悪役令嬢の第九歩: 鬼の居ぬ間と鬼と一緒に洗濯
俺は今………久しぶりに親友のノブリスとその想い人であつ銀姉の玩具にされてしまった悲劇の少女シンシアさんと同じテーブルにいる。二人が「珍しい」と表情に書いており、その表情で俺を見る。
「……なに?」
「あっいや………シャーリーさんと一緒じゃないのかと………」
「はい、シャーリーさんは?」
「……学園を欠席している」
きっと、昨日渡した小説を読みすぎて夜更かししたのだろう。小説の買いすぎで最近お小遣いは停止させられ、俺にせがんで仕方なく買った次の日でこれである。自由すぎだろ銀姉さんよ。世間体を気にしない。
「そうか、僕はてっきり退学かと期待したが………」
「……退学しても。驚異は変わらんさ」
現に退学させない時点で学園側もビビっている。「そこまで怖いか銀髪の女は?」と思う。俺に押さえるように依頼が来るほどだ。なぜそうも怖がるのか、理由を知りたいが黙認されている。
「ハンカチ返してないです」
「……返えさなくていいと思います。苛められるのが目に見えるでしょう」
「そう……ですね……あの……聞いたんですけどでも……私の代わりに『怒ってくれた』って……」
シンシアさんは複雑そうな顔をする。結果を見れば確かに「シンシアさんを殴られて怒った」と言えるだろうが。自分は「餌をあげたにすぎない」と思っている。
「……ええ。しかし、それは手を出した事だけで苛めることを怒ったわけではないです。期待してはいけない」
「そうだ、親友の言う通りだと僕は思う。油断してはいけない」
「でも!!………あのとき……優しかったのは……嘘では……」
「彼女は……銀姉はですね。笑顔で人を騙し捕食する魔物のような人と思ってください。外面いいように演じて近付いて悪さをする。ダメです、シンシアさんは近付いてはいけない」
俺は正直に答える。「好きな人をここまでボロクソに言うのはおかしい」と思いつつも。
「あの………ソーマドールさま」
「……なんですか?」
「何故……ソーマドールさまは銀姉さまとお呼びに?」
「……『銀とお呼びしろ』と言われてます」
「ソーマドールさまはいつも一緒にいて……悪さはされてますか?」
「……少々」
「辛くはないのですか?」
「それは……」
その問いは俺は「何も言わないでおこう」と思う。辛くはない。見ていられる。隣で。
「……馴れました」
「ハンカチ。お返し……お願いします。羨ましいですね………」
「……羨ましいですか?」
「シンシアさん。羨ましいってそれは少し……変ですよ」
「……ノブリスの言う通りです」
俺なら羨ましい気持ちはわからなくはない。
「あの……遠くで見ることがあるんです。二人を……その……ソーマドールさんは楽しそうに話してるのを見てるのです。私の知らないのがあるんじゃないか……ずっとずっと悩んでいます」
顔を伏せてドレスのスカートを掴み。言葉を絞り出していた。自分はつい、頭を撫でようとしたが……思い止まり手を引く。
「シンシアさん。銀姉を絶対に嫌いにならないなら。夏休み後。少しお話をしませんか?」
「えっ?」
「まだ、私めが弱いので。言えるようになりましたらお伝えします。きっと疑問に答えられます」
「ソーマ……お前いったい?」
「……ノブリス。男は変わるものだ。過去の英雄のように」
シンシアは強く何度も頷いた。俺はそれを見て……「彼女の善意を計画に組み込もうか?」と思うのだった。俺もどうやら、毒されてきている。
*
僕は寝坊してしまった。お昼頃だ。理由はわかる。昨日久しぶりに恋愛小説を読んでしまい。眠気がなくそのまま朝まで読んでしまった。そこから寝てしまった。豊満な胸に押し付けられ力強くその本を抱いている。
内容はもちろん。冷遇されたお嬢様が王子さまに救われる物語だ。八方美人の令嬢や、ワガママ令嬢や王の娘やらに意地悪されながらも進んでいく物語だった。
王道だからこそ素晴らしい。王道だからこそ外道が冴える。「王道がすべての母であり神であり、その物が始まりである」と僕は思ってる。こんな王子がいないのに妄想してしまう。
「ノブリスさん確かにちょっとヘタレかも。思ったより」
記憶の曖昧なものを頼りに考える。
「そう、でも、それよりもソーマもちょっと喋りすぎかも」
そう、ソーマドールは無口でクールであまり喋らないポーカーフェイスのキャラだった。喋っても声は小さく大人しい。そうノブリスが陽ならソーマドールは陰なのだ。
「うーむ。確かに内面は色々と考えを表へ出さなかったキャラだったような………気のせいか?」
それは友達の前だけの恥ずかしがりだったのかもしれない。その仮面を剥ぎ取れば実は活発そうなイケメン君だったのかもしれない。
「表では見えない裏の顔かしらね」
ベットで横になり、ソーマドールを思う。少し他と違いすぎる変わって行く彼に興味を引かれた。知らない彼に。
「本の読みすぎによる妄想癖と精神異常が目を曇らせたのかも………変なの」
歪んでいるのかいないのか。僕にはわからない。過去の記憶も思い出させたのは趣味と死んだ理由ぐらいだ。
「お嬢様。ご飯です」
「はーい」
「今日はホットサンドね」
「ええ、あと………お客様がお見栄です」
「ん? 誰かしら? ソーマドール?」
「正解です。流石は好きな人ですね」
「はぁ~違うわよ。ソーマドール以外に来る友達はいないの~わかった?」
「なんとお痛わしい」
「あなたねぇ~友達なんて多いより少ない方がいいわ。面倒よ」
「そうですか」
ベットから起き上がり着替えを済ます。時間的にもうお昼と言うよりもおやつの時間帯だ。
「ご飯食べながらでいいわね」
「それは……令嬢的にどうかと?」
「気にしなくてもいいお相手よ」
「かしこまりました、非常に心を許されている相手なのですね」
「ぶっとばすわよ」
メイドがテーブルにホットサンドを置いて私は椅子に座り素手でつかんで頬張る。野菜にカラシにハムにトマトにさくさくのパン。美味しいに決まっている。
「あぁ~おいしい」
トントン
「どうぞ~」
戸を叩いたのはソーマだった。メイドは叩かずにズケズケと入ってくるため、わかりやすい。おい、メイド。
「おはよう。今起きた所だな?」
「失礼ね。今じゃばいわ」
「髪跳ねてるし。令嬢らしくなく食べながら話してるぞ~」
「あら、ふふ。だらしない」
「……まぁ、いいと思うけどな。自然体のゆるふわ銀姉かわいいなぁ」
「ぶっとばすわよ?」
向かいの席にソーマは座る。
「いいのかしら? 令嬢の家にこんなに頻繁に来ても?」
「怒られてはいない」
「あなたも悪い子ですね」
「君と一緒だと悪い子より良い子に見えるよ」
「甲乙つけがたいと言いましょう」
「まぁそうかもな。銀姉……夏休み大丈夫か?」
「大丈夫ですわ」
「じゃぁ……お願いします」
ソーマドールは「強くなりたい」と私に頼んでいた。私もそれはなんか、「秘密の特訓で強くなるライバルキャラは素敵と思い協力しよう」と思う。お小遣いも貰っているし、代わりに鍛えてあげよう。
「……よし。食後付き合えソーマ」
「なに?」
「先に買い出し行くぞ」
「なにの?」
「ポーションの材料をな!! 時間が短いからな」
「??」
良くわかってない顔をするソーマドール。まぁわかるようになる。「嫌」と言うほどに。
*
カランカラン
「あら、いらっしゃい。シャーリーちゃん。その方は彼氏さんかい? 下僕かい?」
「こんにちは。後者よ、おばあちゃん」
私はソーマを連れて路地裏を歩き。深い顔を隠せるローブを外す。ソーマも同じようなのをつけながら珍しいのか目を輝かせていた。店のなかは色んな雑貨や、薬棚、ポーション等。多くの物が置かれており、非常に雑多な感じがする店だ。しかし、表はだ。
「うわぁ~すげぇ~」
店の奥へと案内され奥では本が並ぶ。魔法書等、錬金術の本も置かれている。
「凄いでしょ。秘密基地とか裏路地の怪しい凄い店って憧れない?」
「男はみな、憧れるよ。凄いねこれ……全部高そう」
「高いよ。お小遣いは1年2年じゃない。貴族の命と等価よ」
「おっと、無闇に触るもんでもないな」
「ケケケ、仲のいい事で。でっ? 欲しいものは?」
「これを」
私は羊皮紙のメモを手渡す。おばあちゃんはそれを見て空木箱をもって薬棚に行き詰め込んでいく。
「何を?」
「薬草を。劇薬もある」
「誰を殺すんだ?」
「殺すならもっと優しい薬にする」
「殺すのに優しい薬があるのか?」
「私が飲んでも死なない薬。まぁ君達が飲んだら悶えて死ぬでしょうけど」
「……なんでそんなことに」
「私たちの家は毒を喰らっても大丈夫なように進化してきた。犠牲を払ってね。だから~逸話がある」
「どんな?」
私は自慢げに話を始める。
「ある日、依頼人の家に呼ばれたの会食でね。そこでは依頼人とご飯を共にするわ。毒が入ってるの知ってて」
「もしかして……」
「毒を喰らわな皿まで。ぜーんぶ食べきったらしいわ」
「それでそれで……」
「依頼人が疑問に思って味見役に味見させたの。そしたら死んだの味見役。依頼人は恐怖するわ。そして厚遇を約束する。依頼人に『忠誠誓っててショックだった』て書いてあった。後に和解したわね」
「へぇ~」
「はいよ!! お代はお父さんに請求しとくわ」
「うん、ありがとう」
木箱を受け取りそれをソーマドールに手渡した。
「男が荷物もつ」
「わかった……女の子だもんな」
「ええ、そうよ~」
今日は何故か気分がいい。何故か気分がいいのだった。




