人狼抗争事件⑤
私には花の園は不釣り合いだった。
僕には戦の場は不釣り合いだった。
気付けば容易い。気付けば変えられる。苦手なら得意な方でやればいい。
「あら、いいの飾ってる」
人狼達が廊下に押し寄せ、綺麗な血の漆を床に塗る中で綺麗な綺麗な白い歌舞伎のお面を見つける。飾られたそれの一つを取り、私は悩む。「果たして私に合う面はあるか?」と。
結論は飾られた面を横薙ぎの剣筋で切り払い面を捨てる。そのまま霧切の刀身で自身の顔を見る。
「あるわけないか、狂言面はこの顔なんだから」
その一連の隙に霧から手が生えて爪が伸び、それを切り落とし絶叫を聞く。一連の動作に私は生前の記憶がフラッシュバックし、噛みしめる。僕の死は戦場死だ。それも体に深く深く突き立てられた軍刀によって。
「あーあ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。弱い弱い。私もあなたたちも。はよ殺せ。たった一人の小娘めぞ」
「銀髪鬼」
「婆ちゃんを思い出して震えるなら、最初からかかってくるな」
霧を切り払い。絶命する彼らに私は何も抱かない。躊躇なく仕留めてふすまや柱に血が飛散る。一体の死体から服を破いてそれで刀の血糊を拭った。
「ソーマ、生きてる?」
「生きてる。そっちが片付いたか?」
「ええ、片付いた」
ソーマが血糊どころか、ベタベタに白と皮膚と何かの物体がへばりついた盾を持って現れる。圧倒的、バカ力で潰したのがわかる。まとわりつく鉄臭い血の刺繡に惚れ惚れする。
「あーあ、シングルマザーになれなかった」
「絶対にしない。子供が可哀想だ」
「可哀想!? 無理無理。どうやってもこの海の中で生まれるんだから可哀想もクソもない」
「そうだな」
子供には教育に悪い環境の中で刀の鞘を拾って霧切を納めた。そのまま嗅ぐが血の臭いで何もわからない。
「ああ、臭いから。逃げた奴らも全員わからない」
「銀姉。尻尾どうした? あれの縁を結べば」
「そっか、あれがあった」
私はちぎった尻尾を拾い直し、それを握り締める。反応のない尻尾を見ながら考える。縁を結ぶと逆に位置がバレそうだがしっかりと縁は繋がってそうだった。銀色の魔力刀で尻尾を斬る。真っ二つに。血は出ない。しかし、痛みでなのかウネリだす。
「お、おい」
「はい片方。魔法は不得意だからあなたもやって」
「お前の母親尻尾を2つに斬って片方渡される人生になるなんて思いもしなかった」
「珍味です。もぐもぐ」
「ごめん、流石にちょっと引く」
「ほらアーン」
「なんで喰ってるんだよ!! 吐け!! 腹に子供がいるんだぞ」
ガミガミうるさいのを無視して咀嚼し、飲み込んだ。お腹を擦りながら笑顔で伝える。
「ファリ、これがお婆さんの尻尾の味よぉ。まじで不味いね」
「うわぁうわぁ」
彼が頭を抱える。それに私は手をだす。
「使わないならちょうだい」
「いや、使う。喰わせない」
「わかった」
彼が慌てて魔法を使い探査をかける。私はお腹を擦りながら探査用の魔法を唱えて腹の中にある尻尾の縁を感覚に入れた。脳味噌に直感として方角がわかる。
「わかった。ソーマは?」
「あー、無理だ。防御されてる。食わないと無理なのか?」
「うっ、うぐぅうううううう」
「どうした!? 大丈夫か!?」
「しまった。逆に私が傀儡に」
「吐かせるぞ!! くそ、お腹を殴れない」
「あ、冗談」
「……」
「傀儡になるにはちょっと術が難しく。無理よ。引っ掛かったわねバーカ」
「……」
「もう、茶目っ気の冗談じゃん。それにしてもお腹を空いたわ。腹ごなし、休憩、襲撃。腹ごなし、休憩、襲撃しましょ」
「はぁ、わかった。帰ろう」
彼は溜息を吐く。私は女性の遺体を抱える。心臓急所を狙っただけの綺麗な体の遺体を。
「持って帰ろうとしない。遺体をどうするつもりだ」
「売る。いい体だし」
「捨て置け」
「ええ、でも、ん。硝煙臭い」
血の臭いに交じる最悪な臭いに背筋が冷えた。私は慌ててソーマの背後に隠れ叫ぶ。
「爆薬に火がついたよ!!」
「捕まれ。マクシミリアン騎士の強さ見せてやる」
私と彼は爆弾の勢い衝撃派をもろに受ける。そのまま盛大に周りの建物ごと吹き飛ばす勢いに圧死しそうになりながら一瞬の衝撃で気を失った。
✽
目を覚ます。四肢は満足に動けた。手を見ると夢なのか小指がある。何処かわからないが、天国にしては質素なお部屋だ。ベットも非常に安価なもので硬くカビ臭い。
「あちゃー死んだか。屋敷に爆弾敷きつめたな。そりゃぁ死ぬよねぇ」
そう、感じていたが。よくよく考えると生きている状況だと納得する。だが、何処だかわからない。マクシミリアン騎士団の屋敷でもない。立って見ると体の節々は全く疲れを感じず。元気である。ドアノブは開くので捕まった訳では無い。
「聞き耳たてれば良かった。いや、匂いかけばいいか」
匂いはカビ臭い中に女性の匂い。覚えがあるのは魔王の匂いとマクシミリアン女王の匂いが混ざっている。ただ、全く知らない匂いもする。耳には話声が聞こえる。
「おきたみたい」
「物音したの?」
「ええ、物音した」
「俺、行ってきます」
ソーマの声と共に階段を登る声。待つこと少し、彼が顔を出して皿にパンとシチュー、水を持って登場する。
「おはよう、銀」
「おはよう、何があったの」
「爆発後にすぐに助けてくれた。ここは魔王の王配の別荘らしい。物の持ち込みは多く籠城戦中」
「そうなんだ。マクシミリアン騎士団の宿いけばいいのに」
「マクシミリアン騎士団内にも人狼居るみたいで、ちょっと揉めてる」
「マクシミリアンもしてやられてる」
「俺みたいに『力』を求めて人狼に与したのがいたんだ。この力は恐ろしく魅力的だ」
「それは努力。人狼になったら全員強くなるなら『私達は捨てられない』。利用する。奴隷にする」
病として。人外として迫害される理由がある。それは私自身も感じている。落ち着ける精神がないのが人狼である。獣人より野生味が強い。
「そっか。確かに、俺は君を襲ったな」
「わかってくれてどうも。で、体は思った以上に動けそうよ」
「わかってる。既に優秀な英魔族たちによる索敵は終わっている。郊外にある拡張された城壁内に建物を見つけた。非常に強固で砦のような場所だな」
「動きはなかったの?」
「情報によると黒騎士が城外で活動し、人狼を炙り出そうとしている。兵力減らした結果、強行突破は難しいのだろう」
「……お母様にしてはぬるい。ぬるいわ。それほどに『戦力』を見間違えたのかしら? ありえるわね」
「気を抜くなよ。夜間に動くだろう」
「夜襲ね。難しいわよ。向こうは夜襲が得意なのよ?」
「夜襲は攻めの戦法。昼間夜襲出来ずに防衛戦苦手な兵士ばかりだろう。不利な防衛戦。女王お婆さんは得意なのか、酒盛りするほど油断してる。」
「緊張感ないわね。歪んでる」
「好きだろそういうの」
「大好物」
寝間着から着替え、指を差す。
「これは?」
「くっつけて貰った。良かったな『いらない』ってさ」
少し複雑だが。握れる方がいいに決まっている。私はそのまま寝室を出てリビングへ向かう。そこには数人の兵士だろう魔族達と魔王、マクシミリアン女王が魔石から映される英魔族の様子を肴に酒盛りしていた。一人の聖職者僧侶姿に違和感覚える光景に私は「おはようございます。お救いいただきありがとうございます」と上辺を飾る。それに帯して魔王は笑みを深めて座るように促した。
「上辺を飾らないで、大戦果。多くの兵と拠点を失い。事を成せなかった先方は困っているでしょう。『新生人狼組合』と旧人狼組を天秤にかける。『裏切ったら命だけ助けてあげる』と示した。逃げ道も示したわ」
「……もう、戦う必要ないのですか?」
「無駄に戦わなくて良くなっただけ。『決着』は居るでしょう? 一番強い人狼を示せば従う。本当にわかりやすい盤面になったわね。向こうの位置がわかったから『一騎打ち』を所望よ」
机に果たし状が置かれる。臭う獣の匂いは私のお母様の臭うだ。罠だろう。一回ハメているのにまた一騎打ちを言うのは変である。
「罠よね」
「でも、あなたは乗ることを知っている。今度は精鋭が相手する。新鋭護衛なんて勿体ないのに」
魔王様の考えはそんな優秀な精鋭は前線か他の場所で使用すべきとの考えだろう。しかし、新鋭隊こそ精鋭でないと「裏切り」を行うかもしれない。
「その考えは難しいですね。場所は教えて貰ってもいいですか?」
「果たし状をあげるので任せるわ。では、いってらっしゃーい」
軽い送り出しに私は果たし状を受け取り、隠れ家を出た。ソーマ共に移動を始める。夜襲前に現場を確認するために。
✽
ドレスは着ない。動きやすい服だけに。戦闘服だけにする。刀を携え、視察。壁に出来物のように壁が作られ、その中に収まった建物郡に私は「資産」を感じた。
戦争中、多くの資産が英魔から奪った。そこ物を保管する宝物庫。いや、二重で盗んでここに隠したのだろう。噂で聞いていた人狼の盗み。その拠点である。
煙突に煙は出てないが溶鉱炉もあるのか、中々にグレーな場所だとわかる。
練り歩くが、静かである。
一般人は誰も居ないような、気配がする。ただ隠れててわからない。霧が深く、蒸気も多い。人狼が居そうな場所。ソーマは砦の見晴らしから眺めてボウガン構えていた。
「精鋭ねぇ」
精鋭だからこそ「居るはずなのに感じない」のだ。誰もいないゴーストタウンに私だけが存在を示す。
「だいたいの建物はわかった。問題は『誰』がいるかわからないわね」
強さがわからない。血の臭いさえしない。死臭いさえしない。鼻でスンスンと嗅ぐが全く拾えない。
「流石に見せないか」
私は見られている。見られている中で死の臭いが背後に立つ。
「くっさー。何者、少しは隠して死臭、だれよ」
「あら、酷い。臭いなんて」
「あなたは? 女王陛下の前にいた破壊僧侶。気が臭い」
戦闘態勢なのだろう。プレッシャーなのか、腐った臭いが出ていると錯覚する。見た目は棺桶を背負ったシスター服を来たヤバい人である。何処となく金髪の美人であるが生気を感じない。
「そういえば、自己紹介まだでしたね。英魔族黒衛兵所属のシス・ミミックです。本体はこっちです。これは疑似餌、元々男を釣るための姿よ。胸もお尻も女王陛下よりも大きいわ」
棺桶を地面に立たせて開くと化け物の口に歯が並んでいる中身。ミミックの想像を変えてくる人だ。
「パッと出のあなたが何用ですか?」
「遺体を回収に来ましたの。食べるのではなく『保管』するために。爆発で散った肉も全回収させていただきます。そして、観測します。女王陛下は『見ることができません』」
「なるほどね。証拠を回収するつもりね」
「ええ、首でもあれば『圧倒的な証拠になるわ』」
「でも、残念ね。夜襲をかけるわ。今じゃない。お仕事はまだあとよ。相手と私の得意な時間」
「ええ、ええ。遺体は『自分で用意』することもできます」
「獲物取る気?」
「あなたが『失敗』しなければいいんですよ?」
「ふん、信用ないわね」
「爆殺されそうになってますわ。まぁ、個人的な理由と個人的な遺体欲しさと個人的な興味ですわ。学友では『務まらない世界』ですものね。まぁ、私はただ居るだけです」
「あっそ、それで邪魔してるの? 囲まれたわよ」
「そうね、良い事よ。私、いい『疑似餌』でしょ」
黒鋼棺桶の口から黒い小さなナイフ、クナイが舌に乗って出される。黒鋼のそのナイフを私に差し出し、私は足のスリットと交換する。ズシっとした重さを感じる。
「黒鋼のクナイよ。東方の忍者が使う……別に説明はいらないわね。使い方は任せるわ」
「はい、ありがとうございます。ではお任せしますよ」
私はその場を去る。霧になり、すり抜けてソーマを呼び戻す。夜襲を行うつもりだったが。我慢が出来ない私と背中の破壊僧侶が事を起こすのだった。




