21、「決闘する その2」
「職業とは、それ即ち〈神から与えられた使命〉とも言うべきものなのよ!」
「はぁ・・使命?・・ねえ・・」
俺はダナの魔法攻撃を避けながら、彼女の話を何となく聞いている。
しかし、さすがに学園の教師をしているだけの事はあるな。
初級か中級か分からないけど、無詠唱でこれだけの魔法を続けて唱えられるとは。
「そしてこの学園はそんな使命を持った未来ある人材を育成するためにあるの!ダイン王国を護り繁栄させる為の精鋭のみが集える所なのよー!!」
「高速雷雨---!!!」
ダナの両手が雷を纏い、その指先から放射線状に幾重にも重なって噴水の様に雷が襲ってくる。
俺は、少し移動速度を上げてダナの背後に回り込む。
雷が着弾した場所は、もうもうと煙を上げて視界が悪くなっている。
「でも、超級職以外でも、強く素晴らしい人たちは沢山居るんだけどなぁ?」
突然背後から声がしたので、ダナは驚き俺から飛び退った。
「い、いつの間に・・」
「そんなにビックリしなくても・・」
ダナの肩は先程より大きく上下に揺れている。
かなり消耗してきているはずだ。
「超級職とは、神が人間に与えた職業の中でも最強にして最高の到達点!その凄さは貴方の様な田舎者には理解できる筈もない」
「まあ、田舎者だと言うのは間違ってないから否定しないけどさ・・・。職業のみで色んなものを決め付けるのは、どうかと思うけどね?」
「その血筋と、育てられた環境。この二つは大きく職業の決定に関与する・・・」
「・・・何が言いたいのかな?」
ダナは、ニヤリと口角を上げて一気に言い放った。
「貴方の職業がクズという事は、貴方を育てた人間もクズという事よ!!」
「!!!!!!!!???」
・・何だって???
クズ・・だと?
俺が・・・俺がこの世界で一番信頼し、尊敬するザックを、爺ちゃんを『クズ』だと?
「・・・おま・え・・・」
怒りを抑えることが出来なかった。
超特殊能力【イミテイト・ドール】は『古の竜族』の闘竜覇気を全身に纏う様に発動された。
纏っている光はいつもより赤みを帯び、そこから発せられる闘竜覇気は俺の怒りと同調するように辺りにいる者たち全員を威嚇する。
「ぐっっ!!」
立ち合い役をやっているカロリーネが、オーラに押される感じで後ずさり膝を付いた。
離れた所で見ていたその他の受験生達は、ほとんどが気を失っているか座り込んでしまっていた。
「何よ!これ・・」
ダナは少し後ずさったが、まだ立っていた。
しかし膝はガクガクと震え、杖を支えにして辛うじて・・という感じだ。
「・・お前が『クズ』と言った、その者の偉大なる力を思い知るがいい・・」
前に突き出した右手はダナの頭上に向いている。
赤い、いや〈紅い〉光の塊がそこに現れる。
その塊は、バチバチと紅い雷を放ちながら大きく膨れ上がっていた。
「死ね・・・。紅星極雷!!!!」
***
(まあ、後は座学だけだし~。ちょっとくらいは見に行っても良いわよね)
少しウキウキした感じでナタリアーナは試験会場へ足を運んでいた。
中庭の手前にある出入り口に降りて来た時、何人かが第3練武場へと入っていくのが見えた。
(あら、まだ試験が終わっていなかったのかしら?)
受験生たちに見付からない様に、後ろの方からこっそりと自分も練武場へと入った。
第3練武場は広いので出入り口がいくつかあり、生徒達とは違う所からナタリアーナは中の様子を見て驚いた。
(えっ?なぜ、レン君とダナが闘っているの?)
学園の教師であるダナと受験生であるレンが、広いフィールドの中で闘っている。
(レン君の相手はカロリーネだったはずなのに・・・どうしてかしら・・?)
見ると既に闘いは始まっていて、ダナの魔法による攻撃で対峙する二人の周囲にはクレーターの様な多くの穴が散見出来る。
レンは一向に攻撃する気配は見えず、ダナの魔法攻撃だけが凄まじい音を響かせていた。
(レン君は流石にザックに育てられただけあって、一通り戦える術を持っているのね・・)
ナタリアーナは、どうせならもう少し近くで二人の闘いを見たいと思い、受験生に紛れてフィールドの中央に近づいて行った。
(ここなら隠れるのに丁度いいわね・・)
フィールド内に点在する石積みの塀に身を寄せ、ナタリアーナは二人を見ていた。
「・・・おま・え・・・」
ダナが何を言ったのか、ハッキリとは聞こえなかったがレンは怒っていた。
(ぐっっ・・・!!!これは、闘竜覇気?まさか・・)
『獄炎魔導士』の異名を取るナタリアーナですら気を保つのが難しくなる程の・・・闘竜覇気。
(ザックに色々教わった記憶は分かったけど、この闘竜覇気の正体は何?そしてあの子は一体何者なの・・・)
歯を食いしばりながら思考していたナタリアーナが、ハッと気づいた。
(え、あの魔法は!!??)
レンが構えている掌の先、ダナの頭上で紅い雷が塊になって形を成していく。
それは彼女が、ナタリアーナが昔見た記憶にあるものと同じ。
(あれは・・・・ザックの?!!)
「それは駄目よーー!!レン君!!!」
飛び出したのは咄嗟の事だった。
自分でも何故飛び出したのか分からなかった。
ダナに、その魔法が浴びせかけられるその刹那・・・・まさにその瞬間、ナタリアーナはダナの目の前に現れた・・・・・。
****
「死ね・・・。紅星極雷!!!!」
カッッッッッーーーー!!!!!
一瞬、紅い雷に空全体が覆われた様な錯覚に陥ったが、その紅い雷はダナには当たらなかった。
「混沌鎮魂歌!!」
ナタリアーナの前に現れた、黒い混沌の闇の渦に紅い雷は飲まれていった。
ナタリアーナは今、ダナとレンの間に立っている。
「が、学園・・ちょ・・・・」
そう言いかけて、ダナはへたり込んでしまった。
「はぁ・・・はぁ・・。まさか、久しぶりに見たこの魔法を自分で・・・受ける事になるとはね・・・」
ナタリアーナは少し微笑んでいたが、額からは血が出ている。
服も破れている。と言うか、火中に突っ込んでいった後の様に焦げ付いていた。
「お母さんーーーー!!!!!」
アリューシャは叫んでいた。
ナタリアーナによたよたと近づいていく。
まだ、先程受けたオーラの衝撃が抜けないのだろう。
「お、お母さん・・。どうして、そんな無茶を・・?」
「アリューシャ?ああ、貴女も居たのね」
「居たのね?じゃないわよ!どうしてこんな無茶をするのよ!」
「だって・・、レン君怒ってるし。あのままだと、本当にダナが死んじゃうって・・」
「だからって・・・・」
「学園長!!大丈夫ですか?」
カロリーネが二人に声を掛ける。
ダナは未だに放心状態だった。
「ええ、私は大丈夫よ!カロリーネ、ダナをお願いね?」
「はい」
「ああ、それと・・救護班に早く来て貰ってちょうだい。受験生の看護をお願いするように連絡してくれない?」
「はい、ではすぐに・・」
カロリーネは、ダナの肩を抱き上げて連れて行った。
「あの・・え~っと、大丈夫?・・・じゃないよね。はは・・」
俺は恐る恐るナタリアーナに声を掛けた。
「レン君・・。大丈夫よ。まぁ、さすがにあの魔法はちょっと効いたけどね!」
「すいません・・。こんなつもりは無かったんですけど・・」
ふぅ、とナタリアーナは近くにあった石に腰掛けた。
「・・・混沌鎮魂歌は、魔力によって作られた〈混沌空間〉へと対象のものを引き込み、閉じ込めてしまう魔法なの。本来は、死霊や悪霊などの実体の無いものを閉じ込めるためのもの。咄嗟の判断で、紅星極雷を混沌鎮魂歌に引き込もうとしたんだけど、範囲が大き過ぎて一気に取り込むことが出来なかった分だけ自分にダメージがきちゃったみたいね・・・」
「お母さん・・・」
アリューシャはまだ心配そうだ。
「大丈夫よ。これくらいで死なないのは、貴女だって知ってるでしょ?」
「でも・・」
「それに、どうせこの闘いを嗾けたのはダナの方でしょ?」
「どうして、分かるの?」
「そりゃあ、分かるわよ~。伊達に学園長なんてやってないわよ!」
ナタリアーナはそう言って俺の方へと向き直った。
「レン君」
「え?はい!」
「学園長権限で、貴方の特待生試験は『合格』とするわ」
「でも・・・」
「自分でも気が付いてないと思うけど、貴方は強いわ。あり得ない位、ね!」
「は、はぁ・・」
「貴方の力が正しき道を歩める様に、ちゃんとした教育が必要だわ。絶対に!!!」
ナタリアーナは力強く頷く。
「口出しはしないでおこうと思っていたんだけど、こればかりは仕方が無いわね。あ、それから・・・」
と言いかけて、人差し指を立てる。
「あの最後の魔法は軽々しく使わないでね?あれは、一つの街を一瞬で消し去る威力があるんだからね?お願いね?」
「は、は~い・・・」
なんちゅう魔法教えるんだよ・・・爺ちゃん・・。
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