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 部屋の中に漂う花の香りを嗅ぎながらアメリアはビオナ姫に頭を下げた。


「お久しぶりでございます」


「久しぶりね。どうぞ、おかけになって」


 少し微笑んだだけなのにビオナ姫の周りが輝いて見える。

 なんて美しい人なのだろうとボーっとしながらアメリアはビオナ姫の前へと腰かけた。

 机の上には美味しそうなお菓子が並んでいて、すかさず侍女のケイトがお茶を出してくれる。


「クラウスの様子はどう?」

 

 心配するような顔をして聞いてくるビオナ姫にアメリアは愛想笑いをうかべた。


「変わりありません。ずっと寝ているばかりでまだ意識が戻りません」


「そうなの。心配ね。でも大丈夫よ、きっと良くなるから」


「ありがとうございます」


 すぐ隣で霊体のクラウスが立っているとは言えずアメリアはお礼を言いつつ紅茶を飲んだ。

 

「ところで、お願いがあって……。来週、クエール王国を招いて式典があるの。招待状をおくったでしょう?」


「はい。ご招待ありがとうございます」


「クエール王国を代表してアリッサム王子が明日から城に滞在をする予定なのだけれど、できれば手紙を渡してほしいの」


『ほら見ろ。やっぱりな!絶対断れよ!お前が密かに手紙を渡せるはずも無いし、王子に会いに行ったら不審がられるぞ』


 横で口を挟んでくるクラウスにアメリアも心の中で頷いた。


「あの、私には無理です。きっとアリッサム王子に会いに行ったら怪しまれます」


「大丈夫。偶然を装って庭ですれ違った時にそっと渡してもらえれば。ねぇ、お願いよ」


 ビオナ姫に手を取られ、大きな青い瞳からアメリアは目が離せなくなった。


 じっと見つめられると吸い込まれそうなほど美しいビオナ姫の瞳。

 気がつけばアメリアは暗示にかかったようにゆっくりと頷いていた。


「ありがとう。助かるわ」


 涙を拭きながら喜んでいるビオナ姫を見つめてアメリアは小さく首を傾げた。


「どうして頷いてしまったのかしら。王族にはそういう変な力があるの?」


『阿呆!それはお前の意志が弱いからだ!』


 クラウスが横で怒鳴っているがアメリアはなぜ頷いてしまったのか心底不思議で仕方ない。

 あの青い瞳を見つめているとなぜか断れなくなるのだ。


「さすがアーサー隊長の妹さんね。クラウスがアメリアさんに恋をする気持ちがわかるわ。凄く優しいんですもの」


 ビオナ姫の言葉にクラウスは首がもげるかと思うほど首を振っていた。







『阿呆!お前は本当の阿呆だ!』


 ビオナ姫とお茶が終わり、なぜ頷いてしまったのだろうかと首をかしげながら店が並んでいる大通りをアメリアは歩く。

 コートを羽織っていないため寒さはあるが、日差しのおかげで行きより冷たさは感じない。

 お昼を過ぎたこともあり、人が多く行き交っている。通り過ぎる人たちは隣を歩くクラウスを人々が突き抜けていく。


「そんなに阿保って言わないで。私だってどうして頷いてしまったのか不思議なのよ」


『ビオナ姫が美しすぎるのと、頼みごとが上手いからだろう。お前みたいな洋服一枚しか持っていないような女が涙を貯めて頼み込んでも誰も頷かないだろうよ』


「それは言いすぎだと思うのよ」


 そう言いつつ、クラウスの言う通りだとアメリアは大きく息を吐いた。

 城の中で働いている女性達は皆綺麗でキラキラと輝いていた。

 アメリアは自分の洋服を見下ろしてもう一度ため息をつく。


 慌ててアイロンをかけてもらったが、少しだけ年齢に合わない服を着ている自分が急に恥ずかしくなってきた。

 パールも、登場人物が着ている洋服をわざわざ仕立ててそれを見ながら小説を書いているという話を聞いたら自分の知識の浅はかさに気づく。


「やっぱり流行に敏感でないとだめね。古臭い服を着ている登場人物なんてそんな小説売れるはずが無いもの」


 すっかり落ち込んでいるアメリアに今度はクラウスが首を傾げた。


『何の話をしているんだ?流行の話なんぞしていないんだが』


「お城に行って痛感したわ。女性達はみんなキラキラ輝いていたから私の取材不足だったって。それを物語に取り入れないと売れる小説は書けないのよ」


『お袋みたいなことを言わないでくれ』


 呆れているクラウスを連れてアメリアは仕立て屋の前で立ち止まる。

 今まで数回しか訪れたことが無いが、今日はパールと待ち合わせをしているのだ。

 舞踏会のドレスを作る約束をしていて時間もちょうどいいことを確認してドキドキしながら店の中に入る。


 店の中に入るとパールが手を振ってすでに待っていた。


「パールおば様、お待たせしてすいません」


 時間ぴったりに来たはずだが、パールが座っている机の上には少しで飲み干しそうなお茶が置かれている。

 

「私が早く来ただけだから気にしないで。未来のお嫁さんのドレスを決めるの楽しくて、ついついいろいろ見てしてしまったわ」


 ウフフっと笑って言うパールにアメリアとクラウスは固まった。


『未来のお嫁さんだと?いくら何でも話が飛躍しすぎだ』


 低い声を出しているクラウスを無視してアメリアはパールが勧めるまま椅子に座った。

 店内は最新のドレスやワンピースが飾ってありアメリアは目を見開いドレスを見つめる。


「おば様、私も最新のドレスや服を研究しないといい物語が書けないって気づいたわ」


 小声で言うアメリアにパールは頷いた。


「そうよ。トレンドを追いかけないと、少女たちは読んでくれないのよ。そして今度アメリアちゃんがご招待されたパーティー、私も行きたかったわ。クエール王国の王子が出席されるなんて歴史的な瞬間よ。ぜひ観察してきてね、そして私に教えてね」



「はい」


 アメリアが頷くのを見てパールは安心したように微笑んだ。

 それを見ていたクラウスがまた低い声を出す。


『くだらないことを話してないでさっさとドレスを作れ。そして普段着も見繕ってもらえ』


 怒り出しそうなクラウスを見上げてアメリアは頷いた。


「パールおば様、クラウスが煩いからドレスどれがいいか教えて」


『俺が煩いって余計なお世話だ!』


 クラウスの姿が見えないパールは機嫌よく頷いて流行を取り入れたドレスを何着か店員に言って取り出してきた。


「とにかく色が重要よ。目立たないドレスのデザインだけれど色は今年の流行を押さえておけば女性達に陰口をたたかれないわよ」


「陰口……」


 物語でよく見る女性達の嫌な陰口が本当にあるのかとアメリアは小さく呟く。

 今までパーティーそれも王族が出席するようなものは出てこなかったために想像もしたことが無かった。


「特に、アメリアちゃんはクラウスの想い人と言われているからそりゃ冷たい視線が集まると思うわ。でもこれも創作の糧にできるのよ」


「そうか。確かにいいネタにはなるわね」


 暗い気分だったが、パールの言葉で一気にやる気が出てくる。


『お前らはすぐに創作の話になるんだからくだらない。さっさとドレスを決めろ!』


「そうだった」


 クラウスに促されてアメリアは気を取り直してパールが選んでくれたドレスを眺める。

 色はどれも今年の流行色の青色、スカートの長さや袖の長さが違っている。


『スカートは長い方がいい!肌を露出させるな。変態じじぃに触られるかもしれないからな』


 アメリアが選んでいる横で口煩くクラウスが言う。

 

「うるさいなぁ。クラウスが変態じじぃなんじぁないの?少し肌を見せたくらいで触る人なんて居るかしら」


 眉をひそめて言うアメリアにクラウスは真剣な顔をして膝上の丈のドレスを指さした。


『こんな短いスカートをはいてみろ。変態じじぃに襲われるぞ』


「クラウスってば考えすぎよ」


『俺が警備をしていて目撃をしたことがあるから言っているの!若い女性で肌が露出していると変態じじぃに襲われるんだよ。そういう報告が上がっているの!』


「私は膝丈のスカートが可愛いと思っていたのに……」


 クラウスのあまりの煩さにアメリアは仕方なく、くるぶしまで隠れるスカートを選ぶ。

 年齢的に短くてもおかしくないと思っていたが、クラウスが許さないのだ。


「パールおば様。クラウスが煩いから私、このドレスにするわ」


「クラウスお勧めのドレスね。好きなこのドレスを選ぶ息子……見て見たかったわ」


 自分の息子が婚約者にドレスを選ぶ姿を想像しているパールにクラウスは冷たい目を向ける。


『その妄想癖いい加減にしてくれ』


 クラウスは呆れながらも、アメリアの普段着やコートを選ぶと自分の事が見えていない母親に向き直る。


『全部俺につけてくれていいから』


「えっ?本当に?」


 アーサーが全部買ってくれると言ってくれていたが、アメリアが想像していたよりも量が多くなってしまったために、心苦しかったのだ。


『いいよ。お前にも迷惑が掛かっている詫びだ』


 照れくさそうに言うクラウスが可愛くてアメリアは胸がときめいた。

 それを押さえつつ、クラウスの支払いだとわかると他のドレスも指をさす。


「おば様、クラウスが全部買ってくれるって。だから、あのコートも頂くわ。私、洋服類全く持っていないのよ」


「いいわねぇ。私もクラウスに買ってもらおうかしら」


 ウフフっと笑うパールをクラウスは指をさす。


『母親のドレスは買わないぞ!』








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