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4. 登城

あれから2時間。

いつも通り満席だったこともあり、時間が過ぎるのはあっという間だった。


「レノアちゃん、もう上がっていいよ。」


「あ、はい。お先に失礼します。」


軽く頭を下げてから裏口から出ると騎士とジョアンナの姿が見え、首を傾げる。

私に何か用だろうか。


「…レノア・オルコットだな。」


「はい。」


「俺は王国騎士団所属のハロルド・コーンウェルだ。王命により今から登城してもらいたい。」


「王命…?登城…?この格好でですか?せめて着替えを…。」


「これでもだいぶ待っているんだ。行くぞ。」


最初から拒否も提案も受け入れる気はないと歩き始めた彼に続くようにして動けば、ジョアンナから申し訳無さそうな表情が見えた。


「ごめんなさい。巻き込んでしまって…。」


「巻き込む?」


「林檎ジャムを貴女に作っていただいたとお話したところこんなことになってしまって…。」


「…もしかしてお口に合わなかったとか?それとも分量間違えたかな。保存より甘さ控えめを重視したから砂糖少なかったのかも。」


ぶつぶつと一人反省しているといつの間にか城にたどり着いていた。

通されたのは謁見の間と呼ばれる場所で豪華な作りの玉座に紺色の髪に紫水晶色の瞳が印象的な男性が座っているのが見える。

何をするのが正解が分からないがとりあえずジョアンナと同じように礼をしておこう。


「レノア・オルコットか。」


「はい。」


「そなたの作るジャムを気に入った。よって王室付きメイドに任命する。」


そう宣言されてから私の生活は一変した。

母が果物屋を営んでいるため早朝の準備を日の出前にするようになり、その後ヴィクトリアンスタイルのメイド服に着替えて城での業務に従事。

掃除や洗濯といった日常的な仕事から日持ちのしない果物を使用した保存食を作る等、普段家でやっていることの延長線ということもあって慣れるまでにあまり苦労することはなく。

それはジョアンナという先輩メイドがいたことも大きく関わっているだろう。

唯一困っていることといえば、メイド長であるヘンドリカから明らかに嫌われていることだ。

半年経った今日もまた嫌がらせという名の無茶振りで、冬の寒空の下、洗濯板を使用してタオルを一つずつ丁寧に洗っていると足音が近づいてくる。


「レノア、まだ終わっていないのですか!本当に要領が悪いわね。」


「…すみません。」


「謝るより手を動かしなさい!」


「はい。」


水の冷たさに真っ赤になった私の手を見ながらそういうと室内へと戻っていった。

最近ずっとこの調子だとため息をこぼしながらも、会社員時代のお局様という存在を思い出して酷く懐かしく思える。

全ての洗濯が終わったのは日も高くなった頃で、ひびとあかぎれだらけの手に息を吹きかけながら日の当たる場所にタオルを干していると後ろに感じる気配にまたヘンドリカが来たのかと視線を向ければ、鎧姿のハロルドが立っていた。


「何か御用でしょうか?」


「あれはいつからだ。」


「あれ、とは?」


「メイド長ヘンドリカの嫌がらせだ。」


「嫌がらせなんて受けていませんよ。メイド長は私がまだ未熟なので指導して下さったに過ぎません。」


「…この時期に外で洗濯させることが、か?」


「これもメイドの仕事ですから。もうよろしいですか?まだ次の仕事が残っていますので。」


タオルを干し終え、空になった籠を手に室内へと入ればそれ以上声を掛けてくることはなく、良かったと胸をなでおろしているとヘンドリカの声が聞こえてくる。


「レノア!これの準備はまだできていないの!?時間内に終わらせるよう指示したわよね!」


「すぐやります。」


「本当に使えない!もういいわ。貴女は外でお昼用の野菜を洗っていなさい。それくらいならできるでしょ。」


「わかりました。」


籠一杯に入ったじゃがいもを持って再び井戸へと移動する。

遠くから聞こえる騎士達の鍛錬する声をBGMに指示された野菜を丁寧に洗っていくのだった。

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