ。パーティー会場を探してみるといい。俺は仕事だから行くけれど、アメリアちゃんと、仲良く過ごすんだよ。アメリアちゃんも妹をよろしくね」


 レスティノはにこやかに言うと颯爽と会場から去って行った。

 気の強いベネッサを置いて行かれても困るとアメリアはクラウスを思わず見つめる。


『俺に言われても困る。適当にあしらうしかないだろう。俺、この子苦手なんだよ』


 関わりたくないとアメリアの後ろに隠れた。


(クラウスは見えないからいいじゃない)


「全くお兄様ってばいつも私を置いてけぼりにするのよ」


 ベネッサは大きくため息をつくとアメリアに微笑んだ。

 先ほどまでの嫉妬を含んだ気配は感じず、諦めたように笑みを称えている。


「クラウス様は大好きでしたけれど、アメリアさんを選ばれたのなら仕方ないですわ。きっぱり諦めます」


「はぁ」

 

 なんて答えていいか分からずアメリアは気の抜けた返事をする。

 先ほどまでアメリアに対して嫉妬で激怒していた割に愛想よく笑うベネッサに恐怖すら感じてしまう。

 ベネッサは苦笑して給仕係を呼び止めるとシャンパンを手に取って渡してきた。


「どうぞ。せっかくのパーティですもの楽しみましょう。私も、クラウス様以上のいい男を探します」


「ありがとうございます」


 オズオズとベネッサが差し出したグラスを受け取る。

 薄い色のついたシャンパンは淡い気泡が浮かび上がっていておいしそうだ。

 ベネッサもシャンパンを手に取るとアメリアに掲げた。


「お互い、いろいろ頑張りましょう」


 何に頑張るのかさっぱり分からないが、とりあえずアメリアは微笑んで同じようにグラスを掲げた。


 ベネッサがシャンパンを飲んだことを確認してアメリアも一口飲んだ。

 手の平を返すようなベネッサの変わりようが恐ろしい。

 

(裏があるようで恐ろしいのよね)


 笑みを浮かべながらアメリアは再度シャンパンを飲んだ。

 甘い飲み口のお酒で飲みやすく半分まで飲み干したところで素知らぬ顔をしていたクラウスが声を掛けてくる。


『おい。あまり飲むなまだ子供のくせに』


(同じ年です)

 

 今度は口煩い父親の様な事を言い始めたとアメリアはイラッとしてクラウスの目の前でグラスに残っていたシャンパンをいっきに飲み干した。


 腹いせのようにシャンパンを飲み干したアメリアにクラウスは舌打ちをする。


『お前、俺の注意したことが分からないのか』


 ベネッサが居るためにクラウスと話すことが出来ない。

 アメリアはツンと無視をしていると、背後から聞こえるように嫌味を言う女性達の声が聞こえてくる。


「ゴリラ男の妹さんのドレス、まだ若いのに肌の露出が少なくて芋臭いわね」

「本当。あれでよくクラウス様の想い人なんて噂が出たわね。最近の流行は肩を出した方がお洒落なのに。あれじゃ、かなり年上の恰好用ね」

「本当の話だったらクラウス様に失礼よ。でも、ちょっと女性を見る目がありませんわよね」


 聞こえるようにアメリアの悪口が聞こえてきてクラウスとベネッサが顔を顰めた。


「言われておりますわよ。アメリアさん」

『お前、いいように言われているぞ!俺も女を見る目が無いと言われて心外だ。お前のドレスは俺が選んだんだぞ』



 なぜか怒っている二人にアメリアは肩をすくめる。


「真実だもの。パーティなんて初めてだからどんなドレスを着ればいいか分からなかったけれど、以外とみんな肩を露出しているのね」


 芋臭いと言われたことを気にすることなく言うアメリアになぜかクラウスはムッとしている。


『言い返せ!お前が言い返さないからいい気になって言ってくるんだぞ』


 煩いと思いつつクラウスを無視しているとなぜかクラウスはやる気を出して近づいてくる。


『俺が代わりに言い返してやるよ』


「はぁ?何を言って……」


 アメリアは拒否することもできずクラウスに体を乗っ取られてしまう。

 視界がブレ自分の体が勝手に動く気持ちが悪い感覚にアメリアは体の中で叫んだ。


『ちょっとー!いい加減にしてよ!』


 アメリアの抗議を無視してクラウスはあでやかに微笑んだ。


「ちょっと失礼しますね。後ろの女性達とお話してきますわ」


 先ほどと打って変わったアメリアの鋭い瞳にベネッサは驚きつつ頷いて一歩下がった。


 アメリアの姿をしたクラウスはドレスのスカートを持ち上げてゆっくりと歩く。

 アメリアが近づいてきたのを見て、噂をしていた女性達は馬鹿にしたようにクスクスと笑いあっている。


「あいつら、俺をバカにしやがって」


 クラウスは低く呟くと微笑んで女性達の前に立った。

 綺麗に着飾ったドレス姿の女性達は芋娘のアメリアが目の前に来ても余裕の表情だ。


「あら、どうかされました?」


 今にでも飛びかかっていきそうなクラウスにハラハラしながらアメリアは見守るしかない。

 勝手に体を動かしてクラウスは女性達に微笑んだ。


「このドレス、クラウスに買ってもらったのよ。彼、肌を露出している女性が嫌いだから下品だと思っているのよ」


 上品な雰囲気で言うアメリアの姿をしたクラウスの目は人を殺せそうなほど睨みを利かせている。

 下から見上げるように睨みを利かせているアメリアに女性達はたじろいだ。


「若い方で肩を出していないドレスは珍しいと言っていただけです」


「芋臭いって聞こえてきましたけれど!このドレスを侮辱することはクラウスを侮辱することと一緒ですわよ」


 自分がバカにされたからと怒っているクラウスにアメリアはため息をついた。


 クラウスの選んだドレスがまさか女性達に馬鹿にされるとは思っていなかったのだろう。

 腹を立てているアメリアの姿をしたクラウスの気迫に女性達は引きつった笑みを浮かべている。


「く、クラウス様が選んだのですか。それは、素晴らしいですわね」


 苦し紛れにそう言うと去って行こうとする。


 引き留めようとクラウスが口を開いた時後ろから肩を叩かれた。


「なんですか?」


 今忙しいんだけれどとクラウスはイライラしながら振り返ると、申し訳なさそうなレスティノが立っていた。


「悪いね。アメリアちゃん、ちょっと話を聞きたくてね。アダン王子と許可なく手紙をやり取りしていただろう」


 レスティノの言葉にアメリアの心臓が跳ね上がる。


「何のことかわかりませんが」


 平静を装ってアメリアの姿をしているクラウスが答える。


「許可なく他国の王族と文章を交わしているのは怪しいというお達しだ」


「意味が解りません」


 クラウスはすっとボケるが、体の中から見つめているアメリアは心配で気が遠くなりそうになる。

 ポケットの中には昨日アリッサム王子から預かった手紙が入っている。

 一体何が書かれているのか不明だが、見られて困るのはビオナ姫だろう。


 私は悪くないと何度も呟くが、レスティノは申し訳なさそうな顔をしてアメリアの腕を掴んだ。


「ちょっと拘束させてもらうよ。アダン王子がご心配されていてね。国を転覆させるつもりかと……」


 レスティノの言葉にクラウスはイラッとして手を振りほどいた。


「大袈裟です」


「反抗をするとよくないよ」


「はぁ?意味が解らんと言っているだろう!」


 アメリアの中に入っていることも忘れてクラウスは声を荒げた。



 

 

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