14、「レーナの想い」
「これは強制でも義務でもないから、楽な気持ちで聞いてくれ」
レーナはそう前置きをしてから話し始めた。
「ここ、サムスの町がダイン王国の領土内にある事は知っていると思う。北は山に囲まれており、町としては領土の最北端に位置すると言っても差し支えない。現在、この町には7万人以上の民が暮らしているのだが、『貴族が治めない都市』という特殊な形態からすればかなり大きい方だろう」
レーナは軽く息を吐くと、テーブルにある飲み物で喉を潤した。
「名目上は”王直轄の”という事にはなっているけど、サムスの町はほとんど『自由都市』という形で治められているんだ。決まった領主は居ないが、組合の長がそれぞれ順番に領主の役割を担っている。それで今年は私の番、って事なんだ」
「それと僕の事とはどんな関係が?」
俺は率直に聞いてみた。
「ふむ。町には5つの組合があるんだが、領主になる番が来た時に王へ納める〈税〉をそれぞれ組合の特色に合ったもので納めてるんだ。貨幣的な徴税は毎年行われているが、他の都市に比べればかなり少ないはずだ」
そのレーナの話しでは、
『職業組合』では、職業に関する研究の成果等。
『商人組合』では、新しい素材や他国の情報等。
『薬師組合』では、より効果の高い新薬の開発等。
『職人組合』では、画期的な武器や防具の開発等。
これらの内容を踏まえて、〈税〉という形で一定期間をおいて国王に納めなければいけないのだと言う。
「要するに、”自由にして国へ納めるお金を減らしてやるから潤った分だけ物や情報で返せ”という事さ。確かに税金が極端に少ないおかげで、商売したい奴や薬の研究開発したい奴なんかが町には多くやって来る。稼ぎが少ない者も何とか生活は出来るから、スラムは出来にくいし盗賊もほとんど居ない」
「じゃあ、良い事づくめじゃない?」
レーナの話しにジスレットがそう聞き返した。
「ああ、『長』ではない多くの民にとってはな。だが、組合の長となると話は変わる。簡単に言えば、5年以内に新薬を開発したり、王が気に入りそうな服の素材や珍しい食べ物を見つけなければならないからな。それはそれで、かなりの苦労なんだよ・・」
レーナはまた一口飲み物を飲み、ため息を吐いた。
「それでだ、『冒険者組合』が納めなきゃいけないのは〈人材〉なんだよ・・・」
「「「人材??」」」
俺とルネリ、ジスレットの声が揃って出た。
「そう、人材だ。それも上級職業、いや超級職業まで到達出そうな人材を一人は見つけ出さなければいけない」
「超級職業に到達出来る逸材なんて、そんな簡単に見つかる訳が・・」
信じられない、といった表情でアントゥスが呟いた。
「ふふ、そんな逸材が居ればうちの冒険者組合に欲しいもんだよ。ただ一口に〈人材〉と言ってもこれには条件がある。職業クラスが『初級』で、尚且つ『特待生』としてダイン王国の王都にある【ハイマインド王立学園】に入れる能力を持っている事。この条件をクリアしないと駄目だから、誰でも良いって訳にはいかないんだよ」
「ハイマインド王立学園・・・、『聖騎士』や『賢者』等の・・・超級職業を何人も・・・輩出して・・いる名門の・・・学園・・・」
ルネリが俯きながら呟くのをレーナは見ていた。
「良く知ってるね?その名門学園に『特待生』としての候補を送るんだけど、もう3回連続で選出した人材が落ちてるんだよ・・・。私がギルドマスターになったのは二年前だから、これはほとんど前のギルドマスターの責任だけどね。まあ、国からしたらそんな事は関係ないけどね」
「・・次に落第者が出たら、ヤバいって話しですかね?」
「端的に言えばそう言う事さ。次も落第者しか見つけられない様なら自由都市のメリットを外される。何処かの貴族がやって来て町を治める事になるだろう。私はお前さんの能力なら大丈夫だと思うんだけど、どうだろう?」
「どうだろう、っていきなり言われても・・・・」
俺は真っ直ぐ見つめるレーナから目を逸らしながら、言葉を濁した。
「いや、すまない。確かにそうだ。初めにも言ったけど、強制でも義務でも無いから嫌なら断ってくれても構わないんだ。でも、もし受けてくれるなら全てに於いてお金の心配は要らない。掛かる費用は全部ギルドが負担するから!」
「断るよ・・・と言いたいところだけど、他に当てはあるの?」
「・・今は・・無い」
「入学試験までは、後どれくらいの余裕があるの?」
「試験は、5日後だが・・」
「いや、もうすぐだよね?それ!」
「ああ、正直どうしようもない位に追い詰められている」
「もし僕が断ったとして、このまま誰も候補が見付からなかったら?そうなった時にレーナさんがどんな状況になるかは、もちろん理解しているんだよね?」
「それは・・・・・・」
今度はレーナが目線をテーブルに落とした。
他の組合が熟せているものを冒険者組合だけが出来ていないのだから、国としても放っておけないし他の領地への示しも付かない。
ましてや、これほど活気があって商業も工業も盛んな都市がある領地を欲しいと思う貴族はたくさん居るだろう。
他の組合にしても、長のしている苦労は今の『自由都市』のメリットに見合ったモノだと思ってるはずだ。
それが一気に消え去るのだ。
その責任が、今のギルドマスターであるレーナさんに全て圧し掛かってくるのは明白だ。
俺は自分の『算術』能力で可能性の情報処理をした結果、そういう結論に至った。
学園・・、また学校に通う事になるのは嫌じゃないが、面倒くさいなぁって感じる。
ん・・いや・・待てよ。俺はある事に気付いた。
「レーナさん。ちなみに、その学園の『特待生』としての合格条件は何?」
「え、ああ。確か、剣技と体術。それから魔法は攻撃か治癒のどちらかだったはず。後は座学が少しだね」
「なるほど・・」
俺は少し悩むふりをしてから、ルネリとジスレットの方を向いて言った。
「僕は、レーナさんのお願いを聞いてあげようと思うんだけど・・・。もし入学したら暫くは町には帰って来れないだろうね。でも冒険者は辞めたくないし、他のパーティーに入るつもりも無い。ルネリ、ジスレット。僕が戻って来るまで、パーティーに居場所を残しておいてくれる?」
「当たり前でしょ!!」「・・・うん・・いつでも・・待ってる・・」
二人は即答してくれた。
そんな俺の後ろから、誰かがガバッ!と抱き付いてきた。レーナだ。
「ありがとうーよ!!良かった、助かったよー、ホントに!!お前さんに断られたら、もう死ななきゃならねえと思ったよ!」
頭の後ろの方に当たる双丘の感触が嬉しく・・・いや、恥ずかしくて身悶えていた。
「分かった、分かったから。それにまだ受かって無いから、はしゃぎ過ぎだよ!」
「いや、お前さんならもう大丈夫さあ。アントゥスにも感謝しなきゃいけないねー。こんな逸材、百年いや千年に一人だねー!」
ルネリが俺の手を握ってきた。
「レン・・頑張って・・ね。・・応援してる・・から・・」
「ああ、もちろん。やるからには、全力でやるよ!後、エルベットにもちゃんと話さなきゃね!」
入学するまでが俺の役目だから、そこだけ頑張れば良いだろう。
聖騎士や賢者とか言われても正直面倒くさいだけだし、俺に素質がないと分かれば適当に卒業はさせてくれるだろう。
「明後日には一度このギルドまで来てくれ。護衛を付けて馬車で送らせるから」
「レーナさん、ちなみに王都ってこの町からだとどう行くのが早い?」
「ここからだと・・西に流れる川に沿って南下し、徒歩で一週間。馬車なら2~3日ってところだな」
(馬車で2日か。飛んで行けば2時間ほどだな・・)
「じゃあ、試験前日のお昼頃にまた来るよ。その時に詳しい事は聞くから・・・」
そう言うと俺は素早く立ち上がり、レーナに軽く頭を下げてから皆が呆気にとられているスキに逃げる様に部屋を出た。
「え、おい、前日って・・・それでは間に・・」
レーナの焦っている声は、扉を閉めると聞こえなくなった。
(おおうぅ、何とか逃げ切れた~。)
自分でもせこいとは思うけど、弁償の話しが出なかったのでこれ幸いに脱出出来て良かった。
建物の外に出ると、日が傾きかけていた。
思ったより時間が掛かってしまったから、ネイへのお土産を買って早く帰ろうっと。
試験の事も話さないといけないしな。
そんな事を思いながら、町の雑踏の中を更に速度を上げて歩いて行った。




