人狼抗争事件⑦
すべて終わった。激動な冬休み。貴族たちの舞踏会の裏で赤い血を散らした同胞同士の抗争は幕を閉じた。
残された事は多々あり。私は妹分のシンシア、それの婚約者ノブリスの協力を得て黒騎士団長や権力者に事の顛末を一軒一軒回ったのだ。
そして、被害があった家には保障の話を持ち掛けるが「結構」という返事が多く逆に助かる結果となる。中には私の行為を恐ろしく思った方々も多く。縁切りなどを提案すると快く契約書に印をしてくれたのだ。
縁切りの証拠として「私の母の遺体の一部」を渡そうとし断られること多数だった。そんな多忙の中で余った遺体はミミックの聖職者が受け取り供養してくれる。遺体も宝になるとは本当だった。
最後の休み、落ち着いたときに私はソーマとその聖職者を呼び、温かい部屋で顔を合わせる。残った疑問を聞くために。
「やっと落ち着いたのね。シャーリー」
聖職者は美しい。娼婦の匂いがし、妖艶な女性である。そんな人が私の住んでいた屋敷に来る。
「ふぅ、落ち着きお話ができるようになりましたね」
「若い者にしては上出来な仕事ぶりよ」
「それはそうですよ。お母様と一緒だったんですから」
机に木箱を置き、蓋を開ける。綺麗に処理された頭部が瞼を閉じて眠っていた。穏やかな表情のお母様の顔が。
「銀姉、わざわざ頭を持って見せることは慣れてない奴は嫌がるし、証拠品として遺体を配るのは心証が悪い。マクシミリアンへの風評被害も多い」
「でも、金輪際関わりたくない縁切りの証明書は多くいただいた。黒騎士とは逆に仲を深めた結果になったけどお母様の影響は薄くなった。見せるべきでしょう。『裏切ったらどうなるか?』を。母を殺し、晒す。そこまでの手段を持ってることは相手にとって最高の抑止ですわ。元々私は外聞には疎く、そして、都合のいい生き方をしてきたので」
人狼を迫害されるわけにはいかない。故郷を今すぐ追われるわけにはいかないのだ。簡単に今の生活を失う者を少なくする。そのための方法である。「母親殺しの悪党」という噂は広まってしまうが、私が失うのはなにもない。
「それに、未来。『国外追放処置がかもしれな』と思って生活してた方がメリハリあるし、心の準備ができますわね。嫁ぎ先があるのも逃げ道。妹が当主なりたがってたので妹に継がせてバイバイでも良かったんですよ」
「あの子に……業を背負わせるわけにもいかないか」
ソーマも考えた末に私に同調する。机のお母様の頭を片付け、本題をぶつけた。
「では、私が確認のために呼んだのは『声が聞こえた』事への確認です。未知の現象を二人は感じたでしょうから、具体的には私含め3人」
場所もバラバラなのに集まった理由。それに心当たりがある。
「ソーマにシスター。あなたたち。この子の声を聞いたのでしょう。お腹のこの子の声を、だから私の位置を知った。いい子だけど『すでに自我があるのか、生存本能なのか』見極める必要がある。育てるためには知っておいたほうがいい」
「そうか、そうだったんだね、銀姉。しかし、何故そんな事が出来るんだ? 耳がいいからか?」
「それは若輩者の私たちは知らない話よね。だったら知ってそうな人に聞く。そこの聖職者にね。『なんで聞こえてたのか』を問う」
聖職者は「鋭い」と言葉をこぼし、ソーマを見て目を細めた。
「ソーマちゃん、マクシミリアンなのに知らないのねぇ」
その声音は何処か甘く、優しく、嬉しさが滲み出ていた。隠し切れないのだろう。
「マクシミリアンと関係あるのですか?」
「大いにある。マクシミリアンの純潔の血統は一時期、たった1人しか居ない所まで絶滅危機が起きた。しかし、今はその1人が色を好み、多くを残した。そうしてマクシミリアンの呪いがマクシミリアンの子孫を増やしている。マクシミリアンの血は呪われており、母体をマクシミリアン専用に書き換えるほど。『血統絶やさせない呪い』がかけられている」
ソーマは腕を組んで、悩んだ後に言葉にする。
「祝福じゃないのか?」
「マクシミリアン女王の執念。それを祝福というには欲深すぎる。彼女が生きてるかぎり血統は呪われてる。彼女に『意識』があるかぎる。彼女は血に囚われてる」
私はお腹をなでながら問いかける。
「呪いは子孫繁栄?」
「そんな、生存本能は誰にもある。もっと欲深い所」
シスターが手のひらを上にし魔法で映像を流す。高等魔術であり、非常にわかりやすい演劇が広げられている。
「絶対に殺させない能力。それは強化魔法に近いけど、寿命と出産後の生命力などを対価にね」
ソーマが神妙な顔で目を閉じて頷く。
「マクシミリアンの嫁いだ女性は短命になりやすい理由ですね。皆、知っているんですね。母親が病弱が治り騎士になれた理由も納得です。逆にどんな弱い女性でも、マクシミリアンに嫁ぎたい理由でもある。私の母親はそうでした。メイドから騎士です」
「元々マクシミリアンの女王だからこそ、執念と意地でデメリットを享受出来る。しかし、他はそうではないの。全員が銀ちゃん、みたいに強くない。千差万別よ」
私は説明を受けて納得する。手を叩き「なるほど」と言葉を発して続けた。
「話を聞いてわかったけど。『血統子供史上主義』の押し付けだから。それで私にお母様の『子供が産めなくなる呪い』を弾いたんですねぇ。相性最悪でしかも恐ろしい執念の呪い。勝てないですよねぇ。呪殺、暗殺から護るために先に呪うなんて、とんだ貴族様ね」
「でも、あなたはもう子供を産めない。呪いを混ぜる事は行われた」
「この子がうめればそれでいいわ。逆に僥倖だった。私がすっごく硬かったのはそういうことか。強化入ってたのね」
「銀姉、もしや……産後に」
私は頷く。短い生涯だった。それに笑うシスターがソーマに言葉をかける。
「しんみりしてるけど、安心していいわ。この子はほぼ自分の力だから、だからこの場でしか疑問が出なかったのよ。他の子はすぐに違和感でるわ。どうせ惚れてるのも最初からでしょう。若いわねぇ」
私は正直に恥ずかしくなる。だが、頭を抑えて最後の質問をした。
「若く見えるシスターさん。あなた、マクシミリアンと結婚して、マクシミリアンに関わってる関係者ですよね? 私の子があなたに助けを求める事。それって関係者じゃない? そう、血に近い何かを持ってる」
ソーマが驚いた表情をして、彼女を見る。シスターは表情を変えないが冷や汗を出していた。
「うーん匂いが同じなんですよねぇ。ソーマとシスター。混じってますよねぇ? どこの筋ですか?」
「はぁ、鋭いわねぇ。そう、私はあなたの大祖母の1人です。そして、魔族なので詮索はやめなさい。秘密なのよ。それ以上に知ると今日あった事がすべてなくなるわ。記憶を抹消しなくちゃいけない」
「ふぅ、そうですね。私は納得出来たのでおトイレ行ってきます。ソーマと二人でどうぞ。積もる話もあるでしょう」
「銀姉!?」
私はそそくさと離れ、客人の匂いを追う。臭う獣に私は部屋を出た瞬間に出会った。彼女は待っていたのだ。
「シャーリーお姉さま」
「あら、あらあら生きてたのね」
生きてる事は知っている。文句一ついいに来たのだろう。当主を選ばれなかった事に。
「ありがとう、姉さま。それだけ」
「…………? なんで? 当主やりたかったんじゃないの?」
「あっ。姉さん。私はお父さんの仇を取ってくれての御礼。当主は無理。私では力不足だった。シルバーファングは姉さんだよ」
「……よし。あなた幹部ね。学園に来なさい。あなた、逃さないわ」
「はい?」
「これからめちゃくちゃ忙しいから。狼の手ももっと欲しいのよ。手伝ってね? 若頭」
私は妹の肩を掴み、「は、はい」と言わせる。そのまま連行し、彼女にこれから行われる事を説明するのだった。




