表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/31

30日め(火曜日)

 僕は今、人生最大のピンチに陥っている。

 ピンチどころか人生詰んでるかもしれない。


 今、僕の目の前にはあかねさんがいる。

 顔を真っ赤に染めた般若のような顔をしたあかねさんがいる。


 そして僕は、そんなあかねさんから両手で壁ドンされて身動きが取れない状況となっている。



 怖い。

 いや、怖いなんてもんじゃない。

 恐ろしすぎて気を失いそうだ。



 事の発端は昼休み。


 あかねさんから「二人きりで話がある」と言われて連れて来られたのが屋上に向かう階段の踊り場。

 そこでいきなり僕を壁に押し付けてきたのだ。



 ……鬼の形相で。



 もう足が震えて止まらなかった。

 僕、何かした?

 あかねさんを怒らせるようなことした?


 まったく身に覚えがない。


「翔平」


 あかねさんは低くドスのきいた声で言った。


「ひ、ひゃい!」


 100%裏返った声で返事をする。


「翔平に聞きたいことがある」

「なななな、なんでしょうかー!」

「翔平は……」

「はい!」

「翔平は……」

「………」

「………」


 なななな、なんでしょうかー!

 いきなり黙られると余計怖いです!


「な、なんですか?」


 恐る恐る尋ねると、あかねさんは「ふぅ」と静かに息を吐いた。


「翔平は……、好きな女っているのかい?」

「………」


 ……へ?


「す、好きな女?」

「そう、好きな女」


 まったく予想もしてなかった言葉が出てきた。


「好きな女……ですか?」

「ああ、好きな女。いるのかい?」

「い、いや、好きな女は……」

「いないのかい?」

「いない、というわけでもないですけど……」


 あの子可愛いな、くらいの子はクラスにもいる。

 けど、好きかと聞かれるとそうでもないような……。


「いるのかい?」

「い、いえ。いるというわけでも……」

「いるのかいないのか、はっきりしな!」

「ひいいっ!」


 鬼の形相がさらに怖くなった。


「い、い、い、いません!」


 ブルブルブルと超高速で首を振る。

 これはもう中途半端に答えると確実に殺される。

 だから正直に答えた。


 するとあかねさんはパアッと顔を輝かせて顔を寄せてきた。


「いないのかい!?」

「ひい!」


 ち、近い。

 顔がめっちゃ近い。

 キスしそうなくらい近い。


「本当に本当にいないのかい!?」

「ひ、ひゃい!」


 どうしよう、うまく口が開かない。


「そうかい、いないのかい」


 なんだか嬉しそうだ。

 よかった。

 よくわからないけど機嫌が良くなってきた。

 ホッと息をつく。


 そしてあかねさんは顔を近づけたまま言った。


「じゃあさ、翔平!」

「はい!」

「あ、あたいと……」

「はい!」

「あ、あたいと……」

「はい?」

「………」

「………」


 どうしよう。

 また黙りこくってしまった。


「あかねさん?」


 尋ねるとあかねさんはまた静かに「ふぅ」と息を吐いて僕に言った。


「あたいと!」

「は、はい!」

「あたいと!」

「はい!」

「あたいと付き合ってくれないかい!?」

「はい! ……へ?」

 

 思わず間の抜けた返事をしてしまった。


 ど、どういうこと?

 付き合ってくれないかって……。


 買い物とかに付き合えってこと?


「ど、どういう意味ですか?」

「どういう意味もこういう意味もないよ。あたいと付き合ってくれないか聞いてるんだ」


 あかねさんは僕を壁に押し付けたまま、顔中を赤く染めた。

 なんなら頭から湯気が出てた。


「……あたいね」

「はい」

「あたい、翔平のことが好きなんだ」


 今世紀最大のカミングアウトが出た(気がする)。

 これ、ドッキリじゃないよね?

 どっかから「ドッキリ大成功」の看板持ったスタッフが現れて「ジャジャーン!」とか言わないよね。


「翔平はどうだい? あたいのこと、どう思ってる?」

「ど、どうって……」


 僕はあかねさんから衝撃の告白を受けて心臓がバクバクしていた。


 まさかあかねさんが僕のことを好きだったなんて。


 思えば……いや、思わなくても思い当たる節はたくさんあった。

 毎日お弁当届けてくれたり、いきなり転校してきて隣に座ったり、映画に誘われたり。


 なんで気付かなかったんだろう。


 よく漫画とかで「このヒロイン、絶対主人公のこと好きなのになんで気付かないんだろう。バカだなー」とか思ってたのに。

 バカはお前だ、と言いたくなってくる。


「翔平?」

「は、はい!」

「あたいのこと、どう思う?」


 どうしよう。

 混乱しすぎて考えがうまくまとまらない。 


「……あたいのこと、嫌いかい?」

「いえいえいえいえいえ!」


 僕はさっき以上に高速で首を振った。

 嫌いなわけない。

 あかねさんは美人だし、器用だし、弁当も美味しいし、カッコいいし、弟想いだし、優しいし、素敵だし、可愛いし、綺麗だし、カッコいいし。

 あ、カッコいいって二回言った。


 でも嫌いな要素はなに一つもない。

 あるとすれば怖いことくらいだ。

 だけど……。


 あかねさんは壁に押し付けていた手を動かし、僕の手を握り締めた。


「じゃあ……!」

「ひ、ひとつ教えてください!」

「ん?」

「なんで僕なんですか?」

「なんでって?」

「だって、僕みたいなひ弱な男。どう考えてもあかねさんの好みじゃないと思うんですけど」


 この言葉に、あかねさんが「ふふ」と笑った。


「わかってないねえ、翔平は」

「え?」

「あんたは十分、魅力的な男だよ。このあたいを一目で惚れさせたんだからね」

「ひ、一目で?」


 一目でって?

 もしかして一目惚れだったってこと?


「でもまあ、言いたいことはわかるよ。あたいだって翔平と会うまでは、まさかあんたみたいなヒョロイ男を好きになるなんて思ってもなかったからね」


 ヒョロイ男って……。


「でも翔平と初めて会って気づいたんだ。あたいが求めてたのは翔平みたいな安らぎに満ちた男だってね」

「安らぎ……ですか?」


 平和ボケの間違いではなかろうか。

 なんて聞ける雰囲気ではなく。

 僕は黙ってあかねさんの言葉を聞いた。


「あの日、あんたの目を見た時、毎日ケンカで明け暮れていたあたいの荒んだ心が癒されたのさ。なんでかはわからないけどね。でもそれ以降、あんたと会うと心が安らぐんだよ」

「そ、そうですか……」


 正直、よくわからない。

 僕にそんな包容力があるとは思えないし。

 でも僕の存在があかねさんの安らぎになるのなら、それはそれで素敵だなと思った。


「だからあたいは翔平と一緒にいたいんだ」

「はあ……」

「昨日、学級委員長に告白されたろ?」

「はい」

「その時、思ったんだよ。あたいも告白しようって」


 学級委員長の告白が、まさかこんな形で僕に飛び火するとは思わなかった。

 ごめん、学級委員長。


「これで答えになってるかい?」

「は、はい」

「じゃあ……」

「僕からも一ついいですか!」

「まだ何かあるのかい?」


 いい加減、あかねさんの顔が強張って来てる。

 ヤバい、早く答えを言わないと。


「僕は最初、あかねさんが怖くて苦手でした。頼んでもないのにお弁当は持ってくるし、いきなり転校してきては隣に座るし、教科書はいつまで経っても用意してくれないし……」


 ああ、何を言ってるんだ僕は。

 こんなことを言いたいわけじゃないのに。

 でもあかねさんは黙って僕の話を聞いてくれていた。


 だったら。

 だったら最後まできちんと僕の想いをぶつけなきゃ。


「実家は怖いし、顔を赤くして睨みつけるし、しょっちゅう保健室に引きこもるし、弥吉さんに対して暴力的だし……」


 だんだんあかねさんの表情が険しくなっていく。

 ひいいっ!


「で、でも!」

「でも?」

「でも、あかねさんは美人で、綺麗で、スタイルも良くて、弥吉さん以外には優しくて、時折顔を真っ赤にするところなんか可愛くて、弟想いで、いいところもいっぱいあるってわかりました」


 マイナスのほうが多かった気がするけど、スルーしよう。


「日に日にあかねさんと過ごすうちに、僕も毎日が楽しくなって……あかねさんといるのが当たり前になって……」

「そ、そうかい?」


 今度は照れている。

 表情豊かな人だ。


「むしろ、この関係が続けばいいなとも思い始めたんです」

「嬉しいよ」


 優しそうに微笑むあかねさん。

 僕は息を深く吸い込むと、「だから」と言った。


「だから……だから……こんな僕でよければ、お願いします!」


 そう言って頭を下げる。

 あかねさんの渾身の告白。

 僕は受け入れることにしたのだ。


 しかし。


「………」

「………」

「………」

「………」


 あ、あれ?

 なんの反応もない。


 頭を上げると、あかねさんは泣きそうな顔をしていた。

 泣きそうな顔をしながら、わなわな震えていた。


「い……」

「い?」

「い……」

「い?」

「……いいのかい?」


 震えながらそうつぶやくあかねさん。

 僕はコクッと頷いた。


「は、はい。よろしくお願いします」 


 瞬間。

 柔らかい感触が唇を襲った。


 気づくと、あかねさんは僕の口に唇を押し付けていた。


 ふおおおおおおお!


 思わず顔を引き離そうとしたけど、ガッシリと身体を抑え込まれている。


 に、逃げられない!

 そして何気に僕のファーストキスが奪われた!


 ひゃああああああ……。


 あかねさんは唇を押し付けたまま、さらに僕の身体を強く抱きしめてきた。


 く、苦しい……。

 半端なく苦しい……。

 これ、人のチカラですか!?


 やがて唇を離したあかねさんは、幸せそうな顔をして言った。


「翔平、愛してるよ」

「ゼハー、ゼハー……」


 い、息が……。


「翔平?」


 心配そうな顔をするあかねさんに、笑顔でなんとか答える。


「は、はい。僕も好きです。あかねさん」

「ああ、翔平!」


 あかねさんはさらに情熱的に僕に唇を押し付けると、さらに強い力で僕を締め付けた。


 ぐえっ。


 強い力でキスされながら僕は思う。

 はやく、このあかねさんの力に対抗できる腕力をつけなくちゃと。


 でなければ、キスで殺されてしまう。




 30日前に出会った特攻服を着た強面の女性。


 その人は今、僕の彼女になった。



~告白されました~

最後までお付き合いくださって本当にありがとうございました!


1日1話、毎朝7更新という朝ドラのようなことをいつかしたかったので、こうして実現できたのが夢のようです。

あかねさんは無事に翔平と結ばれましたが、きっとこの後はデレまくるので、それは皆さまのご想像(妄想)に委ねます♪


本当に本当に、1カ月間ありがとうございました!

皆様にもハッピーがありますように♡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 完結おめでとうございます! すっごく楽しかった&可愛かったです。 委員長と鳩のおじさんとの会話も(笑)告白はちゃんとおじさんの言いつけを守ってましたね。 妹ちゃんと弟くんとのラブもありそう…
[一言] 完結おめでとうございます! 気になって読ませていただきましたがもう30日たったということに驚きです。毎日可愛いと癒しを届けてくださってありがとうございました……! 我儘を言わせていただくなら…
[良い点] 番外編も拝読してからの、こちらに改めて。 完結おめでとうございます! ロスの予感に震えながらそわそわとやってきました。 期待と予想を上回るデレとデレとボケとキスでした。ふわー。翔平さん、コ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ