6、「平凡で良いのに」
「坊っちゃん?レイノルド坊っちゃん?・・聞いていますか?」
「あ・・、うん、ちゃんと聞いてるよ!」
俺は伯爵家お付きの家庭教師の指導の下、日々貴族としての薫陶と教育を受けていた。
(さすが伯爵家ともなれば教育に熱心なのかな?)
そんな事をぼんやりと思いながら、これからの人生とか色々考えていた。
無事異世界に転生し、レイノルド・フォン・スプリングフィールドとして新たなる人生が始まった。
5歳までの記憶は曖昧なのだが、ひょっとするとこの体に転生して来たのかもしれない。
まあ、その事自体はどうでもいいか。
そして、転生した俺には二人の兄と一人の妹がいた。
一番目の兄が8歳年上、二番目の兄が5歳年上。妹は2歳年下だった。
妹は俺と母親が同じだけど、兄二人は違った。
いわゆる《腹違い》というやつだ。
第一夫人である俺の母親に中々子供が産まれなかった為、第二夫人として兄達の母親が嫁いできたらしい。
見事にその思惑は当たり男の子を二人も産んだのだが、暫くして俺が産まれた。
まあ、貴族だし色々あるんだろうけどね。多分ね。
見た目子供だけど、中身は転生してるから25歳の大人だしね、その辺は敏感に感じるよね。
だからと言って特に兄達と仲が悪い訳でもなく、極々普通の兄弟だと思う。
こちらの世界では15歳で成人となるらしく、それまでは父上にまったりと養って貰おうと思っている。
成人する時には職業が神より与えられ、それに付属した能力を使える様になるらしい。
このまま貴族を続けていくならば職業は、剣士系か騎士系が望ましいのだとか。
博士とか研究者みたいに、あまり戦わなくてもいい感じの職業に就きたいな。
俺は、静かな平凡をこよなく愛する人間なんだよ。うんうん。
「・・では、ここまではよろしいでしょうか?」
「はい、先生!」
「もう・・、いつも返事だけは良いんですから。さっきから上の空ですよ、坊っちゃん?」
「えへへ、ごめんなさい」
「ふう、まだ早いですが今日はこれくらいにして、昼食にしましょうか?」
「やったー!だからスフィア大好きー!」
「調子良すぎますわよ?レイノルド坊っちゃん。うふふ」
スフィアは立ち上がり俺の頭を軽く撫でると、支度をするために部屋から出て行った。
そんな平和で平凡な日常は、気が付けば2年が経っていた。
俺は7歳になるので、春から王都にある貴族が通う全寮制の学校へ入る予定だった。
寮へは必要なもの以外は持って入ってはいけない規則があるため、お気に入りの物を誰かに盗られない様に屋敷の地下倉庫へ隠そうと、一人でこっそりと鍵を開けて地下倉庫に入った。
古びた鎧や剣などが並んでいる中、小さい木箱に目が留まった。
(ん?何だろう?これは、たま・・ご・?)
何気なく開けたその木箱には握りこぶし程の卵の形をした、灰色のものが入っていた。
(何だろう?そうだ、スフィアに聞いてみよう!)
家庭教師であるスフィアなら何か知っていると思い、その丸いものを持って自分の部屋へ戻ったのだった。
「それは、何処から?」
「うん、屋敷の地下倉庫にあった木箱に入ってた」
「何かの卵だと思いますが、何と言うか・・・良くない魔力を感じます・・」
そう言ってスフィアはその物をテーブルの上に静かに置くと、口に手の平を当てて考えていた。
「どうしよう・・もし魔獣の卵だったりしたら、山とかに返した方が良くないのかな?本当に魔獣が生まれたら、家族が危ないよね?」
「そう言う事・・になりますね・・」
「じゃあさ、こっそり山の洞窟とかに隠しに行こうよ?それなら魔獣になっても、強い人たちが倒してくれるかもしれないよ?」
「しかし・・それは危険です。レイノルド坊っちゃんに何かあったら、大変です」
「スフィアが居るから大丈夫だよ!」
俺はその時気軽に考えていた。
「そうですわね、この屋敷に被害が出ない様にするにはその方が良いかもしれないですわね」
「うん。だったらすぐ行こう」
「ただし場所的にあまり遠くへは行く事は出来ませんわ。森を抜けた渓谷の入り口までなら、馬で急いで一時間位で行けるのでそこまでが限界でしょう」
「よし、それなら夕ご飯までには帰って来れるよね?」
「うふふ、坊っちゃんはいつでも食べ物が最優先ですわね」
スフィアの背中に抱きつき卵らしきものは上着の内ポケットに入れ、俺達は渓谷の入り口へと向かって馬を走らせた。
*****
どうなったんだ・・?。
体中が・・・痛い。
森の中をスフィアと馬に乗って走っていたはずだ。
キィィィンーー!!
ズガッッッ!!
・・バシュウ、ドンッ・・・
辛うじて薄目を開けて周りを見る。
馬が・・倒れている?
スフィア・・は?
先ほどまで近くで聞こえていた音は、もう聞こえなくなっていた。
「ス・・スフィ・・ア・・」
その時頭に激しい鈍痛を感じ、俺は・・気を失った。
*****
「・・・おい!! しっかりするんじゃ!!」
風の音に混じって男の声が近づいて来る。
草を踏む足音が微かに聞こえるが、耳鳴りがしてよく分からない。
俺の体を抱き上げ、頬っぺたを細かく叩いているようだ・・。
「むっ、まだ息がある。大丈夫か?ボウズ、名前を言えるか?」
男は必死に俺の肩を抱き抱え、額の血を拭き取りながら話しかけていた。
俺は、言葉を絞り出すように答えていた。
「・・・レ・・・ン・・・・・・」




