16、「アリューシャ」
サムスの町を出てから暫く経った。
比較的高度を高くして、右手に河を見ながら快調に王都に向かって飛んでいる。
「王都って、結構遠いなあ・・」
地平線の向こう側には、まだそれらしきものは見えない。
(やっぱりこの世界は”地球”じゃない何処かの星なのか、それとも違う”地球”なのかな?)
『前世とは違う意味での異世界』だとちゃんと認識したのは、12歳のあの日だと思う。
超特殊能力【イミテイト・ドール】とネイの能力のおかげで翼が手に入ったあの日、ひたすら高く飛んでみた。
どれくらい高く飛んだだろう・・・、自分が思っている様な異世界『平面世界』では無かった事だけは確かだった。
でも、自分の知識が即通用する様な世界でもなかった。
空はどこまで行っても青いままだし、所謂『宇宙』的なものにはならなかった。
科学が発達していない世界。
魔法が使え、神が世界に現われる世界。
人間以外の亜人と呼ばれる存在。
転生した、と言っても過去の自分から考えれば”空想”の中に生きている感覚が拭えなかった。
でも考えたからと言って何かが変わる訳では無いのは、まあそうなのだが。
(普通の結婚をして、仲良く家族で平凡な生活がしたいなあ・・)
転生する時に女神にお願いしたのはその程度だったはず。
特に何か不満があるというのでは無いけれど、限りなく平凡を望む自分としては転生してからのこの10年間はあまり平凡では無かった様な?
それが、不満と言えば不満か・・。
(お、漸くのお出ましか?)
遠くからでも大きいのが分かる様な『都市』が見えてきた。
中央部分の突出した建物は王が住む城だろうか?
高度がかなり高いからそれほどには感じないが、王都へと続く街道には結構多くの人々が往来しているようだ。
「さすがに、このまま突っ込んで行くと撃ち落されかねないなぁ」
高度を落として、森の中へ降りる。
人目も無いので王都の方角へ全力で走る。
全身に淡い光の服を纏い、猛スピードで木々の間を駆け抜けていく。
(『傭兵』の暗視と見切りスキルは使えるな。戦闘以外でも応用が利くのが良いな・・。レーナの体術や身体強化は、人間相手の時は重宝しそうだな・・)
この間、サムスの町でアントゥスと決闘した時にコピーした職業『傭兵』とレーナの『武闘術士』は対人戦に優れてそうだ。
全容解明!とまではいかないけど、それなりには自分の持つスキルが分かってきていた。
単純に敵を倒すだけならば、ネイが持つ竜の力があれば良かった。
ただ人間相手には強すぎて力の調整が非常に難しい。
超特殊能力【イミテイト・ドール】が発動する能力は、あくまでも『スキルが発動するスキル』という位置付けになるようだ。
それでも打撃や蹴りならば、インパクトの瞬間にずらしたり引いたりする事で多少の加減は可能だけど、魔法はそういう訳にはいかなかった。
能力が発動した時、初っ端で山を一つふっ飛ばす失敗をした。
その後も空へ行き、何度か調整を試みたが無理だった。
レーナのスキルなら竜よりは弱いだろうから、力の調整はもう少し楽だろう。
職業と能力の関係性も完全理解している訳じゃなかった。
魔法系は魔力を消費するし、無くなると意識が無くなる。
体力は無くなると”死”を意味する。その程度だ。
ただ、自分の持つ『鑑定』というスキルは魔力も体力も使わない。
問題になるのは、使用する対象よりも自分のスキルレベルが高くないと効力が発現しないらしい。
『算術』スキルも情報処理や解析に特化しているので、意識がある状態ならいつでも使える。
(まだ1週間も経ってないし、その辺の解析はこれからの課題だな)
木々の間を走っていたが、突然パァァ!!と目の前が明るくなり広い場所に出た。
*****
ハァハァ・・。
もうすぐ王都に着くはずなのに・・。
やっぱりお母さんと一緒に行けば良かったかな・・。
こんな大変な事になるなんて・・。
どうして寝てる間に馬も荷物も無くなってる訳?
あり得ないんだけど!!
鞄まで取られちゃってるけど、襲われなかっただけマシなのかしら?
って言うか、こんな美少女を襲わないなんて、失礼よね!
盗賊失格じゃない?
それにしても、此処どこ?
なんか広場みたいな所に出たんですけど・・。
ああ、お腹減った・・。
そのまま少女は大きな木の根元に座り込んで、気を失ってしまった・・。
*****
突然広い場所に出たので、俺は立ち止まりゆっくりと辺りを見廻す。
元々街道からは少し外れたところを進んでいた筈なので、街道では無い。
焚火の跡が見られるから、旅人が野宿をする様な場所なのだろうか?
ん?
大きな木の根元に一人の女性が横たわっていた。
近づいてみるが起きなかった。
衣服はそれほど乱れていないから、魔物や盗賊に襲われた感じではない。
病でも発症したのだろうか・・。
「大丈夫ですか?」
「・・・」
「大丈夫ですか?薬要りますか?」
「・・み、水を・」
「水?」
「お、お腹・・減った・・」
どうやら空腹のようだ。
とりあえず俺は、鞄から水筒を出して手渡す。
結構な勢いで飲んでいる。
それから、ネイが作ってくれたお弁当をあげた。
ジューシーな肉が挟まったサンドイッチの様なものだが、ガツガツという形容詞がピッタリなくらいに一心不乱に食べている。
余程お腹が減っていたのだろう。
俺はその女性の隣に座り、暫く続く咀嚼音を黙って聞きながら涼んでいた。
ガサガサとパンを包んであった紙を丸める音がして、女性がフウーっと息を吐いた。
ごちそうさま、と呟いた女性はこちらに向き直り俺の手を握った。
「ありがとう!とても美味しかった!」
「それは良かった。病気やケガじゃ無いんだね?」
改めて問い直す。
「えっ?!あ、ええ・・。ちょっと色々あって、食事が出来て無かったの。本当に助かったわ」
顔を赤らめながら女性はそう言った。
「あはは、気を失うくらい食事を抜くなんて、体形でも気にしてるのかい?」
「そ、そんなんじゃないわよ・・。盗賊に盗まれたのよ・・」
「それは、大変じゃないか!?取り返しに行かないと」
「良いのよ、もう。それに王都まではもうすぐだし、時間が無いわ」
「そうなのか?王都までなら俺も行くから、一緒に行くかい?」
「それは有難いけど、良いのかしら?」
女性は少し小首をかしげて悩んでいる。
「ああ、俺の名前はレン。ハイマインド王立学園の試験を受けるために王都まで行く途中だ」
「私はアリューシャ。なんだ、貴方も学園の試験を受けるのね?」
「貴方も・・・って事は、君も受けるのかい?」
「ええ、明日行われる『特待生』試験を受けるのよ」
「へえ。じゃあ、ライバルだな?」
「うふふ、そう言う事になるわね?レン、と呼んでも良いかしら?私の事はアリューシャって呼んでくれて構わないわ」
スッと立ち上がり、ワインレッドの綺麗な髪を左手で撫でながら右手を俺の方へと差し出してくる。
「改めまして!王都まで短い間だけど、護衛宜しくね?」
「ああ、任せといてくれ!」
アリューシャと握手をしながら短く返事をした。
(ふうん・・・魔王の娘?魔王だって・・?『反転』に『魔吸収』?何だか凄そうなスキルだな・・。見たところ普通の人間にしか見えないのになぁ・・)
隣で歩くアリューシャを見ながらそう考えていた。
街道に戻って普通に歩いていたが、小一時間程度で王都へは着いた。
町へ入る手続きを終えると、アリューシャは俺の顔を覗き込みながら今日の宿を聞いてきた。
鞄からレーナに貰った紙数枚を出して確認してみる。
ご丁寧に町の地図が書いてあり、学園の南へ通り3つくらい入った【竜の髭亭】という宿屋だった。
「あ、ここなら近いわね。後で学園の前で待ち合わせしない?」
「下見に行くって事かい?」
「いいえ、私の家が学園の近くにあるのよ!もし良ければ、晩御飯を一緒にどうかしら?」
「え、でも・・」
「貴方にはお礼をしたいし。学園の正門に6時ね!じゃあ後でね、レン!」
手を振りながら走って行ってしまった。
まだ返事もしてないが、それほど悪い気分でもない。
見た事の無い様な大きな建物や綺麗な石畳、青々とした街路樹・・。
全てが物珍しくてきょろきょろしてしまう。
完全に田舎者のお上りさんだ。
「こういう所に住むのも悪くないかもな・・」
転生してから初めてかもしれない高揚した気分で、今日泊まるはずの宿へと向かうのだった。
ようやく初期構想のアリューシャ登場です。




