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 アメリア・ブラナードは顔を顰めて道端に倒れている男を見つめた。

 

 城から続くメイン通りの裏路地、人通りが少ない道を今朝はたまたま歩いていたのが間違いだった。

 薄汚い酒場の壁に寄りかかって目を閉じている男性をアメリアはよく知っている。


 ビオナ姫の護衛騎士 クラウスだ。

 

 親同士が仲良かったこともあり、幼少期によく会っていたがクラウスが家に来るたび部屋が汚い、だらしがない、女としてどうなんだと言われていた。

 虫けらを見るような目で見られたことは忘れもしない。


 コイツとは一生気が合わないと思っていた。

 クラウスが騎士になってからは一切会っていない。

 それなのにどうして道で倒れているのだ。

 

 騎士服を着ていることから仕事帰りか仕事に行く途中だったのだろう。

 彼の性格からして騎士服を着用したまま酒を飲んで酔いつぶれることは無いだろう。

 と、いうことは体調が悪いということだ。



 一定の距離を置いて倒れているクラウスをアメリアは眺めた。

 固く閉ざされた瞳は長いまつ毛が影を落としている。

 しっとりとした黒い長めの前髪が顔にかかり、サラサラと音がしそうな勢いで風になびいている。

 形のいい唇はギュッと閉ざしていて呼吸をしているのか心配になってくる。


「ちょっと、生きてる?」


 一定の距離を置いてアメリアが声を掛けるが、クラウスはピクリとも動かない。

 死んでいたら厄介だと助けを求め周りを見回すが、早朝のためか人の気配はおろか城まで続く大通りの店も開いていない。

 

 クラウスと言えばビオナ姫の護衛騎士で、見た目の良さから女性達に人気の男だ。

 そんな彼が倒れていたら女性達が放っておかないだろうが不運なことに誰も通りがからない。

 

 仕方がないとアメリアはクラウスの前に座り顔を覗き込んだ。

 ただでさえ白い肌をしているクラウスの顔は青白く死人のようだ。

 

「死んでいるのかしら」


 クラウスが息をしているか耳を近づけてみる。

 微かにゆっくりと息をしている音が聞こえてアメリはホッと息を吐いた。


「良かった。一応は生きているわね。クラウスの事は嫌いだけれど、おば様はいい方だから安心したわ。一人息子が死んだら落ち込むものね」


 クラウスの母とアメリアの母は仲が良く今でも母同士は家を行ったり来たりしている。

 そのため、アメリアもクラウスの母と仲良くさせてもらっているがクラウスを実際近くで見るのは10年ぶりぐらいだ。

 

 アメリアをけなしていた頃は背も同じぐらいだったのに、いつの間にか追い越されている。

 見た感じアメリアより頭1つ分は大きそうだ。

 背の大きなクラウスの体をアメリアが動かせることはできない。

 アメリアはクラウスの肩に手を置いて体を強く揺すった。


「ねぇ。起きて!こんなところで寝ていたら風邪ひくわよ!」


 雪が降りそうなぐらい寒い早朝、地面に座り込んでいたら健康な状態でも風邪をひいてしまうだろうと一応声を掛けてみるが、クラウスの反応はない。


 何度か強く揺するとグラリとクラウスの体が力なく地面へと倒れた。

 

「ちょっと!クラウス!大丈夫?」


 気に食わないやつだが流石にアメリアも心配をして肩を何度か揺すった。

 クラウスの横たわった体からジットリとした血が流れ地面に流れている。


「ひぃぃ。血が出てる!刺されているの?」


 よく見ると腹と背中に穴が開いておりクラウスが倒れたことにより地面に血だまりが出来ている。

 騎士服が黒いために血で汚れていることに気が付かなかった。

 このままでは本当に死んでしまうかもしれない。

 助けを求めようにも朝日が昇り始めた早朝のためかまだ人の気配すらしない。


「クラウス!お兄様たちを呼んでくるからちょっと待っていてね!」


 意識が無いクラウスに声をかけてアメリアは立ち上がった。

 アメリアの兄アーサーもクラウスと同じくビオナ姫の護衛騎士をしている。

 城に行けば誰かしら助けを得られるだろう。


 アメリアは倒れているクラウスに寒くない様に肩掛けをかけるとワンピースの裾をもって走り出した。


 薄汚い裏路地から城に続く大通りへと出る。

 人が居ない石畳を息を切らしながら走った。


「あんな性格の悪いやつの為にどうして私が早朝から走らないといけないのよ!」


 クラウスを久しぶりに見たおかげか嫌なことを言われた過去が蘇ってくる。

 

 寝て起きたままのベッドをちゃんとしろと言われ。

 床に散らばっていたおもちゃを片付けろと言ってきたり。

 母親と兄以外に口煩く言うクラウスを思い出してアメリアは走りながら唇を噛んだ。

 

 注意するだけでなく、ゴミを見るようなあの視線と呆れた顔が忘れられない。

 兄や母はまだ愛があったが、クラウスは完璧に馬鹿にした顔をしていた。

 そんな奴を救わないといけないなんて!


 「覚えておきなさいよ!クラウス!」

 

 アメリアは叫びながら城へと向かって走り続けた。






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