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12、「マゾと決闘」

エルベットはテーブルに突っ伏して寝てしまっている。


レンはさっき買い取って貰ったフォレストウルフのお金をテーブルに乗せた。


「僕は3枚貰うから、後は・・3人の分。これでちょうどだね」

「いや、それは全然合わないでしょう!貴方が一番少なくなっちゃうじゃない!」

職業組合(ジョブギルド)でロドニエルさんに金貨2枚の報酬を貰ったから、同じ数だよ!」

「レン・・・何か・・違う気が・・」


つまりは、レンが今日手に入れた金貨が全部で20枚だから4人で分けると5枚ずつ。


「ま、面倒くさい事は言いっこなしで。これでいいよね!」


二人は顔を見合わせて

「レンがそれで良いなら!」「レン。・・ありがとう・・」


(良かった、結構強引に話し進めちゃったけど何とか納得してくれたみたいだ)


鞄に金貨を仕舞っている二人を見ながら、そう考えていたら・・・バンッ!!!


「ッ!!??」


背中に結構な痛みを感じる。


「よう!さっきの魔物はお前さんが仕留めてきたのか?」


見ると30歳くらいの銀髪の男がレンの後ろ側に立っていた。



 ***



「俺の名はアントゥス!中級職(ミドルクラス)の傭兵だ。どうだ、俺のパーティーに入らないか?」

サバイバルナイフの様な剣を二本腰の辺りに装備している。体は大きくないが、かなり引き締まった肉体を持っている感じだ。


「・・・っていうか、あんた誰?」

背中をさすりながらレンは聞いた。


「何?!Aランクパーティー【シルバーホーク】のアントゥスを知らないのか?ひょっとしてよその町から流れてきたのかお前さん?」

隣のテーブルで飲んでいるオヤジが教えてくれた。


「シルバーホーク?!!」

「知ってるの?ジスレット?」

「私達Cランク程度じゃあまりお目にかかる事も無いけれど、色んな意味で有名なパーティーよ!」

「ふ~ん・・」


少し含みのある言い方をしたジスレットはアントゥスを睨んでいた。


「まあ、ランクも上がれば嫉妬や噂もあって色んな話が流れるのは仕方ないんでな。しかしなお嬢ちゃん、ギルドのランクは悪人じゃあ上がらないぜ?そこら辺は覚えておきな!」


そしてアントゥスは改めてレンの方へ向き直り、

「っで、どうだ?俺のパーティーへ入る気は無いか?」


(銀髪の中年か~。でも傭兵って言ってたな・・。スキルは興味あるな~。)


「おじさん悪いんだけど、僕は職業(ジョブ)貰ったばかりなんだ。それに、他のパーティーにも先に誘われているから。ごめんね!」

「な・・」

アントゥスは、信じられないといった感じで言葉が出てこない。


(おじさんと言われて怒っちゃったかな~?ホントはがっつりとは冒険したくないんだけどな。でもお金貯めるのは、この世界では冒険するのが一番の近道なんだよな~・・)


「クフ、フフフ・・アハハ・・。面白い!実に面白いヤツだ!」

「おじさんマゾなの?」

「マゾではない!いいか!俺の誘いを断るのならば、その度胸と力を示せ。俺と闘ってお前が勝てば遺恨を残さず諦めよう。もし俺が勝った場合はパーティーへ入れ。俺が一から鍛え直してやる!!」


バーン!!とレンを指差し、そう大声で宣言していた。


(え~、何この脳筋パターンの流れ。そろそろネイのお土産買って帰ろうと思ってたのに~。まあいいっか、スキルだけ貰って、さっさと終わらそう・・)


そんなやり取りを見ていた建物内の人たちは、なぜかゾロゾロと移動している。


「そう言えば名前を聞いていなかった。教えてくれ!」

「レンだよ」

「レンか。良い名だ」

アントゥスは満足気に頷いた。



  ***



アントゥスに促されてギルド建物の奥へ行くと30~40m四方の広場があった。

ここは恐らく修練場か何かだろう。

建物に直接被害が出ないためにだろう、周りは壁より内側に防御柵の様なものが作ってあった。


「へえ、こんな所があるんだ・・」

「レン、何をのんきな事を言ってるの?大丈夫?」

「レン。・・・怪我したら・・すぐ治すから・・」

「あ、うん。適当にやるよ~」


観客たちは慣れているのか、すでに金を集めて賭けをしてる奴らまでいる。


「冒険者同士の争い事はギルド内ではご法度だ。これは正式な『決闘』としてやるからな。だから、武器や魔法は無しだ。お互い素手で勝負だ!」


「は~い」

アントゥスの説明に一応レンは返事しておいた。


(つまりは殺し合いはダメよ!それ以外なら、まあ大目に見るわよ♪って事なのかな?)


「アントゥス、久しぶりにやるのかい?」


紫色のロングヘアーを無造作に括った女性が、そう言いながら何処からか現れた。


「ああ、久しぶりに見所のある若者を見つけたのでな!」

「じゃ、しようがないからアタシが立会人やってあげるよ!」


紫髪の女性は二人の中間地点に行き、一呼吸おいて観客達にも聞こえる声で言った。


「いいかい!気を失ったり、アタシが続行不能と判断したら終わり!武器と魔法は使わない!殺し合いじゃないからね!分かったね?二人とも」


「ああ、もちろんだ!」 「は~い!」


「では、始め!」




  ***




・・・それは一瞬、ホントに一瞬の出来事でした。

瞑っていた目を開けた瞬間レンの姿は消え、対戦者のアントゥスは20m程向こうの防御柵まで飛んで行きました。

そして防御柵の一部を激しく壊した後、倒れたまま起き上がって来ませんでした。


「・・え~、あっと、君の名前は?」

「レンだよ!」

「そうか・・コホンッ!」


「勝者、レン!!」


静まり返った修練場にその声が響くと、ワアァァーー!!と大歓声が沸き上がりました。

・・何という事・・。紫色の髪の女性、ギルドマスターは『勝者として』レンの名前を宣言したのです!

私は・・嬉しくて・・嬉しくて・・気が付けば彼に抱きついていました。



  ***



「ちょ、ちょっと・・・どうしたんだよ?」

いきなりルネリが抱きついてきた。


「レン・・・良かった・・」

かなり心配してくれていたみたいなのは分かったが、場所が場所だけにちょっと恥ずかしい。

体に当たっている二つの膨らみをもう少し堪能したい、と思ったのは内緒だけど・・。


それにしても思ったよりも飛んでいったな~、と倒れているアントゥスを見ながら頭を掻いていた。

ずっと抱き合っている訳にもいかないので、

「もう大丈夫だよ」

と言いながら軽く彼女の頬を撫でて体を離した。


顔を赤くしながら俯ている彼女を置いて、取り敢えずと思いながらアントゥスの近くまで行くと、さっき立会人をしてくれた紫髪の女性が声を掛けていた。


「アントゥス、大丈夫か?」

体を揺らしたり、頬をぺちぺち叩いたりしているが起きる気配はない。


俺は鞄から回復薬の入っている水筒をおもむろに出して、それを倒れているアントゥスに掛けた。

体中に万遍なく掛けたあたりで、ムクリ!とアントゥスは上半身を起き上がらせた。


「む、俺は、どうしたんだ??」

頭に手をやり、まだ意識がはっきりしないのか顔を軽く振っている。


「ごめんなさい。もう少し手加減するつもりだったんだけど、まだ上手く調節出来なくて・・」

俺はアントゥスに謝った。


「・・俺は、負けたのか・・・?」

「ああ、そうだ。負けたんだよアントゥス」

「まだ信じられん!・・全く、見えなかった」

「心配するな。私にも全く見えていない。というより、ここに居る全員見えていないと思うが・・」

「・・そうか。・・いや、そうだろうな・・」


アントゥスと紫髪の女性が話している間に、俺の近くにジスレットとルネリが来ていた。


(さすがにちょっとやり過ぎたかな~。防御柵まで壊しちゃったよ・・。)

やっぱり弁償はしないといけないよな~、と考えていると紫髪の女性がこちらに向き直り


「ここではあれだから別の所へ行こう。ちょっと付いて来てくれ」

有無を言わせぬ感じでそう言われ、素直に従った。


(ああ~、そうだよな~。やっぱり弁償だよな~・・)


当初の予定通り、アントゥスの『傭兵』スキルの吸収には成功していたのだが、俺の頭は弁償で一杯だったためそれどころでは無かった。


アントゥスさんはマゾ。

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