5. 発熱
あれからどれくらいの時間が経ったのか。
食事の時間すら与えられないのはいつもの事なので、何の問題もないが次々に増える野菜にため息をこぼしてしまったのは仕方がないことだろう。
そんなことを考えていると厨房から出てきたジョアンナが心配そうな表情のまま視線を彷徨わせ、目が合ったのと同時に走り寄ってきた。
「レノアさん!お昼ご飯まだですよね!?私が変わりますから行ってきてください!」
「ありがとうございます!申し出はとても嬉しいですが、私は大丈夫ですよ。ジョアンナさんまで目を付けられてしまいますから。」
「別に良いです!メイド長はレノアさんが陛下直々に任命されたことが許せないみたいですね…。私のせいで、すみません。」
「ジョアンナさんのせいではないです!私の手際が悪いのは本当のことですから。」
「そんなことないです!この時期に外で作業なんて…こんなに手が荒れてるじゃないですか。」
「これくらい平気です。そろそろメイド長が来る頃ですから、厨房へ。そのお気持ちだけでもとても心強いですから。」
その言葉で名残惜しそうにしながらも厨房へと戻っていく彼女を見送るとやはりヘンドリカがやってくるのが見える。
「それが終わるまでは昼食は抜きだから。」
「…はい。」
なるほど。
わざわざそれを言いに来たのか。
暇人だなと心の中で思いながらも、さも反省したような表情をしておけば満足気に厨房へと入っていった。
正直これくらいの嫌がらせは可愛いものだと思っているため、心配して声を掛けてくれるジョアンナの言葉は申し訳ないくらいだ。
そんな日々が続いたある日。
いつも通り目を覚ましたはずだったが、身体の節々が痛く寒いはずなのにポカポカする感覚に直ぐ体調を崩していることは理解できた。
動く度に頭が振られる気がするのは発熱によるものか。
冷静に分析しながらも母に心配かけることは出来ないと気合を入れて準備に取り掛かる。
「レノア、今日はいつも以上に冷えるけど大丈夫?」
「うん!お母さんこそ大丈夫?外にいるときは暖かい格好してね。そろそろお城に行かないと。行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
母の手を振る姿を背に少し遅くなってしまったと走って城に向かえば、それが良くなかったのか。
体調は悪化の一途を辿っていく。
いつものように屋外で野菜や果物を洗っていると気付く自分の吐息の荒さに煩わしさを感じながらも、前金制という王室付きメイドの給金制度故に自己都合で休むのは憚られるのだ。
「レノアさん、おはようございます!」
「おはようございます!」
「何か顔色悪くないですか?もしかして体調が悪いとか…!?」
「そんなことないですよ!今日はいつもより寒いですし、天気も悪いですからそう見えるだけかと。」
「…そうですか?無理しないでくださいね。」
「ありがとうございます!ジョアンナさんもですよ?」
「はい!」
そんな会話を済ませ、洗い終わった野菜を厨房の前に置いてから裏手にある牛乳を取りに向かうと一瞬めまいを感じその場にしゃがみ込めば誰かに支えられるような感覚。
誰だろうと視線を動かしたつもりだったが、既に真っ暗になった視界では確認することも出来ず、そのまま意識を手放すのだった。




