王都見る
ーー冒険者ギルドなんて探すべきじゃなかった。
「おいおい、こんなヒョロガキが冒険者になるだって? 冒険者も舐められたもんだな、おい?」
金髪の目つきの悪い男が、俺の顔を覗き込み、悪そうな笑みを浮かべている。
「てめえみたいな明らかに田舎もんですよってやつが簡単に冒険者になれると思うなよ?」
もう一人の金髪の目つきの悪い男が、俺の顔を覗き込む。
目の前にいる男二人はどうやら双子のようで、瓜二つの顔をしている。
だが、この二人が双子かどうかなど今はそれほど重要ではない。
無事王都内に入ることができた俺だったが、ホッとしたのも束の間、わずか5分で人生最大級のピンチに陥っていた。
興味本位に冒険者っぽい人に「冒険者ギルドってあったりしますか?」とか聞いたら、裏路地に連れ込まれてしまったのだ。
異世界に行ったらやっぱ冒険者にはなってみたい、とか考えてたのが間違いだったんだ!!
「......まだ冒険者になるって決めてるわけじゃないし、別に冒険者のことも舐めてないし」
「ちょっとでも冒険者をやろうって思ってる時点でダメなんだよ!!」
「調子乗ってんじゃねえぞガキが!!」
「ひいっ!!」
耳元で怒鳴らないで!! ていうか、声もそっくりだからどっちが喋ってるのか、よく分からねえよ!!
「まあ兄貴、ここら辺にしとこうぜ。騎士が勘づいてきたらまずいしさ」
「......そうだな。まあ、俺たちも暇じゃねえんだ。海賊に苦しめられている人達が俺たちを待ってるからな」
「この世界にも海賊とかいるのか」
というか、裏路地に人連れ込むような人達が人助けの話してるのは違和感がすごい。
「俺たちの会話に入ってくるんじゃねえよ!!」
「すいません!!」
いちいち顔こえーよ、この人。
「そこまでよ!!」
突然、大通りの方から女性の声が聞こえた。
「「「あん? やんのかこら!?」」」
「なんで襲われてるっぽいあんたもおんなじ反応してんのよ!?」
「......なんか流れで?」
ーーそこにいたのは、真紅の髪を後ろで一つに束ね、赤々と燃える炎を纏っているかのような鎧を身につけた、いわゆる"騎士"と呼ばれるような格好をした少女だった。
「流れで敵が増えたら、たまったもんじゃないわよ」
「なんかすみません」
俺が騎士の少女に叱られている横で、双子の冒険者は何かヒソヒソと喋っていた。
「おい兄貴、あれって」
「間違いねえ、"炎の騎士"だ」
俺の耳に届いている時点で秘匿性は皆無である。
「炎の騎士ってあの、お節介と噂の?」
確かイェレミエルさんがそう言っていた気がする。
「お節介で悪かったわね」
どうやら俺の呟きが聞こえていたらしい騎士様がこちらへとジト目を向けてくる。
「......別に悪い意味じゃないと思いますよ?」
「悪い意味じゃなくてもお節介で噂になるのはなんか嫌でしょ」
「......確かに」
「というか、そんなことはどうでも良いのよ。あなた達、こんな路地裏で何を......」
突然黙る炎の騎士様。まあ、その理由はなんとなくわかるのだが。
「あの二人なら先ほどお逃げになられました」
俺を路地裏に連れてきた双子の冒険者の姿はもうそこにはなかった。
「なんで言わないのよ!?」
「......よく考えたら、俺、特に何もされてないなあ、と思いまして」
「それは私が来たからでしょう? ああいう奴らは放っておくと何するか分からないのよ?」
「その意見はとてもよくわかるんですけど、これ見てください」
そう言って、俺は右手に持っているものを少し上げた。その拍子にジャラッと音が鳴る。
「なにそれ? ......もしかしてお金? あなたの?」
「はい。
......ここに来る途中で気づいたんですけど、俺鞄とか持ってないから、このまま持つしかないなあって。
でも、歩くたびにジャラジャラ鳴るからこれ絶対不用心だよなあ、と思ってて。案の定、さっきの二人に絡まれた時は、お金取られる、って思ったんですけど。そんなこと全くなくて、それどころか」
今度は、左手に持っているものを上げる。
「いつのまにか鞄が握らされてて」
その手にあったのは、いわゆるショルダーバッグというやつだった。
「......普通に良い人達じゃないの!!」
「そうなんですよ」
この日、俺は本物のツンデレというのを目にしたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
それから、俺が冒険者ギルドを探していたことを知った騎士少女が、冒険者ギルドに連れて行ってくれるついでに、王国を案内してくれることとなった。
ちなみに、冒険者ギルドではなく、冒険者協会、とこの世界では呼ばれているようだ。
騎士少女の隣を歩きながら、改めて王都の様子を見渡す。
街並みはいわゆる西洋風。
道を行き交う人々は、髪の色が様々で、さすが異世界といった感じだ。
だが、イェレミエルから聞いていたエルフや獣人といった、いわゆる亜人と呼ばれる種族は見当たらない。もしかすると、人間と亜人の仲はあまり良くないのかもしれない。
「私は、王国直属騎士団所属、五剣が一人、炎の剣、ミル。あなたの名前は?」
隣を歩く騎士少女の名は、どうやらミルというらしい。
「俺は、帰宅部所属、有象無象が一人、陰のキャ、三重玲!! です」
「ミエレーね、よろしく」
俺の渾身の事故紹介をミルさんは華麗にスルー。それだけでは飽き足らず、なんと俺の名前をいじってきた。
「いやミエレーじゃなくて、三重玲です」
「? だからミエレーでしょ?」
あれ? もしかして別にいじってきたわけじゃなかった?
「もしかして、こっちの世界ってファミリーネーム的なやつ無い感じですか?」
「ファミリーネーム? 何それ?」
「家名って分かります?」
「仮名なら分かるけど」
「仮名じゃなくて、家名なんですよね。......自分がどこに所属しているか的なやつを名前で示す、的なやつなんですけど」
「それなら、族名が近いかしら。というか、あなた、どこの出? 変な言葉知ってるし、なんか喋り方も丁寧だし。もしかして帝国出身だったりする?」
「帝国?」
「え、あなたまさか帝国を知らないとか言うんじゃないでしょうね?」
「それ、必修科目だったりします?」
「超必修科目よ」
「あ、必修科目は通じるんですね」
この世界にも学校的なものがあったりするんだろうか。
「帝国を知らないなんて、あなた、どんな田舎から来たのよ」
「日本って知ってます?」
「......聞いたことないわね」
「ですよね」
これが普通の反応である。すんなりと受け入れたあのカボチャ頭がおかしいのだ。
「......まあ、あなたが超田舎から来たのは分かったわ。なんか服装もダサいしね」
「え、ダサいですか」
衝撃の事実である。
改めて、自分の服装を見てみる。
黒いパーカーに黒いズボン。うん、ダサい。
しょうがないじゃないか、コンビニに行くだけのつもりだったのに、なんでか異世界に来てしまったんだから。
「あ、ここが商人協会よ。商売に興味があったり、何か欲しいものがある時は、ここに行ってみて。
それで、その向かいにあるのが、錬金術師協会。なんか変なものを色々作ってるところだけど。まあ、興味があったら、行ってみて」
「商人に錬金術師。異世界っぽい職業キターって感じですね」
「あなた、時々、いや頻繁に良く分からないこと言うわね」
「異世界っていうのは、この世界とは違う世界ってことです」
「......あなたの出身地は、相当に田舎だったのね」
どうやら"異世界"を"ど田舎"の言い回しと勘違いしたらしい。
「......出身地が田舎であることは否定しませんけど」
でも、田舎って良いところですよ? 静かだし、穏やかだし。あれ、似たような意味か?
「あ、着いた着いた」
そう言ってとある建物の前で立ち止まるミルさん。
「もしかして、ここが」
俺も立ち止まり、目の前の建物を見上げる。
「そう、ここが冒険者協会。一攫千金や成り上がりを目指すならもってこいの場所よ」
その建物にかけられた看板には、大きく『王国直属冒険者協会本部』と書かれていた。




