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 アーサーに家へ帰ることを告げてアメリアは城の門を出た。

 家までは店が並ぶ大通りを歩いて行けばいい。


 寒い風が吹いていたがクラウスに買ってもらった新しいコートのおかげで寒さをちっとも感じない。


「新しいコート、風を通さなくて暖かいわ。ありがとう」


 襟巻の中に顔を埋めながら言うアメリアにクラウスは肩をすくめた。


『どういたしまして。今日は寒いのか?霊体だと温度を感じないからわからないな』


「寒いけれど、凄く緊張をしていたから余計体が寒さに堪えるのよ」


 手紙を密かに渡すという役割を無事に終え、緊張から解放されたせいか急激に冬の寒さを感じ体が震える。

 コートのポケットに手を入れて震えているアメリアを横目で見てクラウスは口の端を上げた。


『体があったらお前を温めてやるのになぁ』


「えっ?」


 冗談のように言うクラウスだったが、一瞬後ろから抱きしめられる映像が浮かびアメリアは顔を赤らめる。


『冗談だよ』


「解っているわよ!」


 アメリアの意外な反応にクラウスは若干引き気味だ。

 あれだけ嫌っていたクラウスに気があると思われたくないとアメリアはプイと横を向く。


 人通りの多い道を歩いていると突然アメリアの腕を誰かに引っ張られた。


 驚いている一瞬のうちに裏路地へと引き込まれた。


『アメリア、振り払え! 暴漢か?』


 クラウスが叫ぶが、力強く掴んでいる腕を振り払うことなどできない。

 あっという間に人通りのない薄暗い路地へと連れ込まれるとそのままアメリアの体は引き倒された。

 痛いという間もなくクラウスの舌打ちが聞こえるとグラリと視界が揺れる。


『お前の体を借りるぞ。緊急事態だ』


 反抗する間もなく、クラウスの声が頭の中に響きそのまま体が勝手に動く。


 自分の意志とは関係なくアメリアの体は片手で身を起すと引き倒した男の足を薙ぎ払った。


 ひ弱いアメリアの突然の反撃に路地へ引き入れた男がバランスを崩す。


「何者だ!」


 アメリアの体を使ってクラウスが男に聞いた。

 上から下まで黒づくめの男は、顔もフードで隠していて表情が見えない。


「………… 」


 男は答えずにスッと剣を抜いてアメリアに斬りかかって来た。


「クソッ!」


 アメリアの中に居るクラウスは舌打ちをすると斬りかかって来た男の剣を避けて反動をつけて男に殴りかかった。

 アメリアが殴りかかってくると思わなかった男は顔を殴られてグラリとバランスを崩す。

 クラウスはそのまますぐに男の足を薙ぎ払うと男は地面へと倒れた。


 「逃げるぞ」


 男が起き上がる前にクラウスは力いっぱい駆け出す。

 

『ひえぇぇ。一体なんなの?』


 目まぐるしく回る視界に驚きながらアメリアがひ弱い声で言うとクラウスは首を振った。


「わからん。ただの暴漢にしては身なりが完璧だ。誰かから指示を受けたヤツかもしれない」


 クラウスはアメリアの体で大通りまで走る。


 息切れと運動不足からか足が重くなりもつれそうになりながらクラウスは走り続けた。


「少しは運動しろ!疲労が凄すぎて屋敷まで走り切れるか自信がない」


 息を切らしながら必死に走るクラウスに何が何だかわからずアメリアは体が勝手に動く気持ちが悪い感覚に悲鳴を上げた。



『ひぇぇぇ。一体なんなの?』


 大通りに飛び出してクラウスが振り返ると男の姿は見えない。

 

「追いかけて来ていない」


 酸欠で倒れそうになりながらクラウスは何度も後ろを確認しながら人ごみに紛れるように通りを歩く。

 また裏道に引きずり込まれないように細心の注意を払いながらアメリアの屋敷へと向かった。



 


「おかえりなさい」


 駆け込むように帰って来たアメリアを母 エマが迎える。

 息を切らして倒れそうな娘を見て心配そうに駆け寄って来た。


「どうしたの?」


「ちょっと運動しようと思って」


 何者かに襲われたとは言えずアメリアの姿のままクラウスが告げるとエマは首を傾げる。


「最近アメリアの様子が可笑しくてお母さん心配だわ。部屋を綺麗にしたり、最新の洋服に興味をもったり、しまいにはクラウス君と想いあっていたって言われてもおかしいと思うのよ。もしかしてお母さん重い病気か何かなの?心配事をさせないようにみんなで演技しているってことはない?」


「気のせいよ。おばさ……じゃなかった、お母さまは元気だから大丈夫よ」


 クラウスとの噂を聞いてから興奮して寝込んでいたエマはまた体調が悪くなったように額に手を当てている。


『ねぇ、いい加減出て行って!私の体よ』


 自分の体を操られる気持ちの悪い感覚が嫌でアメリアは叫んだ。

 何時まで他人の体にいるのか。


「あぁ、悪い」


 クラウスが謝ると視界がブレてクラウスが目の前に立っているのが見えた。


 自分の意志で体を動かせることを確認していると、体が重い事に気づいた。

 走ってきたために息切れは止まっていないが、足がガクガクとして立っているのがやっとだ。


「はぁ、はぁ。歩くのも辛いわ」


『運動不足だ。しかし一体何者だ?お前が誰かに殺されそうなことしたのか?』


「するわけないでしょ!」


 呼吸を整えながらゆっくりと椅子に座ってアメリアは叫んだ。


『だよなぁ。ってことはお前、アリッサム王子と接触してたことがバレたとかか?』


「接触もなにも今さっき手紙を渡しただけじゃない。あの男は装備が完璧だったわよ。偶然ではないわね」


 アメリアはもう一歩も動けないと机の上にうつ伏した。


『ってことは俺を刺したやつと関係がありそうだな。なぜアメリアを襲ったのかが謎だな』


「絶対クラウスのせいよ。しかも明日パーティーがあるっていうのに足が疲労で動きそうにないし、手は痛いし」


 クラウスがアメリアの体を使って襲ってきた相手を殴った右手が痛い。

 机にうつ伏したまま痛む右手を見ると赤く腫れている。


「絶対折れたわ」


 唇を尖らせて言いうアメリアの手を覗き込んでクラウスは眉を上げた。


『大袈裟だ。ちょっと赤くなっているだけじゃないか。折れていたらもっと腫れて痛みでもがいているよ』


 (なんで私こんな冷たい人が気になってしまったのかしら)


 幼少期から優しい声かけをするような人ではないと知っているが、痛いのだから心配してくれてもいいじゃないかとアメリアはますます唇を尖らせる。


 きっとアリッサム王子ならば優しく声を掛けてくれて心配してくれるような気がする。


 冷たいクラウスでも嫌いになることができないとアメリアは諦めてクラウスを見上げた。


 口では大げさなと言いつつ心配そうにアメリアの右手を見ているクラウスに何となく心が温かくなる。


 不貞腐れていたアメリアが微笑んでいるのを見てクラウスは奇妙な顔をした。


『なんだよ。気持ち悪い』


「なんでもないわ。ちょっと疲れただけよ」


『無理に体を使って悪かったよ』


 ぶっきらぼうに言うがアメリアの体を心配している黒い瞳に微笑んで首を振った。


「クラウスが居てくれて助かったわ」






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