12
落ち着かない気分でアメリアは勧められた椅子へ座る。
視線を上げれば頬笑みを浮かべているビオナ姫の青い瞳と目が合った。
「アメリアさんはアーサー隊長の妹なのですって?」
綺麗な長い指でティーカップを持ち上げてビオナ姫は優雅に問いかけた。
ささくれ1つないビオナ姫の指はピンク色のネイルがされていて指先まで輝いている。
アメリアは辟易としながらゆっくりと頷いた。
「は、はい」
緊張して何を話せばいいのかさっぱり分からないアメリアにビオナ姫はクスクスと笑う。
「アーサー隊長の妹さんはどんな方かと思ったけれど可愛らしい方ね。クラウスが信用するのもわかるわ」
『信用なんてしてない!』
アメリアの横に立ってクラウスが否定するがその声はアメリア以外には届かない。
アメリアもクラウスを無視をして首を傾げる。
「クラウスは私を信用していませんよ」
「あら?だって、クラウスが刺された時にデートの待ち合わせをしていたのでしょう?だから刺されたクラウスをアメリアさんが見つけたのよね。アメリアさんが介抱しているときに、命の危機を感じたクラウスが愛を囁いたとか」
うっとりしながら話すビオナ姫にアメリアとクラウスは眉をひそめた。
アーサーが付いた嘘にうんざりしてしまうが、ビオナ姫にこれは嘘ですとも言えずアメリアは表情を和らげる。
(いけない。思わず険しい顔をしてしまったわ)
「素敵ねぇ。恋は人を幸せにするわよね」
「はぁ」
同意を求められてもクラウスに恋をしていたわけではないから困るとアメリアは曖昧にうなずいた。
「死にそうなクラウスが私の事を心配していたらしいの。その仕事を頼むと託されたのでしょう?アメリアさん」
「仕事?」
何のことかわからずクラウスをちらりと見る。
クラウスはばつの悪そうな顔をして頭をかいている。
『多分、あれだな。ビオナ姫の想い人アリッサム王子の手紙を届ける係。俺が託されていたんだよ』
(そんな仕事大変じゃない!)
アメリアが目でクラウスに訴えると彼は肩眉を上げた。
『俺とゴリラ男は婚約者がいない、または恋人がいないからな。ビオナ姫が隠れてアリッサム王子と会うときに俺と出かけて落ち合っていたりしたからなぁ』
(だから、ビオナ姫とクラウスの恋愛しているって噂が出たのね!)
アメリアは心の中でクラウスとアーサーに訴えた。
アメリアのいう事が解るのかクラウスは頷く。
『ゴリラ男じゃ姫様と噂も立たねぇだろう。隠れ蓑にもならないゴリラだとすぐにアリッサム王子の事がバレてしまう。で、俺が選ばれたわけだ。実は刺される前の日、ビオナ姫に手紙を渡してくれと頼まれていたんだった。すっかり忘れていた』
返答を待っているビオナ姫を思い出してアメリアは首を振った。
「瀕死のクラウスが何か言っていた気がしますが、私は何も聞いていません」
アリッサム王子とビオナ姫が恋仲なのはいいとして、両国は微妙な距離感だ。
政治に疎いアメリアでも、アリッサム王子と通じていると知られたら下手したらありえない罪をきせられ牢獄いきになりそうだと必死に首を振る。
100年前の戦争をまだ引きずっている節があり、もう一度戦争をしアリッサム王子の国クエール王国に今度こそ勝利するなどと息巻いている派閥があることもアメリアは知っている。
そんな人たちにアリッサム王子と通じていると知られたら殺されてしまうかもしれない。
「お願いよ。微妙な立場なのはわかっているの。でも、恋する気持ちは止められれないのよ。会いたいけれど、会えない。せめて手紙だけでも届けてくれないかしら」
「そんな、私にはできません。他の人を当たって下さい」
きっぱり断るアメリアにビオナ姫の大きな青い瞳から涙がポロポロと落ちていく。
水晶のように美しい大きな涙の玉が綺麗な頬を伝い落ちていく。
まるで芸術のように美しい泣き顔を見つめているアメリアの手をビオナ姫の美しい手が包み込む。
「貴女しかないわ。信用できる私の護衛騎士は皆断わられてしまったの」
(そりゃー。そんな危ない役割誰でも断るわよ!どーしてクラウスは引き受けていたのよ!まさかビオナ姫に恋をしていたのではないの?)
ハッとしてアメリアは横に立っているクラウスを見上げた。
口には出していないがアメリアの想像していることが分かったのかクラウスは首を振る。
『お前が思っていることじゃないからな!ただ、俺の将来の為だ!媚を売っておけばその分リターンが大きいからな!』
断言するクラウスに嘘はついていなさそうだとアメリアはため息をつきそうになる。
まだビオナ姫に恋をしていたとか、二人の恋を応援していたとか言って欲しかったが自分の為だと言い切るクラウスは見ていて逆に気持ちがいい。
(そいう所は昔と変わっていないわね)
ごみを見るような目で見られることは無くなったが、自分のために生きるという事を隠すことなく言ってくれたことはありがたい。
これで断ることが出来るとアメリアは再度涙を流しているビオナ姫を見つめた。
「ビオナ姫に協力をしたい気持ちはありますが、兄に迷惑をかけることはできません。他の人を当たってください」
「そんな。大丈夫よ。お願い、私を助けて……」
大きな青い目が美しすぎて、アメリアは思わず頷いてしまいそうになる。
『ダメだ。阿保なんだからお前にはできないだろう!もし、反派閥のやつらに見つかったらいいがかりをつけられて捕まるぞ』
横からクラウスの声が聞こえるがビオナ姫の大きな青い瞳から目を逸らすことが出来ない。
美しい姫が悲しんでいると何故か自分まで悲しくなりどうにかして助けたくなる。
自分に縋りついてくる弱々しい美しい姫が可哀想で、アメリアはゆっくりと頷いた。
「手紙を届けるのは出来ませんが、協力できることはします」
「嬉しい。ありがとう」
思わず言ってしまった言葉に、アメリアが後悔をしている横でクラウスが大きな声を出した。
『阿呆!そんなもん引き受けたらお前みたいな阿呆はすぐに言いがかりつけられて捕まるかもしれないんだぞ』
「解っているわよ。でも、姫様が可愛そうじゃない」
アメリアは小声で言うとクラウスは大きなため息をついた。
『それがこの姫様のやり方だよ。本人は気付いていないが、庇護欲をそそらせるのが上手いんだよ!』
呆れているクラウスの後ろでアーサーも呆れたように大きなため息をついていた。




