悪役令嬢の第六歩:可愛い眠れるお嬢様
トントン
「お嬢様……朝です」
「……」
「お嬢様。学園に遅刻します」
「………」
「お嬢様!! 暗殺教室が始まります!!」
「暗殺しないわよ!! うるさい!! 今日は………重い日で行きたくないの!!」
「じゃぁ……代わりに血祭りにしておきます」
「もっと可愛い冗談を言って………はぁ、血の気が多い多い……」
私はベットの上で天井を眺める。一睡もできなかったがやっと睡魔が襲ってくる。何でこんなことになってしまったのだろうかと一晩中悩んだ。
いや、胸に残る感触が………男の大きくゴツゴツしてそれでいて逞しい感触が眠りを妨げたのだ。
目を閉じればソーマの顔を思い出して胸の揉まれる感触が思い出される。一瞬だけの行為じゃなく数分の行為に思われた。一瞬だけなのに丁寧に弄られた。そう、男に初めて触られたのだ。父親以外で。
「私が親しいからと思っての行為ではないよね………ああ………うぅ」
自分で揉むより………気持ち良かったかも……
「って!!」
バフバフバフ!!バーァアアアアン!!
枕を叩きつけ壁に投げつける。そして布団にくるまる。
「あああああああああああ!!あああああああああああああ!!」
「お嬢さま!? 何事ですか!!」
「来るなああああああ!! 僕はまだ!! 心ができてない!!」
「お嬢さま!?」
「痛いだけ!! 痛いだけだから!! 見せれるか!! 今の醜態を!!」
「わかりました。お薬を用意いたします。子が出来る体になったのです。嬉しいです」
「うぐぅ……」
「もう大人の女だ」と、そう意識してげんなりする。それを感じさせたあの糞野郎を思い出してムカムカした。
「畜生……ビンタしか出来なかった」
もっとボコボコにすれば良かったことを後悔している。
「はぁ………もう。今日は休んで英気を養おう」
そう、僕は情けない姿をさらしてしまった。
*
「あっ………うん。んんん寝たなぁ~」
僕は背伸びをする。大きなアクビを一つついてベットから起き上がる。
「……紅茶飲みたい。ソーマいれなさい」
「……どうぞ。昼はどうする?」
「昼はねぇ……………えっ?」
テーブル席で小説を読んでいる黒髪の男が目線を上げて紅茶をいれてくれる。
「………えええ!?」
私は全力で後ろに飛び、戸棚のナイフを取り出して構えた。
「どうしているの!?」
「使用人に聞いたんだ。そしたら入れてくれたよ。元気そうで何より。よかった」
「………あっどうも………じゃぁないわよ!!」
私は叫ぶ。女の寝室になんで入れたんだあのビッチ糞メイド。
「確かに令嬢の寝室に入るのは『おかしい事』と思う。不誠実だが………俺は謝りに来たんだ。それに襲ったら使用人に『殺す』と言われているし、襲ったら銀姉は俺を殺るだろう?」
「まぁ………否定はしませんが」
「寝顔はかわいかったなぁ~」
「よし、気が変わった。今すぐ死ね」
「まぁ、まて!! 俺もサボりだ。仲良く飯でも食おうぜ。銀姉、奢るよ」
「…………私は昨日の事を許しませんよ」
「銀姉、約束は守る。だから、許してほしい。それに自信が少しついた。シンシアさんを巻き込んであげるから。それで手を打とう」
「………」ぴくん
私は勝手に体が反応しナイフを元に戻した。ここで殺っても仕方ない。少し落ち着いたし、こんなやつに手を煩わせる必要もない。私らしくもないしね。
「破ったら許さない。満足行く物を見せろ」
「お嬢さまの言う通りに」
キザったらしく言うこいつ。何か変わったのだろうか。雰囲気が大人である。
「なんか。変わったわね」
「ええ……変わる。絶対に」
「あら? 私のせい?」
「銀姉のせい。破天荒ワガママなのを見るからな。慣れていくんだ」
「だーれも咎めないですからね私を。服を着替えるので外で待っていてくださいまし」
「一緒にサボりか」
「ええ、同罪です」
私は彼が出て行った後にファスナーをおろし、外行きの服に着替えるのだった。
*
俺は部屋の外で口を押さえる。なんとか素を演じることが出来た事に感謝する。
「寝顔は可愛かった………ムッとしてナイフを構える姿も可愛かった………今度はいったい何を見せてくれるんだ?」
自分でも思うほどに重症である。あの狂犬が実は「可愛いい」と知ってから、大きく見方が変わってしまった。時折見せる乙女の顔を思い出す。可愛くて悶え、口を押さえて我慢する事を繰り返している。
「あら、お嬢さまは?」
廊下から一人のメイドが歩いてくる。長い金髪の女の子だが。瞳孔が開ききって目付きは悪い。
「着替え中です」
「そうですか。お嬢さま~入ります」
「ま、まつんだ!!」
ガチャ!!
「きゃっ!? 着替え中にあなたは!!」
ヤバイ、俺は口を何度押さえないといけないんだ。「きゃっ」て言ったぞ銀姉が。
「お嬢さま。マクシミリアン家のご子息がお見栄です」
「ええ、知ってるわよ」
「事後報告です」
「………」
この家の「メイドもおかしいのでは」と思ってしまう。俺の脇を抜けて去っていく。
「ああ、ソーマドールさま………一ついいでしょうか?」
「なんですか?」
メイドがクルッと回転し首を真横に向けて目を見開く。そして、小さく囁かれた。
「次、お嬢様を泣かしたら。殺します」
「約束しかねる……可愛いからね」
「……この家にいるなら少し狂われた方が楽ですよ。満点ですね。マクシミリアンのご子息」
「そのようだ」
俺は肩を竦める。ダンジョンよりも恐ろしいかも知れないと思うのだ。マクシミリアンと言う家の名前まで出てきた。覚悟しよう、全て筒抜けだ。
「ソーマ。お待たせ………行きましょう」
ぴょこっと夏服の涼しそうな短めのスカートを履いた銀姉が現れる。
「本屋へ行きませんか先に?」
「何故かしら?」
「ええと。母親に捨てられた令嬢のお話の最新巻が置いてあると聞いた」
「ほしい………」
「予約はしてる。数は出てないです」
紙は貴重であり。数は出ないので高級だ。「安価になった」とは言われてもまだまだ高い。英魔国という魔族の国では紙は捨てるほど安いがこちらでは高いままである。魔国紙はさすがにプライドが許さず使えないのだろう。だが、故郷のマクシミリアン国生産品なら。許せると言うよく分からない状況でもある。
「予約は出来なかったわ………抽選会で引けなかった」
「俺は引けた」
「読ませなさい」
「俺が読んだらな」
「早く読め」
「まだ手に入ってない」
「では、行こう……すぐに行こう」
銀姉が裾に手をつかんで引っ張った。俺は思う、こういう姿は「俺にしか見せていないだろう」と言うことを。そして「贅沢だな」と満足する。
*
「ひゃぁ~つめたい」
「銀姉……甘いの好きだよなぁ~」
シャーリーは蜜柑果実シャーベットをスプーンに掬い口に含んで冷たさと甘さを堪能する。それをソーマドールは肘をついて眺めて心のなかで可愛いシャーリーを堪能している。
ソーマドールは鈍感と言われたり、あまり喋らないとか無口と言われていたが破天荒なシャーリーに心を開き、落ち着いて話が出来るようになった。恐怖が薄まり、余裕をもってシャーリーを見れるために彼女の可愛い所に気が付き「深く知りたい」と思うように心の変化が見てとれる。
色んな情報も調べさせて彼女を知ろうと努力する。元々ソーマドールは凡人だ。ノブリスよりも剣術や学などは及ばない。しかし、ノブリスと「長く一緒にいたい」と思う故に努力し隣で立っていた。しかし、その目的も変わりつつある。
「美味しいですわぁ~ああ……幸せ」
恍惚と暑い中でシャーベットを食べるシャーリー。ソーマドールは目をそらし口を押さえる。
「ソーマ。今日は口を押さえてばかりですが……なんですか?」
「ちょっと考え事です」
ソーマドールは「銀姉が可愛いからね悶えているのです」とは口が滑っても言わない。殴られる事を知っているからだ。
「ふーん」
「夏休みですね。銀姉は何を?」
「家で恋愛小説でも書くわ」
「書けるのか?」
「シンシアちゃんをモデルにすればいい………実録よ~日記みたいに書けば思い出してホクホク出来るの。幸せな気分になれるわ~」
「……銀姉。ひとつ聞いてもいいか?」
「いいわよ~」
ソーマドールは疑問を口に出す。
「自分自身がヒロインになる気は?」
「ないわね。綺麗な様式の屋敷は外から見れば綺麗でも。中から見るとその綺麗さを実感できないわ」
シャーリーは笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「宝石でも外が綺麗なの、中はただの石ころよ」
「……そっか」
「なに?」
「銀姉、綺麗だからヒロイン向けだと思ったんだけど……」
「うっ………まぁ、綺麗だから。私」
苦笑いするソーマドール。そして本題を切り出す。
「好きな人はいないな? 作る気は?」
「ないわ、お父さんの言われた相手と子供作るだけよ。それも仕事が出来なくなったらね」
「自分の事は本当に夢がないなぁ。銀姉は」
「じゃぁ~あなたは?」
ソーマドールは真面目な顔で真っ直ぐ見る。それは告白に近い事を告げた。
「俺は今、すごく気になる人がいる」
彼は真っ直ぐ見て「目の前の人が気になります」とは言わなかった。バカにされ相手にされないのが目に見えるのだ。
「へぇ~見せる約束してたわね。絶対よ」
「だから、強くなりたい。親友を越えて」
「……ふふ、いいじゃない。奪うのも愛ね」
「銀姉さん。手伝って欲しい。夏休みに俺を鍛えてくれ。お願いだ」
「いいでしょう。いいでしょう。親友を倒しシンシアを奪いなさい」
「ええ、もちろん」
ソーマドールはシャーリーに笑みを浮かべる。シャーリー自身が「好かれる事なんて無い」と決め付けている事を確認し、彼は計画を練ろうと思うのだ。
「あっそうだ……これを先に読んでもいいよ」
「えっ? いいのかしら? じゃぁ読ませてもらうわ。本当にいいの?」
「今まで貸してくれた。お礼、楽しみだっただろ?」
「ふふ………ありがとう。うれしい」
ソーマドールはまた口を押さえて目を閉じるのだった。「かわいいなぁー」と思いつつ。




