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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

社畜の皆さんに届けたいんだけど、まぁ誰彼構わず読んでもいいのかもしれない

作者: 果物を食え

「こういう日は酒に限る」


 手元の缶を開けながら呟く。

 今日は久々に家に帰れたのだから、酒の一本や二本飲んだところで罰は当たらないだろう。


 ここ最近仕事詰め。

 朝7:00に起きたと同時にモニターとにらめっこ。

 夜3:00に仕事を区切ってすぐ近くのネットカフェでシャワーを浴び、会社の椅子で寝る。

 三週間近くそんな生活を過ごしているような気がする。


 ただ、そんな生活にも終わりが見えてきた。というのも、仕事の終わりが見えてきたのだ。

 ならば僕たちがすることは一つ。

 久々に家に帰る、ただそれだけ。


 そして今に至る。

 酒のつまみでもないかと冷蔵庫を漁ってみるが、そもそも腐っている食品が殆どでどうしようもない。捨てるというのも思いついたが、それすらも何故だか面倒に感じる。

 

「……あれ?」


 一本と持たず、酒もこれ以上体に入らない。よっぽど疲れが溜まっていたのだろう。

 飲もうとしても手が動かず、何よりも眠りたいという思考で脳が満ち満ちていく。


 ……寝てしまおう。



 。


 …。


 ……。



「寒っ」


 凍えるような寒さで目が覚める。なんだか寒いと思ったら、冷蔵庫を開けっぱなしにしていたようだ。

 スマホで時間を確認すると、朝の5時。久しぶりに良く寝た感覚ではあるが、眠った時間は恐らく4時間程度だろうか。


 折角早めに起きたのだし、仕事を始めよう。


「あ」


 そうだった。

 今は家にいるんだ。目の前に冷蔵庫があるのにここが職場だと思い込んでる辺り、僕もとっくのとうに限界を迎えていたのだろう。


 今はゆっくり休むべき。そうなのだろうが、何故だか落ち着かない。

 ベッドに横たわってみても、積読を消化しようとしても、スマホで動画を見ていても、何をしていても何か手持ち無沙汰に感じてしまう。

 いつの間にか僕は仕事中毒だったらしい。


「はぁ」


 スーツに着替え家を出る。会社へ歩を進める。

 せっかくの自由時間ですら僕は縛られていたいらしいようで、気付けば見覚えのある道を歩いている。


 いっそ仕事を辞めてしまおうか。

 仕事に溺れていたおかげで休職しても一年のモラトリアムが確保できる程度の金が溜まっている。



 ふと目の前のガラスに映った自分の表情を見る。

 隈がひどい。唇は所々われている。目が細まっている。とてもではないが27歳には見えない。十人に聞けば十人全員が30後半だと答えるだろう。


 こんな人生辞めてしまいたい。

 ただ、やめてしまえるほどの決定打がない。

 苦しいだけで、面倒に感じただけで仕事を辞めてしまっていいのだろうか。

 理由が欲しい。


 ―――ぐちゃ。


 目の前に何かが落ちてきた。

 落ちてきた「それ」は潰れるような音を立て、飛沫をあげる。

 汚れ塗れの靴のもとに流れる赤い液体を見て初めてすべてを理解する。



「人だ」



 目の前に人が落ちてきた。

 聞こえた音は体が地面に叩きつけられたからで、飛沫は骨が飛び出しているせいだろう。

 目の前の非日常に、浮くような感覚を覚える。


 今自分は現実を見れているのだろうか。

 ちょっとした妄想が、すぐそこに投影されたのではなかろうか。



 いや、本物だ。

 周りから順々に悲鳴が聞こえてくる。ぱしゃりという音すら聞こえてくる。

 この過ぎた不謹慎さが、今自分が現実に生きていることを教えてくれる。



 こんな非日常。


 こんな事が起きたなら。


 仕事を辞めてしまっても。



 いや、それはおかしい。

 頭に過ったそれを投げ捨てて、自分を見失わないために再度鏡に視線を向ける。




 そこにいた僕は笑っていた。

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