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『おい!アメリア!朝だぞ』


 クラウスが霊体になって数日が経った。

 毎朝、クラウスに大声で起されるのも慣れてしまいアメリアは何の疑問も持たずに欠伸をしながら目を開ける。


「おはよう」

『おはよう。お前は誰かに起こされないと起きないのか……』


 頭をかきながら起き上がりクラウスと朝の挨拶をする。

 ベッドの横に呆れた顔をして立っているクラウスを見上げてアメリアは何度か瞬きをした。

 黒く鋭い瞳のクラウスと目が合う。


 目が覚めた瞬間から整ったクラウスの顔を見てアメリアは不思議な気持ちになる。


(嫌な奴だって思っていたけれど、毎日顔を合わせていると慣れてくるものね)


 それに朝起きて一番に、美形を拝めるのも悪くない。

 

 寝ている間に垂れていた涎を拭いながら起き上がり、クラウスが煩いので洗面所へ向かう。


 顔を洗って、身なりを整えるとクラウスは偉そうに両腕を組んで口の端を上げて笑って待ち構えていた。


『俺が言わないでも、朝の準備はするようになったな』


 偉そうに言われ、ムッとするが実際そうなのだからアメリアは言い返すことができない。


 クラウスに耳元でずっと大声を出されていたら誰だって言うことを聞こうと思うに違いない。


 しかしクラウスのせいで集中して小説を書くことが出来ないのでとにかく早く彼が自分の傍から消えてほしい。


 あれから少しだけクラウスが倒れていた道を歩いて情報収集をしようとしたが、何かあることも無く結局新しい発見は無かった。


「ねぇ、私の傍にずっといないで情報を集めに行ってみたらどうなの?」


 アメリアは朝食を採るべく階段を降りながら言うとクラウスは渋い顔をした。


『俺だってお前の傍にずっといるわけではないさ。城に行ってみたがとくに変わった様子はなかった』


「どうだか。私が知る限り居なくなったのは少しの間だけじゃない。一日中城に行けば恨みを持っている女性を探し当てられるのじゃない?」


『どうして女性限定なんだ!大体俺が誰かに恨みを持たれるなど考えられない』


 どこからその自信がくるのだろうかとアメリアは呆れながらキッチンに入り椅子に腰かける。

 すでに起きていた出勤前のアーサーがチラリとアメリアを見つめた。


「クラウスのおかげで規則正しい生活が送れて何よりだ」


「ちっとも良くないわよ。毎日小うるさいったらありゃしないんだから」


 文句を言っていると上機嫌の母エマが朝食を並べてくれる。


「おはよう、アメリア。毎日、早起きでお母さん嬉しいわ。ねぇ、本当にお母さん不治の病で老い先短いってことは無い?アメリアが規則正しい生活をしているなんて心配になってくるわ。お母さんがもうすぐ死んじゃうから心配させないように生活しているの?そうならはっきり言ってちょうだい」


「違うわよ。だいたい、お母さま最近医者に行っていないじゃない。どうやって病気が発覚するのよ」


 クラウスが毎朝起してきて煩いのだと言いたいがグッと我慢をする。


 朝食を頬張っているとアーサーがお茶を飲みながら思い出したように言う。


「そうだ。ビオナ姫がぜひお前に会いたいと言っていた。お茶のお誘いだ」


「やったー!お城に入れるなんて夢みたい!お兄様はいくらお願いしても見学すらさせてくれなかったもの!」


 喜ぶアメリアを見てクラウスはため息をついた。


『嫌な予感しかしない。お前がビオナ姫とお茶など最悪の展開になりそうだ』


「失礼ね!私だって礼儀作法はちゃんとできるわよ。マナー教室に通っていたから」


『絶対嘘だな』


 ボロボロとパンくずを溢しているアメリアを見てクラウスは呟いた。


 傍からは独り言を言っているようにしか見えないアメリアにアーサーは頷く。


「クラウスが何を言っているかよくわかる。確かにアメリアはマナー教室に通っていたが身についたとは思えない」


『だろうな!』


「しかし、アメリアとクラウスが一緒に居れば犯人がわかるかもしれないな」


 無表情に言うアーサーをクラウスは睨みつける。


『お前面倒だから放置しているだろう』


「そうか、クラウスを殺したいほど恨んでいる女性も探さないといけなかったわね」


 アメリアは思いついたように言うと、にやりと笑った。


(これ、小説のネタにできるじゃない。美形騎士が女性に恨みを買って殺されそうになる。売れるわね)


『考えが手に取るようにわかるな』


 ニヤニヤしているアメリアの横でクラウスは呆れたようにため息をついた。


『小説のネタ集めの前に洋服を買いに行った方がいいんじゃないか?姫様のお茶会にヨレヨレのワンピースというわけにもいかないだろう』


 クラウスに言われてアメリアは目を見開く。

 確かに洋服は片手で数えるぐらいしかない。


「そうだったわ」




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