人狼抗争事件⑥
気付けば私は追い込まれていた。帝国で私を反する者は居なかった。お父様さえ私は超えた。
多くの人形を操り、多くの人形で殺しをした。
私は強いと自負している。だが、何も特別能力があるわけでない娘に全く歯が立たない。私の才能は遺伝しなかった。させなかった。
「お母様見つけましたわ」
人形は尽く切られる。名刀は刃こぼれしないが連戦に次ぐ連戦で刀身を割ることが出来た。しかし、折れた剣と人狼として爪を伸ばし、人ならざる姿で私の元へ向かってくる。
「なぜ誰も居らぬ!! なぜ誰も居らぬ!?」
人狼でも、粒ぞろいの兵士を配置してた。護るため。盲信者。それらが一切、娘に手を出さない。それどころか逆に助けを求める声が聞こえる。
「私一人ではないんですよね。囮は多い。私は人狼。『隠れて潜み、狩る』。お母様は忘れてますねぇ」
「娘、お主に親殺しをする場合。どうなるかわかっているか? ワシはお前を呪う」
「命乞にしてはつまらない言い分ですね。呪いってそんな抽象的な物で脅すのですか?」
「それに対して全く知識がない事を誇るのもどうかと思うよ、娘」
娘が罠に掛かる。用意周到に用意していた切り札である。殺す事は出来ない。なら、殺さない手段を使う。
✽
追い込んだ気配がないまま、実母と相対し、折れた刀を捨てて爪だけで挑む。品のない命乞に危機感を覚えながら近付かずに様子を伺っており、そして罠に掛かる。
魔力で組まれた枷が手足に現れて、鎖が地面から生える。それは発呼し、魔力で練られた魔法物だとわかった。
「お母様、驚いた。これはこれはどの魔法ですか? デーモンチェーンに似てますが『強度が違う』。なんで魔を捕えるのに特化したのを使えるんですか?」
「怖くないのかしら? 形勢逆転よ」
「この場所、建物、全てに術を練り込んだ結界ね。服装がこちら向けじゃない東方。えっと、確か『調伏』。呪い殺す事。ああ、お母様の才能はこれだったんですね。動かず殺せば『跡はない完全犯罪』できるもんね。こっちの魔法と違い東方魔法はこっちではニッチで理解できない。故に優位と」
「お父さんの入れ知恵かしら?」
「クソ親父の知恵ですよ。お母様。何故お母様はお父様を襲ったんですか?」
「あいつから、『奪う』ためよ。それ以上でもそれ以下でもない。あなたにわかる? 捨てられた私を」
「うーん、歪んでる劣等感は私を殺しても無理」
「あなたに何がわかる!! その口を切り落とそうかしら?」
「密教の神様はどんな神様ですか? お母様」
「神様は居ないわよ」
「では、この術は『未完成』」
右手の枷が割れた瞬間にそのまま爪をお母様の顔に当てて皮膚を切り落とす。悲鳴を上げずボタボタと斬られた顔がすぐに治り、笑みを浮かべて一本のナイフを取り出して構えて私の脇腹に差し込む。それはナイフと言うには針のような釘のような垂直の刃であり、鎧通しというのがわかる。
「ぎゃあああああああああ、いたあああああああい」
「ふふふ、心臓狙わなかったわ。右手の枷術を外したのは驚いたけど、全身は無理だったようね」
「ふぅ、ふぅ」
「腕に、足に、色々試してあげる」
お母様は私の絶叫に笑顔を見せた。痛みと血が滲む服の中で皮膚が再生し、右手で鎧通しを抜く。傷口は塞がり、一瞬で回復するがそれも織り込んでいるのだろう。そのまま私は鎧通しを手に、全ての枷を魔力で燃やした。魔法が溶けて、延焼し、全身が自由になる。魔法の反発で建物の魔法陣が燃えていく。そして、魔法を真似て「調伏」を行う。
「何を!? な、腕が。これは密教術!?」
「密教ではないですね。魔王様の名の下に調伏します。あなたは神を信じないですが、私は亜人の王を信じます」
真似た魔法でも、ここまで強力な拘束が出来るのは信じる力を加味する「神秘」「奇跡」などに近い術なのだろう。学ぶ事は大事。片腕だけ縛られているが振り解こうともがく。
「あら、お手伝いしましょう」
お母様の細い腕めがけて私は爪を伸ばして切り落とした。魔力を込めた爪から鋭利な魔力爪が腕を切断し、血を散らし、絶叫が響いた。血を振り、片腕の母に伝える。
「これで敗戦確定。一撃で仕留める自信ないからお母様ごめんなさいね」
「ぐぅうううう。化け物め」
苦しそうに呪詛を唱えるお母様に私はお返しを用意した。爪をまとめて真っ直ぐ腹に突いて捻り、内蔵をズタズタにする。滴る血は赤く。そして、お母様は力が抜けた。呆気ない、逃げる事も出来ずに私の手で仕留めた。
「まだ生きてるの流石です。綺麗なワタで潔癖ですね」
手を引き抜き、お母様はお腹からワタが漏れて地面に広がる、その状態さえ私を睨み笑うのだ。その瞬間だった、私も力が抜けて腹に激痛が走る。呼吸ができないほどの苦痛にお母様を見た。
「な、に、かは」
お母様のやすらいでいる声にイラつきを覚える。
「呪い殺すのに穴2つ。私とあなたの穴2つ」
「最悪、娘と心中するつもり」
「生んだのは私。死産にしたのも私。一緒に連れて行く」
お母様が立ち上がり、動けない私の手を掴もうとし、私は腹に力を入れて弾く。
「行くもんですか!!」
「ああ、ああ、哀れ。もう女として終わってるわ。潰した。その痛みは子孫への痛み。私はあなたを殺せなかった。でも、子孫は殺せた。銀髪鬼見てる。全員殺したわ。ははははは」
歪んでいる。歪んでいる。そして、私は「悲しい」と感じた。涙が出る。お腹を擦りながら、我が子撫でるようにし、泣いてしまう。
「あらあら、そんなに悔しい? 死ぬ前に見れて最高。ああ、最高。もうあなたに子孫は生まれない」
「うぅ、この子に罪は……」
お腹を擦り、我が子を心配し、後悔をし始める。勢いがナリを潜め、女々しい私にお母様は勝ち誇り、苛立ち。そして、気付かされる。痛みが引き、立ち上がれた。そして空耳なのか優しい声が聞こえた。
「え、え、声が聞こえる?」
泣いている私を慈しむ声にか細い声に涙が引く。ソーマは近くにおらず、笑う死にかけの母しか居ない。お腹の辺りが暖かく、私でないだれかが怒っている。
「あー、そういう事。わかった。ごめんなさい。お母様……私は母になります」
目の前に「何を言ってるんだコイツ」と言う表情をするお母様に最後のお別れを言う。
「孫、もう居るんですよ、お母様。産めそうです」
それを聞いた彼女の絶望の表情たるや、なんともなんとも、一生の宝物レベルで目に焼きつけれるいい表情だった。
✽
建物が燃えだし、慌てて逃げる人狼たちを尻目に彼女を探す。炎で焦げた臭いに混じり、俺を呼ぶ声が聞こえる。その声に導かれる中で彼女を見つけた。血の海に浮かぶ惨殺された遺体の前で立ち尽くしていた。決着した余韻なのか、顔は軽い。
「銀姉!!」
「ああ、今一番いい気分なのに最悪。今、一番見たくない顔を見てる」
「よし、元気だ。火の手が上がってるから逃げるぞ」
「ああ、そうだね。首を千切らないと」
銀姉が髪を持ち、切るものを探す。そんな中でちょうど棺桶を背負った僧侶が顔を出して満面の笑みで棺桶を置いた。彼女は「ベストタイミング」といい。銀姉はその顔を覗き、問いかける。
「誰に呼ばれた? あなたがここに居る理由、シスター」
「………勘のいいガキは大好きですよ。今はそれよりも爆薬がついたら終わるので逃げましょう。あなたと一緒に爆殺するつもりで仕込んでますでしょうしね」
「わかった。落ち着いたら二人とも顔を見せろ」
銀姉の強い口調に背筋が冷えながらも僧侶はモクモクと遺体を回収し、その場から立ち去る。火の手に対して、我々も離れ、逃げるように集合場所予定に向かうのだった。
✽
帝国内での火災騒ぎはすぐに向かった魔法使いによって鎮火した。衛兵などはそのまま火事場泥棒の行為に走り、金目の物を貪る。また「人狼と関わりある証拠」は全て壊される。黒衛兵は立入禁止処置な所から隠蔽を模索しているのが伺え知れた。
散った金人狼派に関しても「両小指を失う」事によって、銀姉の許しを乞い、処罰されて許されていく。
マクシミリアン帝国駐屯地とした屋敷に魔王と女王を呼び込み、今回の手打ちを行って貰う。そう、魔王による仲介であった。内容は「金人狼派への恩赦」である。条件を飲めば処刑は回避される。結果、多くの人狼が下った。
屋敷の庭に人狼が一斉に頭を垂れ、銀姉も同じように頭を垂らし、目の前にいる人物へ報告する。
「この度、我々英魔族人狼族がご迷惑をおかけしました。一同代表とし、ここに謝意を表すと共に再犯防止に努めさせていただきます。宣言者、2代目銀髪鬼シャーリー・マクシミリアン。ここに宣誓と服従を示します。女王陛下」
「よろしい。此度、大罪の親殺しを遂行した。故に苦しい心情もあっただろう。宣誓者を代表として『族長』の任務。『帝国内英魔族』としての地位を確かな物にし、ますますの発展を期待する。各々、重々英魔族である事を承知し行動するように」
一種の儀式のような状況で魔王は去る。そのまま消えたことを確認し、皆が頭を上げた。各々に銀髪鬼としての彼女に御礼を言う。もちろん、銀姉はもう一回指を捧げた。もう、戦う気もないらしい。
「銀姐さん、ありがとうございました」
「オジキも姐さんの姿に満足でしょう。組長、これからよろしゅうお願いします」
散らばっていた。銀人狼派が集まる中で銀姉は俺を指差す。
「二代目組長あっち、私は族長。組運営は向こう。未来のマクシミリアン帝国駐屯兵団様よ、格式も私たちより上ね」
「は? ま、まってくれ銀姉!!」
「ソーマ、頑張れぇ。私を娶るその処罰はいるでしょう」
頭を抑えながら溜息を吐く。期待する目ではなく疑う目である。しかし、皆が忘れていたのか何かを思い出し震えだす。
「姐さんを倒したヤバい奴やんけ」
「ひえぇ、姐さんの暴走についてこれた異常者やんけ」
「おい、言葉を慎め。我々は彼によって『生かされてる』」
力と言うのは時に従わせるには最良である。恐怖というのは判断を鈍らせる。だが、そこには窮鼠となって爪を尖らせる。そう考えると適任なのは俺になるのだろう。
「ソーマ組長、ではこれから忙しいですがよろしゅうお願いしますわ」
「あーあーわかったわかったよ。君を愛してた俺の落ち度だ」
「落ち度?」
「罰だろ?」
「そうね、ええ、そうね。私はもう呪いで雌として死んだからね」
「一人っ子でいいじゃないか」
「私は一人で満足しなかったでしょうから残念ね」
そう言いながら彼女はその場を去ろうとし、俺は口を開けて閉じてを繰り返し言葉をやっと発する。
「俺の事を好きなのか? やっぱ?」
「言葉ほしいの? 人前よ」
彼女は満足の笑みで俺を茶化す。悪い悪い、幸せそうな、憑き物が取れたような表情で俺を笑う。




