悪役令嬢の第五歩:王子の心境確認
俺はベットの上で銀姉が使っている武器を手にし眺めていた。黒い鉄の棒のような太い針。バラ園に探して見つけた物だ。黒い鋼から、魔国側の生産と思われる。非常に重い。
「どうやっても、銀姉のように真っ直ぐ飛ばないし威力も出ない」
何度も何度も、庭で真似をして投擲しても真っ直ぐ飛ばない。あんな恐ろしい、殺傷の威力にはならなかった。
「………ふぅ」
目を閉じるとあの日を思い出す。「武芸者として技を見せてくれ」とまだ出会ったばっかりの時だ。嫌な顔をしたあとに。バラ園から外れた木を的として投げてくれた。
スッと力まず投げたナイフがズバッと木に刺さった瞬間。俺はつい、拍手してしまったのを覚えている。
横顔が格好いいし。何とも言えない凄みに驚かされたのだ。そして………何度も何度も繰り返し投げてくれる彼女の顔を思い出す。
自信満々でドヤッて腰に手を当てる彼女の顔を。
「……あんな顔が出来るんだと知ったんだったか…………」
黒いナイフを見ながら。バラ園に立つ後ろ姿を思い出す。孤高な、誰も寄せ付けない令嬢。俺はつい、近付いてしまった。何に惹かれたかわかる。
同じように人付き合いが苦手かもとか。思ったのだ。人に強く当たるのは苦手だからとかと。しかし、現状は。
「……ただの恋愛狂いの令嬢だっただけ」
それも驚かされたし、嫌われてもいいからとシンシアさんとノブリスをくっつけようとする。そう異常者だった。
「……とんだ。愛の天使だ。いいや、悪魔か」
恋愛劇を見るために恐怖を振り撒く変なやつ。でも、まぁ、そこがいい。
「恋愛小説の話をするとき………なんでああも可愛くなるんだろうか?」
趣味の話をするときはニコニコで、頬に手を添えて幸せそうに妄想とか他人の恋愛を覗き見して盛り上がっている。自分自身より、他人のが見たいという行為。
「……何かもっと。切っ掛けがあれば………」
「確認が出来るんだけど」と悩むのだった。果たして俺は「銀姉の事をどうしたいのか、どうなりたいのか」とそれがはっきりしないのだ。
「……………」
しかし、好意は持っている。だからこそ、ちょっと遊んでみる事にした。
*
悩んだ次の日。昼休憩。夏が近付き暑い日差しが体を焼く。令嬢はそんな日でもドレスを着ている。学園内は涼しいが。俺はいつもお疲れと思う。
ただ、それも銀姉を見るまでだった。
「あん?」
俺にガンを飛ばしている銀姉。今日も大きく胸の開いたドレスを着ていた。銀髪と白いドレスは夏に降る雪のように異質な感じで目立ち。妖艶な美しさを持っている。
「何、睨み付けてるの。ソーマ」
最近は本当に近付いて来てくれる。
「ちょっといいですか?」
「何かしら?」
「ちょっとしがない童貞のお願いを聞いて欲しいと思います」
「………ソーマ。悪いもの喰った?大丈夫?ごめんね………僕が結構苛めてしまったから」
銀姉が申し訳なさそうにする。皆が恐れる彼女は頭を下げる。ちょっとばかり俺の頭がおかしいと言っている仕草だが。仕草が可愛いくて全く怒る気はなかった。
「まぁ、その。苛めたと思うのなら。些細なことをお願いします」
「……まぁいいでしょう。なんですか?」
「いつもの人気のないテラスに」
「……………わかった」
銀姉は大人しくついてきてくれる。テラスにつくと俺は椅子を引いてどうぞと言った。銀姉は眉をひそめる。
「なになに!? キモい……けどどうしたの?」
「お願いがあります」
「畏まってなに~」
俺は深呼吸する。死を覚悟し。戦場に向かう気分で言い放った。
「銀姉の胸を揉ませてください」
「………は?」
銀姉が俺をジトッとした目で見たあと。クスクスと笑い出す。
「あきれた~やっぱり男の子ね~童貞らしいわぁ~僕の胸を揉みたいとわ………どうしても?」
ニヤニヤと小馬鹿にして笑う。
「確かめたい事があるんです。どうしても」
「ふむふむ、ホモかどうかを知りたいのね。安心しなさい~普通よ~」
「揉んでいいですか?」
「待ちなさい………」
銀姉が目を閉じて悩む。
「一つ。あなたの恋路を教えてくれたらいいわ~婚約者いるでしょ?」
「………いますね」
今まで忘れてましたとは言わない。銀姉が笑みを深めて俺を見た。
「……イチャイチャする。いいえ、しなさい!! 私の見える前で」
命令にちょっとムッとするが。顔に出さなでおこう。何を言われるかわかったものではない。
「……約束する。見える前でだな。時期はいつでもか?」
「ああ、いつでもいいぞ。よし。少しの間だけだぞ~僕も毎日揉んでいるからな。保証する」
「………ごくっ」
俺はマクシミリアン家の男だ。やると決めたらやる。銀姉が座る椅子の後ろに立った。
「ふふふ。お主も男よのぉ~」
そして、背後から谷間を見て。その余裕そうな顔を歪ませたいと思うのだ。
「なんだ~揉まないのか?ここへ来てヘタレたか?」
「………」
だからこそ、心は静かだった。確認しよう。もしかしたら………銀姉は普通に戻れるかもしれない。
ズボッ!!
勢いよく俺は………手を突き入れた。右手を首にそって谷間を通って左の胸に。手に柔らかい弾力と豆の小さな感触が伝わる。
「えっ?」
すっとんきょんな声を銀姉は出す。そのあと手を握って猫なでのまま、小さく震えさせるだけで固まる。俺は感触を確かめるように揉みあげる。首を傾げた。
おかしい抵抗がない。
「うっ……う……」
「………」
長い時間、揉み。やっと銀姉が動いて上目使いで俺を睨む。涙を少し貯めて。小動物のように震えながら。
「………うぅうううううう!!」
そして。やっと頭が回ったのか。手を引き抜き。胸の位置を弄りながら椅子から飛び上がり。距離を取った。両手で胸を抱きながら前傾になって俺を睨み。何も言わずに………
バッチイイイイイン!!
頬を叩いて走り去ってしまった。
*
私は胸を揉ませる約束をする。減るもんでもないし毎日毎日揉んでいる。これで美味しそうな黒髪イケメンと新しいヒロインの物語を生で見れるなら安いと思ったのだ。
しかし、結果は。ソーマの野郎は予想外の事をやりやがった。
ズボッ!!
「えっ?」
私は目の前の光景と感触に………何も考えられなくなった。ゆっくりと気持ちいい感触を感じながらも意識がはっきりして。落ち着いて状況を1から確認する。
胸を揉むと恋愛の甘いのを目の前で見せてくれる。今はその対価で胸を揉ませている。
揉ませているのだが………服の上からじゃない。谷間に手を突っ込まれ。初めて男に揉まれている。それもある部分をつねったりと。楽しまれている。
「うっ……う……」
上目使いで奴を見ると幸せそうな顔でをしている。僕としてはこの行為をやめろと声を出そうとした。だけど………
「………うぅうううううう!!」
声にならず。奴の手を引き抜き、立ち上がった。ズレた胸を戻し支えながら。唇を噛み締めて右手でビンタを喰らわせて。涙を拭きながら私は走り出す。
「……消えたい」
とにかく。すごく、すごく予想外で恥ずかしかった。
*
ノブリスは今日も何かあったのかと思う。今日は窓際で肘をついているソーマはいつもの仏頂面ではなく笑顔。しかし、笑顔に張り付いた紅葉が赤く腫れ上がり痛々しい。だがそれでも彼は笑顔だった。
「ソーマ。秋はまだ早いが? どうした?」
「……」
「ソーマ!!」
「……あっすまない。なんだい? ノブリス」
ソーマドールは上の空で窓際に座り。空を見ていたのか反応が悪い。
「何かあったのかを聞いたんだ」
「……ああ、銀姉を怒らせた。しかし、変わりにだ。良い物、綺麗な物を見せて貰った。それと俺の気持ちも理解できた」
「何を言っているかさっぱりだが。おかしい事はわかる」
「……ノブリス。俺は今日………綺麗なヒロインを見たよ」
「すまん、本当に………本当に理解ができない」
今日も変な親友にノブリスは頭を抱える。どうしてこうなったのかと。最近の友人は変だと。




