3. 食事処
ハロルドとジョアンナは城門から町に出ると日が沈んだとはいえ、活気のある声が聞こえてくる。
広場の果物屋は既に閉店したようで暗くなっていた。
室内の明かりは付いているため、人は居るだろうと玄関の扉をノックしてみれば、アッシュブラウンの髪をした女性が出てくる。
「レノア・オルコットか?」
「レノアは私の娘ですよ。何かご用ですか?」
「王命により登城願いたい。」
「王命…?うちの娘が何か粗相をしたのでしょうか?」
「粗相ではないが、用がある。」
ハロルドの言葉に安堵したのだろう。
ほっと胸を撫で下ろしてから広場の先にある食事処を示した。
「娘はあそこに。」
彼女と似たアッシュブラウンの髪をシニヨンスタイルでまとめている少女は笑顔でテラス席に食事を運んでいるのが見えた。
「果物屋とは別で働いているのか…。」
「父親を早くに亡くしたものですから。少しでも足しにと働いてくれているんです。」
「…そうか。では仕事が終わるまで待とう。ジョアンナ、腹は空いているか?」
「そ、そうですね。」
「あの食事処で済ませるとしよう。」
彼はそう言うと食事処へと歩いて行く。
「いらっしゃいませ。2名様でよろしいですか?」
「あぁ。」
「こちらへどうぞ。」
テキパキとした身のこなしで室内にある半個室になったテーブル席へ案内するとメニュー表とお水を手に戻ってくる。
「お決まりになりましたらそちらのベルでお呼びください。」
軽く一礼したレノアはジョアンナに気付いていないようで、特に反応することなく別の席へと移動していった。
「レノアさん、私に気が付かなかったのでしょうか…。」
「気付いていたようだが、わざと気付かないふりをしているように見えた。」
「もしかして私は嫌われてしまったとか…。」
「そういうのではないだろう。何を頼むか決まったか?」
「私はお店オススメのサーモンとアスパラのオレンジソースにします。」
彼女のその言葉でベルを鳴らせばレノアが戻ってくる。
「お決まりですか?」
「サーモンとアスパラのオレンジソースとチキンのアップルソースを一つずつ。」
「ライスかパンをお選びできます。」
「私はパンをお願いします。」
「俺はライス。」
「かしこまりました。他にご注文はありますか?」
「いや。」
「ありがとうございます。食事のご準備ができるまで少々お待ち下さい。失礼いたします。」
「レノアちゃん、厨房手伝ってくれるか?」
「わかりました。」
「テオ、ホールやれ。」
「えー。」
「お前が厨房じゃ手際が悪い!」
「親父の指示が悪いんだろ。レノア、頼むわ。」
「うん、わかった。そろそろテラス席のお水無くなると思うからそっち見ておいてね。」
「了解。」
二人はすれ違い様に軽く腕同士を当て合うとお互い動き出した。
彼らの中での握手のようなものだろうか。
そんなことを考えながら厨房に入っていったレノアの姿を目で追ってから視線をテーブルへと移した。
しばらくするとテオと呼ばれていた焦茶の髪にベリーショートヘアの青年は満面の営業スマイルで料理を運んでくる。
「…レノアの仕事はいつ頃終わる?」
ハロルドのその言葉で空気が一瞬張り詰めたのが感じられるほど雰囲気が変わった。
「騎士様がレノアに何の用ですか。」
「お前に関係ない。」
「理由がないなら教えられないっす。じゃ、ごゆっくり。」
口元の笑みは消え、冷たい視線を向けると厨房へと入って行ってしまった。
彼女に伝えに行ったのだろう。
面白いほどわかりやすい態度だとそんなことを考えながら運ばれてきた料理に舌鼓をうつのだった。




