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「大変だったわ。お母様に言い訳するの。すっかり私とクラウスは恋人同士になっているわよ」


 うんざりするアメリアにクラウスも頷く。


『俺の体が元に戻ってから色々考えるしかないな。今は俺がお前に思いを寄せていることにしておいた方がスムーズに事が進むからな』


 ビオナ姫の招待状を貰ったこととドレスを作る事などを説明するにあたりしどろもどろのアメリアにアーサーはクラウスがアメリアを好きだったようだという爆弾発言をしたせいでエマは喜びすぎて倒れてしまったのだ。

 あの神経質で潔癖っぽいクラウスがアメリアを気にかけていたなんて!と驚きが多すぎたせいで貧血を起こし今でも床についている。


「でも失礼よね。クラウスが私を好きだったようだって知っただけで倒れる母親ってどれだけ娘を信用して無いんだって話よ」


 プリプリ怒りながらクラウスの屋敷へ向かって歩くアメリア。

 その横を歩くクラウスは苦笑しながら頷く。


『確かになぁ。一人娘の割に酷い言い草だけれど。お前だってあの汚い部屋にだらしがない生活態度からしたら仕方ないと思う。おばさんも大変だよな。お前の嫁入り先が見つかったかもしれないってそりゃ喜ぶだろうな。気持ちはわからないでもない』


「クラウスも失礼よ!私は売れっ子小説家になるんだから!結婚しなくても大丈夫なの」


『それでも心配するのが親って言うものだ。あのだらしなさでは仕方ないな。そしてお前の小説が売れるわけない』


「クラウスも失礼よ」


 傍から見たらひとりごとを言っているように見えるアメリアは他人の目も気にせず歩き続ける。

 アメリアの自宅から城へ続く大通りを出て歩いているとクラウスは通りを指さした。


『この細道を通った方が俺の家に近い』


 城へと続く大きな通りは左右に店が並び人通りも多く賑わっている。

 細道へ入ると、場所によっては治安が良くない道もあるためにアメリアはクラウスを見上げた。

 

「大丈夫なの?ちょっと薄暗い道だけれど」


 天気が良く晴れているがクラウスが指さした道は細いためか少し薄暗い。

 心なしか道も薄汚れているように見える。


『大丈夫だよ。俺は城から帰るときよくこの道を通るからな』


「まぁ、クラウスがそう言うなら行くけれど」


 アメリアはそう言いながら細道を入っていくとクラウスも後ろからついてきた。


「ねぇ、クラウスが怪我をした日も近道をしようとしたの?家に帰るには全く別の道だけれど」


『どうかな。体調が悪かったことしか覚えていない。意識が混濁していたから道を間違えた可能性があるなぁ』


「誰に刺されたのかしらね。クラウスの体は元気かしら」


「クラウスの事が心配かい?」


 細道を通りながらアメリアが呟くと後ろからクラウスではない声が聞こえた。

 低く優しい声に驚いて振り返ると、クラウスと同じ黒い騎士服を着た背の高い男が立っていた。

 黒く短い髪の毛に黒い瞳。

 クラウスは近寄りがたい美形だが、この男はニコニコとしていて優しい雰囲気が漂っている。

 

 笑みを浮かべている男をアメリアは首を傾げて見上げた。

 アーサーと同じ騎士服を着ていることから城の騎士だという事が解るがアメリアは初めて見る男だ。

 


「えっと、兄のご友人ですか?」


 誰だかわからず聞くと男は笑みを深くする。


「アーサー隊長の同僚でレスティノだ。アダン王子の護衛騎士隊長をしている。ゴリラ男の妹にしては可愛いね。てっきりゴリラそっくりだと思っていたよ」


 アダン王子はビオナ姫の2番目の兄だ。

 第一王子がバスティア、その下にアダン王子、ビオナ姫と三人兄弟。

 アメリアはアダン王子と直接会ったことは無いが遠目で見た事がある。

 

 バスティアよりも優しい雰囲気のビオナ姫と似ている穏やかそうな男性だ。

 

(優しそうなアダン王子についている護衛騎士の方も優しい感じなのね。無表情で何を考えているか分からないお兄様とは大違いだわ)


 ニコニコと微笑んでいるレスティノを見上げてアメリアも微笑んだ。


「兄がお世話になっております。アーサーの妹のアメリアと申します」


 アメリアが頭を下げるとレスティノは驚いたように目を見開く。


「アーサーの妹は引きこもりの変人だって噂だったけれど、可愛いしちゃんとしているのだね。驚いたよ。クラウスも君を取られたくないから君を変人だって言っていたんだな」


「えっ?クラウスが私の事を言っていたんですか?」


 幼少期以降会っていないのに、なぜ自分の噂をするのだと空気のように横に立っているクラウスに視線を向ける。

 クラウスはばつが悪そうに視線を外した。


「アーサーの妹はどんな子なんだろうかと噂になったことがあるんだよ。ゴリラの妹だろう?みんな興味を持つよね。そうしたらクラウスが”ゴリラの血を引いているんだからゴリラに決まっているだろう。それに加えてだらしがない女だ”って言っていたから。あっという間にその噂が広まったからねぇ」



「酷い!」


 ムッとするアメリアにクラウスは冷たい目を向けてくる。


『だらしがないのは本当だろう!』


「まぁ、まぁ。クラウスも可愛い想い人を取られたくなかったんだよ。最近再会して、クラウスが君に惚れたんだろう?」


「えっ?」


(クラウスが私に惚れている?)


『そういう設定だ!設定!』


 顔を赤くするアメリアにクラウスは耳元で大きな声を出した。

 

(そうだったわ。お兄様が何を言ってごまかしているか分からないから困るわね)


 すっかりクラウスが自分に惚れていると思ってしまいアメリアは軽く頭を振った。


「想いが通じ合ったとこでクラウスが何者かに襲われて生死を彷徨っているなんて心配だろうね」


『そんなくだらない設定を世間が信じていると思うと泣けてくるな』


 クラウスが不満そうに言っているのを無視してアメリアは愛想笑いをしておく。


「そ、そうですね。少し忙しくてクラウスの様子を見に来られなかったから心配で……」


「そうだろうね。クラウスが怪我をしたおかげでビオナ姫とも懇意にしているようだね。僕の妹が羨ましがって大変だよ」


「妹さんがいらっしゃるのですか」


 愛想笑いをうかべているアメリアの横でクラウスが今まで見た事が無いぐらい顔をしかめている。


『あの女か!すごい積極的で追い払うのに苦労しているぞ!毎回、毎回、お前ちゃんと妹を見張っておけ!』


 アメリア以外に聞こえないのをいいことにクラウスはレスティノを指さして文句を言っている。

 

「クラウスの事が大好なようで、寝ても覚めてもクラウスのことを話しているよ。ちょっと嫉妬深い所がある妹だけれど気はいい子だから仲良くしてやってね」


「はぁ」

 

 クラウスの様子からして間違いなく仲良くなれそうにないと思いながらアメリアは頷いた。


「ビオナ姫とも仲良くなればクラウスと恋人同士になれるかもしれないと夢見ているような子だからちょっと厄介だけれど、今度のパーティーに参加予定だから良かったら話してあげてね」



「はい。私も楽しみにしています」


 ちっとも会いたいと思わないが愛想笑いをうかべてアメリアは言った。


 アメリアの交友的な返答に気を良くしたのかレスティノはますます笑みを深くする。


「ありがとう。じゃ、僕はもうクラウスの様子を見てきたからここで失礼するね」


「はい。失礼します」


 アメリアが頭を下げて歩き出すとレスティノは笑みを浮かべながら声を掛けてきた。


「そうだ、あまり細い道は近道でも危ないから通らない方がいいよ」


「クラウスにこの道が近いって教えられたんです。今度から私もちゃんとした道を通ります!」


 アメリアが宣言するとレスティノは笑みを浮かべたまま手を振って歩いて行った。


 その背を見送りながら隣に立っているクラウスを見上げる。


「凄くいい人ね。優しいし、美形だし」

 

 鋭い雰囲気のクラウスとは違い、優しい太陽の様な雰囲気を持った爽やかさのレスティノにうっとりしながらアメリアが呟いた。


 クラウスは胡散臭そうな顔をして去っていくレスティノの背を見る。


『顔に惑わされるなよ。あいつは絶対裏がある。妹が酷い。私と付き合ってくれとか、待ち伏せして言われるんだぞ!』


「で、クラウスは”邪魔だ。どけっ”って言ってるの?」


 クラウスの口調をまねして言うアメリア。


『阿呆!俺は真面目で無口な騎士なんだよ。黙って軽く頭を下げて去るのみ』


 きっぱりと言うクラウスにアメリアは疑心の目を向ける。


「嘘だぁ。絶対文句を言っているか、殺してやるって目で見ているはずよ。私の汚い部屋を見た時、霊体の癖にそんな目をしていたわよ」


『お前は別だ。今更演技をしても仕方ないし。あの汚い部屋に俺が居られると思うか?』


 じぁ、出て行けばいいじゃないという言葉を飲み込んでアメリアは口を尖らせる。

 少し前までは鬱陶しいと思っていたクラウスの存在が、好きだと意識をしだしてから霊体でもいいから傍に居てほしいと思うようになっている。


(あの時はビオナ姫に全く同調できなかったけれど、今なら少しわかるわ)


 自分は別だと言われてクラウスが本心で接してくれるのは少し嬉しい気がしてアメリアは微笑んだ。


『なに笑っているんだ?気持ち悪い』


「酷い……」


 クラウスの事を想ってほほ笑んだだけなのに、気持ち悪いとは失礼ではないか。

 アメリアは少しだけクラウスを好きなことを後悔しはじめた。




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