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「ここが、夢にまで見たお城!想像ではなくてこれで真実に基づいて小説を書けるわ!」


 口をあんぐり開けて城の天井を見上げているアメリアを見向きもせずアーサーは歩いて行く。

 ビオナ姫とのお茶会当日、アーサーに連れられて城にやって来たアメリアは煌びやかな装飾を見て入口から感動をして動くことが出来ない。


『さっさと中に入れ。阿保みたいに感動して見上げていると田舎者に見られるぞ』


 耳元でクラウスに怒鳴られてアメリアは渋々歩き出した。

 薄暗い廊下を歩くアーサーを小走りに追いかける。

 

 灰色の石作りの廊下を歩いていると兄と同じ黒い制服を着た騎士達の視線を感じアメリアはそれとなく目を伏せた。


 「凄い見られている気がするわ」


 騎士だけでなく、青い制服姿の侍女達もアメリアを見ているのが解る。

 横を歩くクラウスに囁くと、当たり前だという目で見られた。


『ただでさえビオナ姫がお誘いした女は誰だって見るだろうな。どの令嬢もお茶のお誘いはされていないからな』


「そうだったの?」


 驚いて声を上げるアメリアに前を歩いていたアーサーが視線だけを向けてくる。


「独り言を言っているように見えるぞ」


「そうだった!誰にもクラウスの姿は見えないんだったわ」


 アメリアは慌てて口を噤んでクラウスの存在を無視しようとアーサーの後ろを歩く。

 ただでさえ注目をされているのに頭が可笑しいと噂されたら小説家としてお終いだ。


 アメリアは極力前を向いて歩き続けると、金色の煌びやかなドアの前に二人の騎士が立っていた。

 その前でアーサーは立ち止まる。


「ビオナ姫がお待ちだ」


 無表情に言うアーサーにアメリアは緊張しながら頷いた。

 ドアの前に立っていた騎士二人はアーサーに敬礼をするとジロジロとアメリアを見る。



「お疲れ様です。妹さん全く似てないですね」


 茶色いフワフワの髪の毛をした少年がニコニコと愛想よくアーサーに言った。


 ゴリラ男と呼ばれている兄に似ていると言われたらショックで寝込んでしまう。

 アーサーとアメリアは二人して頷いた。


「俺に似ず体力もなければ根性も無いやつだがよろしく頼む」


 無表情に言うアーサーにアメリアは精一杯愛想のいい笑みを浮かべて軽くお辞儀をした。


「兄がお世話になっております」


「めっちゃ可愛いじゃないですか。早く紹介してくれればいいのに、クラウスさんが相手じゃ勝てないし。残念だったなぁ」


「可愛いですって」


 褒めてくれたことが嬉しくてクラウスに囁くとバカにしたような顔をする。


『見た目だけを褒めているんだ。中身はだらしがない糞みたいな女だとわからないからな』


「失礼ね!」


 小さな声で言ったつもりだが、ドアの前に立っていた騎士二人はアメリアを不思議な顔をして見ている。


「クラウスが倒れてから、心労で独り言を言うようになった」


 アーサーが言うと、騎士達は深く頷いて可哀想な子を見るような目で見つめてきた。


「あー……。クラウスと恋人同士だったんでしたっけ?そりゃ落ち込みますよね。でも、クラウスさんの見た目は綺麗だけれど、性格悪いっすよ」


「そうそう。あいつ俺等の前では性格悪い癖にビオナ姫や女や他の部署の前ではいいやつ気取っていたよな」


「顔だけですよあんな奴。どうせ恨み持たれた女に刺されたんですよ。本当の性格は悪いからそれがバレたんだろうね」


 本人を前にして悪口を言う騎士二人を見てクラウスはフルフルと拳を握る。


『俺の性格が悪って各方面に言いふらしているのはお前らか!』


 クラウスは殴りかかるが悪口を言っている騎士に拳が当たらない。

 スカスカと空気のように拳が騎士に当たらないため舌打ちしてクラウドは騎士を睨みつけた。


『お前、元に戻ったら覚えてろよ』


 もちろんクラウスの声が聞こえない騎士はアメリアを見て微笑んだ。


「ビオナ姫がお待ちです。どうぞお入りください」


 クラウスの無駄な努力を眺めながらアメリアは軽く微笑んで頭を下げた。


「ありがとうございます」


 ゆっくりと部屋に入るアメリアの耳に騎士達の声が聞こえた。


「なんだ、普通の可愛い子じゃないか。ゴリラ男の妹だからゴリラ女だとか、だらしがない女だとか言われていたけれどただの噂だったんだね」


「そうですね。クラウスさんが相手じゃなければなぁ」


 ドアが閉まる寸前に聞こえた騎士達の声にアメリアはにんまりと微笑んだ。


「ちょっと聞いた?私ってもしかしてモテるのかしら」


『ゴリラ男の妹だからゴリラだろうと思われていただけだ。決してお前がいい女だというわけではないぞ!だらしがないのは本当の事だろう!』


 何故か怒りながら言うクラウスにアメリアは肩をすくめる。


 部屋に入ると花のいい香りが漂い、アメリアは大きく息を吸い込んだ。

 心が落ち着く匂いを嗅ぎながら、部屋を進むと一人の侍女が進み出てきた。

 年頃は40代だろう、にこやかな顔をしてアメリアに軽く頭を下げる。


 「ご足労ありがとうございます。私は、ビオナ姫が生まれた時からお世話をさせていただいているケイトと申します」


「アメリアです。兄がいつもお世話になっております」


 アメリアが頭を下げると、ビオナ姫の護衛騎士隊長であるアーサーをちらりと見てケイトは苦笑した。


「まぁ。アーサー隊長とは似ておられないのですね。ようございました」


「そうですね」


 どれだけ兄と似ていると噂されていたのだろうかとアメリアも苦笑する。

 

「ささ、ビオナ姫がお待ちでございます。どうぞ」


 ケイトに案内され、アメリアは部屋の中へと入っていく。

 

 通路を通り、ケイトが金の縁取りの大きなドアをノックした。

 

「ビオナ姫、アーサー隊長の妹さんがお越しになりましたよ」


 ケイトが声を掛けながら部屋に入るのでアメリアも続いて入った。

 後ろからアーサーもついてくる。


 部屋に入ると椅子に座っているビオナ姫がゆっくりと振り返った。


 金色の長い髪の毛、小さなかわいらしい顔に大きな青い瞳がアメリアを見つめる。


「わぁ、凄い綺麗で輝いている!」


 見た目の美しさと内からかもし出るオーラに圧倒されてアメリアは思わず目を瞑る。

 

『ボーっとしてないで、さっさと挨拶をしろ!』


 圧倒されて動かないアメリアにクラウスがイライラしながら大きな声を出した。

 

 アメリアははっとして慌てて膝を折って挨拶をした。


「初めまして。アメリア・ブラナードです」


 緊張しながら言うアメリアを見つめてビオナ姫は優雅に微笑んだ。


「ようこそ。本日は突然お呼びして申し訳ございません」


「姫様が謝っている。すごくいい人ね」


 隣に立っているクラウスに囁くと、ビオナ姫はクスクスと笑った。


「いい人なんて言ってもらって嬉しいわ」


 小さな声で話したつもりだが、ビオナ姫には聞こえていたようだ。

 慌てて口を噤んだアメリアにクラウスが余計なことを言うなと睨みを利かせてきた。





 

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