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城にたどり着いたアメリアを見て門番をしていた騎士が何事かと表に出てきた。
「どうかしましたか?」
「大変なのよ。私はビオナ姫の護衛騎士隊長 アーサーの妹です。朝散歩して居たら、クラウスが道で倒れていたの!それも怪我をしているみたいでどうしたらいい?!」
息を切らしながら早口で言うアメリアに門番の騎士が驚いて目を見開いた。
「えぇぇ?クラウスさんが?アーサー隊長に連絡しますね」
「お願いします」
連絡に走った騎士の背にアメリは息を切らしながら頭を下げた。
日頃の運動不足のおかげで収まらない息切れと、急な運動で足がガクガクと震えていて立っているのもやっとだ。
アメリアの息が整う前に、兄のアーサーが小走りで門までやって来た。
アメリアと血が繋がっているとは思えないほどアーサーはにておらず人一倍大きな体が遠くからでもすぐわかる。
3つ年上の兄アーサーは2メートル近くある巨体で、筋肉も人一倍大きく裏ではゴリラ男と呼ばれているのアメリアは知っている。
そんな兄に似なくて良かったと無表情に近づいてきた兄を見上げて再度思った。
「クラウスが怪我をして倒れているだって?」
「そうなの!酒場の汚い裏路地に倒れていたのよ。声を掛けても意識が無くて、そのまま力なく地面に横たわったと思ったら怪我をしていて血が流れていたわ!」
早口に言うアメリアをじっと見つめてアーサーは大きく息を吐いた。
「引きこもりに近いお前がなぜ早朝から外に居るんだ?」
「今、そこに引っかかる?私だって散歩ぐらいするわよ」
「この早朝に?昼まで寝ているお前が?」
自分と同じ青い瞳に見下ろされアメリアは大きく頷いた。
「今日はなぜか早起きしたの!早く助けないとクラウスが死んじゃうかもしれないわよ!それぐらい大怪我なのよ」
だらしがないアメリアの事を兄であるアーサーは全く信用していないようだ。
嘘をついているような目で見つめられてアメリアはたまらずに兄の大きな手を引っ張った。
「本当なのよ!あのクラウスが何者かに刺されて倒れているの!助けてあげて」
「クラウスの事を毛嫌いしていたお前が助けてなんて……。俺を罠にはめようとしていないか?」
渋々というような状態でアメリアに引っ張られながらアーサーはやっと歩き出した。
それでも妹を信用していないのか疑心の目を向けられる。
「どうして私がお兄様を罠にはめるのよ!」
「お前、小説家になるとか言って家に引きこもって5年か?そのネタ探しの為に俺を試しているんじゃないだろうな」
女性達の間で人気の恋愛小説を読んだアメリアはすぐに感化されて小説家になる!と言い出して5年。
小説を書きだしたが終わらせたことは無い。
ネタ集めと称してたまに出かけるが殆ど本を読んで過ごしているアメリアを胡散臭げに見ているアーサーにアメリアは首を振った。
「本当にクラウスが倒れているのよ!早く行かないと凍死しちゃうかもしれないわよ。傷も深そうだし本当に死んでしまうかも」
巨体のアーサーを引っ張りながらアメリアは大きな通りを歩き裏路地へと入る。
開店前の店を通り抜けて、薄汚れた通りへ入り酒場の裏へと二人で入る。
「こんな汚い場所にあの潔癖のクラウスが居るとは思えないが。俺を騙しているだろう、アメリア」
「お兄様を騙して良い事なんてあるはずが無いでしょう!」
大きな巨体の持ち主であり、父が早くに亡くなり現在当主である兄を騙していいことは無い。
家を追い出されてしまったら元も子もないのだ。
アメリアの小説家になるという宣言を応援はしなくとも無視してくれているだけでもありがたいのに、どうして兄をだますのだろうか。
信用しない兄の手を引っ張りクラウスが倒れている場所を指さした。
アメリアが見つけたまま、クラウスはその場でピクリともしておらず血だまりの中倒れている。
アーサーは顔を顰めてクラウスの傍らに膝をついてしゃがみこんだ。
アメリアが寒くない様にとかけた肩掛けが頭を覆うようにかかっておりクラウスの顔は見えない。
「これはお前の肩掛けか?」
「そうよ。寒いだろうと思ってかけてあげたのよ」
「お前が?これは本当にクラウスなのか?俺を騙すための人形か?」
「まだ信用していないの!?信じられない。ほら、クラウスよ」
自分を信用しない兄に呆れながらアメリアはクラウスに掛けた肩掛けを取った。
青白い顔をしたクラウスが横たわっているのを見てアーサーはますます顔を顰める。
「まさか、お前が殺したのか?」
「やる訳ないでしょう!どうして私がクラウスを殺すのよ」
「昔からバカにされていたから仕返しをしたのではないか?」
クラウスの傷を確認しながら言うアーサーにアメリアは頬を膨らませた。
「お兄様、それは私に失礼でしょう!そこまでクラウスに恨みはないわよ!ちょっと嫌な奴って思っている程度だから」
「まぁ、クラウスも引きこもりのお前にやられるほど馬鹿じゃないか」
「失礼ね。それでクラウスは大丈夫なの?」
アーサーの後ろから覗き込みながらアメリアは聞いた。
死人のように青白い顔をしているクラウスはピクリとも動かない。
「どうだろうな。かろうじて心臓は動いているようだが、危険な感じがするな。クラウスの実家に運ぶからお前は医者を城から呼んで来い」
「わかったわ!」
アーサーは表情を変えず言うと軽々とクラウスを抱き上げると歩き出した。
兄がクラウスを運んでいるのを確認してアメリアはまた城へと走り出した。
運動不足で膝がガクガクしていたが人の命がかかっているのだ。
気力を振り絞ってアメリアは城へと向かった。