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 明日がパーティーだというのにアメリアはビオナ姫が書いたラブレターを懐に隠して大きなため息をついた。


「私パーティーの準備したり小説のネタを書き溜めたりしたいから忙しいのよ。どうして命を懸けてこんなことをしないといけないの」


 ビオナ姫が書いた手紙はアリッサム王子宛だ。

 現在アリッサム王子は城に滞在をしているということだが、アメリアが見る限りどこにもその姿はない。

 先ほどビオナ姫と楽しいお茶会が終わり、密かに渡された手紙をポケットに入れて城の裏庭を徘徊している。


 ビオナ姫は目に涙を貯めて手紙を渡してほしいと懇願されアメリアは断ることが出来なかったのだ。

 手紙を他国の王子に渡していることが解ればたとえ姫様が書いたものでもクエール王国と友好を反対している勢力に難癖をつけられて捕まってしまうかもしれない。

 それ以前に、不届き物として罰せられるかもしれない。

 

 ポケットに入っている手紙の存在が恐ろしくなり心臓がバクバクと音を立てている。

 

 クラウスは呆れながらアメリアの横を歩いているが、他の人には見えないのではた目から見たらひとりで歩いているように見えるだろう。


『だからお前には無理だって言っただろう。だいたい、いくらビオナ姫と友達になったからと言って我が物顔で城の裏庭を見学しているなんて嫉妬されても仕方ないだろうな』



「嫉妬って何?どういう事?たかが庭をあるいているだけなのに?」


 アメリアが小声で尋ねるとクラウスはニヤリと笑う。


『”私もビオナ姫と仲良くなりたいのにあの女はお茶を共にしただけでなく自慢げに裏庭を歩いているわ!それも憧れのクラウス様の想い人ですって!絶対許せないわ!”ってな』


 ありえないと思いつつクラウスのいい方は現実味があり、そんな女性達が存在しているような気がしてアメリアはあたりを見回した。

 人の気配はなく、冬だというのに季節の花が咲いている。

 一体何の花かは分からないが、寒い冬に咲く花は美しく緑が少ない庭を彩っている。


 自分を観察している者が居ないのを確認してほっとしているとクラウスがベンチに座るように合図をしている。


『ここならばどの城の窓から死角になる。アリッサム王子が来たら頭を下げ、スッと手紙を渡すんだ。俺はそうやって手紙を渡したことがある』


「経験者からの指示はありがたいわね。緊張するわ、誰かに見られたらお終いね」


『アリッサム王子の側近たちは全員知っているから大丈夫だ。が、城の誰かに見られたらお終いだろうな』


「別に仲良くしようとしている国の王子に手紙を渡すぐらいい、いいじゃないねぇ」


 腰かけたベンチの背もたれに寄りかかりながら流れる雲を見ているアメリアにクラウスはため息をついた。


『お嬢様、もう少し上品に腰かけてください。誰が見ているか分かりませんよ』


 騎士のようないい方をするクラウスにアメリアは唇を尖らせる。


「うるさいわねぇ」


 相変わらず口煩いと思いつつ、騎士姿で畏まっているクラウスは惚れ惚れするほど美しい。

 口の悪さと態度の悪さも慣れてきたがやはり畏まっている方がアメリアは好きだ。


 クラウスの言う通りマナー教室で学んだことを思い出しながら綺麗な姿勢に座りなおす。

 庭を見ているようなふりをして全神経を使いアリッサム王子が本当に来るのかと気配を探る。


『お前もそうやって黙っていれば、ちゃんとしたお嬢様に見えるぞ。それにこの前買ってやったコート、良く似合っている。俺はセンスがいいな』


「失礼ね。私はいつもちゃんとした可愛いお嬢様でしょ」


 クラウスに褒められたことが恥ずかしくて茶化して言っていると庭の気配が変わった。

 ピンと張りつめた空気を感じ視線を向けると男数人が歩いてくるのが見えた。


『アリッサム王子が来たぞ』


 クラウスはアメリアの後ろに立ちながら言った。

 目を凝らしてアリッサム王子がどこに居るのか探す。

 5人ほどで歩いている集団の先頭に立ってい歩いている男性がアリッサム王子だろう。

 褐色の肌に黒い髪の毛、整っている顔をしている。

 白い盛装には金のボタン、服装だけで王子だとわかる。

 

 来ることは分かっていたがアメリアは慌ててベンチから立ち上がった。

 ゆっくりとアリッサム王子一行が近づいてくる。


 (手紙を渡せるかしら)

 

 手が震えてビオナ姫の手紙を落としてしまわないだろうかと不安になりながらアメリアは軽く頭を下げた。

 頭を下げつつ視線を向けるとちょうどアリッサム王子一行がかなり近くまで来ているのが見えた。

 どうやって手紙を渡したらいいのかとストレスで目が回りそうになっているアメリアに、クラウスが後ろから声をかけた。


『大丈夫だ。アリッサム王子が何とかしてくれるよ』


 (本当でしょうねぇ~)


 声を発することが出来ないためアメリアは心の中で呟いているとアリッサム王子が前を通りがかった。


「おっと……」


 アリッサム王子の美声が聞こえ、アメリアの足の上に金の刺繍がしてあるハンカチが落ちてきた。

 見事に足の上に乗ったハンカチを見つめていると、申し訳なさそうなアリッサム王子の声が聞こえる。


「すまない。ちょうどハンカチを落としてしまった」


「い、いえ」


 アメリアが慌てて拾おうとするとクラウスが後ろから口を挟んでくる。


『今だ、アリッサム王子に手紙を渡せ』


 クラウスの助言を聞いて慌ててポケットの中の手紙をわからないように取り出しながらハンカチを拾った。

 ハンカチに隠すように手紙を刷り込ませて震える手でアリッサム王子に渡そうとするとお付きの男が進み出てくる。

 アリッサム王子に直接渡さなくていいのだろうかと不安になっていると、アリッサム王子が静かに微笑んだ。


「大丈夫だ。ありがとう」


 アリッサム王子の優しい声に不安だったアメリアの心がスッと落ち着いた。

 頭を下げながらアリッサム王子の側近にハンカチと一緒に隠した手紙を渡した。

 

「ありがとうございます」


 側近は笑みを浮かべてハンカチごと受け取ると同時にアメリアの手のひらの中に小さな紙を握らせる。


『顔色を変えるなよ』


 驚いて目を見開きそうになったアメリアにクラウスが鋭い声で注意する。

 アメリアは慌てて笑みを作って頭を下げた。


 アリッサム王子は微かに微笑むとそのまま庭を歩いてい侍従たちと去っていく。


「一瞬だったわね」


 すでに遠くなったアリッサム王子達の姿を見つめながらアメリアが呟いた。

 風のように去っていくアリッサム王子を見送りながらクラウスも頷く。


『いつもそんな感じだよ。偶然を装って話すことなく手紙を交わす。まぁ、数回しかしたことないけどな』


「お互い恋をしているのに、隠れて手紙をやり取りしないといけないなんて可哀想ね」


 (好きな人が四六時中傍に居るのも嫌だけれど)


 心の中で付け足してアメリアは呟く。


『お前が他人の恋心を語るなんてな……。明日は雨か……』


「失礼ね」


 手のひらにちょうど隠れるぐらいの小さな手紙を隠しながらポケットにしまう。


「この手紙いつ渡せばいいかしら」


『今日はもう無理だな。お前と違ってビオナ姫は忙しいから、明日の式典後のパーティーなら渡せそうだな』


「そうね」

 

『明日に備えてとっとと帰るぞ。明日はきっと俺を刺した相手が解りそうな気がする。俺の予感は当たるんだ』


 できれば今すぐにでも手紙を渡してあげたいが、無理ならば仕方ないとアメリアは諦めた。

 

 (そういえばクラウスの事、全く進んでいないわね)


 アメリアに取ってクラウスが誰に刺されたかはどうでもいいが、早く元の体に戻ってほしいと思った。



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