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6. 出会い

人気のない早朝。

ベッドを抜け出すのには丁度よい時間だといつも通り城の裏にある扉から出るとメイドの少女が歩いているのが見える。

見慣れない彼女はもしかしたらレノアかもしれないと後ろを付けるつもりで動き出したが、彼女の身体がふらりと傾くのが見えた。

咄嗟に抱き止めたが既に意識は殆ど無いようで、すぐに反応しなくなってしまう。

異常なほど熱い身体に荒い吐息。

ひびとあかぎれだらけの手だけは驚くほど冷たい。

早くベッドに寝かすべきだろうと抱きかかえ、城内へと戻っていった。


「殿下、こちらにいらしたのですね。」


「ハロルド、客室に医者を。酷い熱だからすぐにでも診てもらわないと。」


「…レノア…かしこまりました。すぐにお呼びします。」


つい先日までにこにこと笑みを浮かべていた彼女は少しやつれた顔にカサカサになった唇。

生気のない顔色に内心焦りながらもすぐに医者を手配するべく動き出した。

苦しげにしている彼女の首元のボタンを外してからクイーンサイズのベッドに寝かせ、布団を掛けていると急ぎ足で医者の男性とともにハロルドがやってくる。

すぐさま容態を確認する彼に固唾を呑んで見守る二人。

しばらくすると小さなため息が聞こえてきた。


「何か悪い病気とか…?」


「いえ、ただの風邪です。」


「それなら良かった、のかな。」


「ここまで酷くなるまでなぜ無理をしたのか…この状態なら動くのも辛かったでしょう。」


「…。」


「ハロルド、何か知っているの?」


「いえ、私は何も…。」


「そう。彼女のことは僕からメイド長に伝えておくよ。先生、どれくらい休む必要がありそう?」


「まだ少女だというのに栄養状態もよくありませんから、一週間は必要かと。」


「栄養状態が良くないって…どういうこと?王室付きメイドであってもちゃんと食事をする時間は取らせるように指示されてるはずなのにな。」


「…殿下、メイド長には私から話をしておきます。」


「わかった。」


いつでも冷静沈着なハロルドだが、栄養状態が良くないという言葉に怖いほど怒気を纏ったオーラに何か知っているのだろうと彼に任せることにする。

薬を処方し出ていった医者を見送ってからベッドサイドの椅子に腰掛けると瞼がふるふると動き始めた。


「…ここは?」


「城の客室だよ。」


「お城の…!?私、こんなところで寝ている場合じゃ…。」


急いで起き上がろうとする彼女を落ち着かせベッドに居るよう諭せば不思議そうな表情でこちらを見ている。

左眼を覆う眼帯が気になるのだろう。


「これが気になる?」


「いえ?失礼ながら、貴方は何方でしょう…?」


「え、そこ?」


「ごめんなさい!御召し物でとても高貴な方とは理解しているのですが、何分まだ…。」


「隻眼の王子と言ったら有名だと思ってたのだけど、僕の思い込みだったみたいだね。」


「王子…王子様!?た、大変申し訳ございません!私失礼な態度を…。」


起き上がることを静止させていたはずだったのに布団の上で正座をして手に頭を擦り付けるようにして土下座のような体制を取っている彼女に思わず笑い声が漏れてしまった。


「あはは、僕はそんなに威圧感があるのかな。失礼なことはされていないし、今は君の身体を治すことが最優先だよ。」


「身体はこの通り、もう何ともありません!すぐにでも職務に戻り…。」


「却下。」


「?」


「さぁ、薬を飲んでもう一度眠ろうか。心配しなくても大丈夫。メイド長にはハロルドから話を通してあるからね。」


水と薬を渡せばおずおずと受け取り、勢いで飲み下したらしい。

苦味で顔を歪めながらも、抱き止めたときより少し生気の戻った顔色に少し安堵しながら布団の中へと寝かせる。

最初は本当に良いのかと不安そうな表情を見せていた彼女も薬の効果が出始めたのか。

しばらくするとすうすうと小さな寝息が聞こえてくる。


「君は面白い人だね。真顔で誰かなんて聞かれるのは初めての経験だったよ。」


「殿下、失礼いたします。メイド長には私から一週間程休むと伝えましたので…。」


「うん。それで?君はこの件について何か知っているんだろう。」


「…はい。」


やっと重い口を開いた彼から出てきた言葉に大きなため息が溢れた。

城下町の果物屋の娘が王から直々に王室付きメイドに任命されたことがメイド長の鼻についたようで、嫌がらせをされていたらしい。

女性ばかりのメイドという仕事は対人の方が大変なのだと溢していた乳母でありメイド長をしていたイレーニアを思い出した。

急逝した彼女もまた辛い経験をしていたのだろうか。


「…彼女を僕専属のメイドにしよう。」


「というと?」


「あのジャムは僕と父上にとって特別な思い入れのあるものだからね。このまま城で働いてもらいたい。でも、メイド長の手が届くところに戻すのは憚られる。」


「そうですね。」


「父上にはそう伝えるよ。」


「あまり大事にはなされないほうが良いかと。」


「どうして?」


「レノアが望みません。」


「?」


「以前、私がメイド長の嫌がらせについて問いただしたのですが…自分が未熟だから指導してくれているだけだと、そう答えられまして。」


「…そう。君は強い子でもあるんだね。」


彼女の顔に掛かっていた髪を払いながら笑みを浮かべるのだった。

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