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火花の夜:7

 村で警戒態勢を敷いている剣子隊メンバーの視線の先では、音と光が踊っていた。ソーラでもなければ見えないほどの遥かに離れた山の中腹で、ソーラたちの花火玉が空を照らしていた。夜であったはずなのに、空が変に明るく感じる。



「何が起こっているんだ……? 彼女は何をしているんだ……?」



 ヴァリウスの視線は、物見櫓の屋根の上で光を操るソーラに釘付けになっていた。ソーラの周囲に、光そのものが球体となったものが十数もの数。それらが浮遊し、生き物のように飛び、目にも追いつかぬスピードで山の中腹へと向かっていく。それらが轟音と共に爆ぜ、山を照らしているのだ。


 それだけじゃない。


 爆ぜて散った光は、細い糸のような形を象ったと思うと、その糸が幾重にも重なりあい、束ねられている。束ねられた『光の糸』は細い柱のようにもなり、それらが山の地表に突き刺さっていくのだ。

 突き刺さった『光の柱』は消え、その跡にはクレーターが出来ている。無数の光が、山の大地を穿っている。当然、ヴァリウスたちにはこのような光景を見たことはない。光が、山の地表に穴を開けるなど、常識ではありえない。



「あの……あまり、光の方は直視しないほうがいいかも。距離はありますけど、強い光なのには間違いないので」



 その光景を作り出している張本人のソーラといえば、特に特別なことをしている様子を感じさせない。光の玉を無数に作り出しているが、疲れている様子も見受けられなかった。



「これが……『光』の魔法、だというのかい?」

「はい。『光の糸』を球にして、撃ちだして、拡散させてるんです。光は、すっごくいっぱい集めると、光で斬ったり、焼いたり、穴を空けたりすることができて。ミウは『レーザービーム』って呼んでましたけど」



 常識では到底測りきれない現象であった。光は夜を照らし、あるいは植物に元気を与えるもの。「その程度」の存在であるはずだった。強すぎる光を視ることで目にダメージを負うことは知っているが、光が何かを破壊するなどありえない。

 それこそ、糸や球体という形を成して、それらがモンスターに攻撃するなどと。事前に説明を受けた時は、ヴァリウスたちの理解は追いつかなかった。そして実際にそれを目の当たりにしても理解することはできない。



「火花が夜を侵している……」



 人智を超えたその現象を見て、ヴァリウスはそう表現するしかなかった。


 花火玉が打ち上がり始めて三分ほど経過しただろうか。ヴァリウスたちの耳にミウの声が聞こえる。もちろん、ミウは山の方にまだいる状態で、魔法による遠距離音声によるものである。



≪こちら現地。リーズデビルの音が消えた。目視で確認お願い≫


「わかった。ヴァリウス副隊長も目視、確認お願いできますか?」

「いや、早い。早すぎる――いや、むしろあれほどの苛烈な攻撃に耐えられるはずもないのか? しかし今すぐは難しいな。まだ暗いままだ。あの山に行くにしても時間がかかる。あいにく僕達は飛べないからね」

「映像映しますので、それで確認していただければ大丈夫だと思います!」



 また彼女はよくわからないことを言い出したな、とヴァリウスはつい顔に出してしまった。映像を映す、という表現は学都で最近開発されたという写真機キャメラをヴァリウスは思い出したが、もちろんソーラの手元にそんな代物は確認できない。

 代わりに彼女の手には、一枚の不思議な形をした透明な板だった。ヴァリウスが恐る恐る触るとガラスではなく、軽い、見たこともない材質のそれであった。


 透明な板に、山の方から光が差す。光が差すと、板に映像が映しだされた。その映像は動いている。写真ではない。無数に穴が空き、見るも無惨な状態になったモンスターの死体が辺りに散らばっている光景の空に、ミウが優雅に飛んでいる姿が動く映像でその板に映しだされていたのだ。

 モンスターは確かに、光で倒されていた。あの火花がモンスターの身体を、まるで弾丸のように撃ち貫いていたことをヴァリウスたちは理解させられた。


 リアルタイムの映像が見えている、とだけ理解できた。それをどういった原理で実現させているのか、ヴァリウスにはもちろん理解できないが。



「うーんと、残りはいなさそう、だね。ありがとうミウ。お疲れ様」


≪私は撃ち漏らした数匹にトドメ刺しただけ。ねぇねの方こそお疲れ様≫



 この二人にとっては、何ら特別なことをやっていないかのように振舞っているやり取りが、ヴァリウスたちには恐ろしささえ感じさせる。風穴が空いた死体の山の中に、異質な「斬られた肉塊」が混じっているのをヴァリウスは見逃さなかった。ミウの使う得物は剣だ、それも「壊す剣」ではなく「斬る剣」であると彼女は言っていた。

 ミウはあの火花の中で、あの火花に被弾せずモンスターを斬っていたのだ。普通ならミウも巻き込まれるはずである光と音の地獄の中をかいくぐり、モンスターを斬り伏せていたのだ。

 数匹、とは言っていたが、おそらくそれは過小報告だろうと推測できた。映しだされたミウの姿は、モンスターの血液で真っ赤に染まっていたのだから。

 

 ソーラが火花の夜を作り出し、ミウはその夜の中で無双した。


 これを隊長にどう報告すればよいのか。数分で起きたこの夜の出来事を自分の語彙で説明できるものだろうか、と打ちひしがれた顔のヴァリウス。部下たちの目には、それがひどく疲れたものに見えた。

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