人狼抗争事件④
準備は整った。後ろ盾を手に入れ、私は一人で実家に挨拶へ向かうことを決める。お父さん派は散り、潜伏。残った人狼は全てお母さん派の武闘派ばかり。
戦争でしか人狼を表現出来ない歪んだ者達。人間を喰うことを忘れられない英魔になりきれなかった者。都市インバス追放者などが集まり、そして帝国を乗っ取ろうと頑張っている。
だが、それは「革命」としては静かだろう。知るものが少ない。ただ、知られた相手が悪かった。敵になる相手が悪かった。
「結局直接、お母様に会いに行きましょう」
「わかるのか? 銀」
「帝国内に昔から屋敷がある。東方風建築の屋敷。元はキツネか東方から逃げてきた人のものを買ったはず。ルーツなのかもね、私たちの」
「マクスミリアンも交じりが多いから」
交じり多いどころかハイエルフと人間の子孫である。思えばマクミリアン女王も来ているこの状況は開戦前とも言えそうだ。
「それにしても、お母様の攻撃は緩いわね。もっと襲っても良さそうなのに……」
「確かにな。刺客がない」
「きなくさ………」
ドォオオオオン
轟音、帝国内であり得ない轟音が響いた。その爆発音に帝国内が騒ぎだし、私も慌てて屋根に登った。
見えた先は女王陛下の借宿の方向。炎が立ちのび、天空さえ焼く。
「マジですか。お母様」
「何が、なんであそこに煙が魔法か?」
「帝国内で魔法は御法度。でも、爆薬と混ぜればわからない。爆殺しようとしてる」
「いこう、銀」
「いいえ、女王陛下はご無事のようです。移動するそうです」
「何故わかる?」
私は頭を指差す。
「マクシミリアンも使っている方法です。元は英魔国内技術でしょう。女王陛下は場所も示しました。籠城するようです」
「籠城?」
「将棋をご存知で?」
「わかるが、それが何か関係か?」
私は大きく溜息を吐いた察しが悪すぎる。
「ソーマさぁ、考えなよ。最近全く考えてない。私の言葉ばかりを聞く」
「銀姉、君も学ぶべきだ。君は話を聞くタイプじゃない。話をするタイプだ」
「そうよ」
「なら、聞きに徹する。将棋に関しては王を先に仕留めて勝利の盤面と言いたいのだろう」
「わかってるじゃない」
「『知っていて自慢したり誇らしげにするのは無知の極み』と言ったのは君だぞ」
「そんなこと言いましたっけ? まぁ、こんな所で空気読まずに馬鹿な事ばかりしてないで準備しましょ」
「どこまでいる?」
「一騎当千」
「最悪だな」
「私を娶りたいなら、地獄まで付き合って貰うわ」
「最高で極悪な令嬢様だこと」
愚痴る私たちは次に向けて動き出す。相手は私の母親である者と挨拶するために。
✱
霧が深い。空は雲一つない夜空なのに関わらず霧が立ち込め私はソーマの手を引く。
「驚いた。帝国内なのにこんな大規模な魔法が」
「帝国は広く一角がたとえ四平が建物に囲まれても、私達は屋根からくる」
「黒騎士の目を盗めるわけだ」
「黒騎士にも内通者は居ますよ。人狼なので」
「帝国の病」
「あら、病なんてその通りです。病です。帝国と言う体のね」
国を体、首都を心臓、道は血管、問題は病。そう表現した女王がいる。わかりやすい表現であり。
「気持ち悪いな。誰も居ないのに見られてる」
「そうね、見てるわ」
静かな屋敷に不釣り合いな視線に晒される。そんな中で一匹の狼が顔を出す。
「お久しゅうございます。お嬢様」
「誰かしら? ごめんなさい。ずっと外飼いだったので」
「お名前はよろしいかと。どうぞ、姐様がお待ちです」
「迎えてくれるのね」
私は獣の口に入り込む。木々で建てられた帝国には不釣り合いな屋敷の中を土足で入り、案内された場所は大広間である。その真ん中に座布団と言う絨毯があり、そこに座って目線を前に留めた。目の前にはスダレが降りており、それを東の国では御簾と言っているそうだ。間を仕切る目的と暗殺するのに不向きな盾でもある。ナイフが届かない。
ただ、御簾に顔を隠すようなお上品な貴族様でもないだろうに私の母親は鎮座して見下すのだ。
「お久、お母様。そんな東衣装。きれいですが、ここではやっぱりドレスのがいいですよ。みてくださいこの金色の刺繍。綺麗でしょう?」
「お前は、いや。今はそういう話はいらない」
「なぜ、久しぶりの親子の語り合いでしょう?」
「お前を子供と思った事はない。あやつを私の物にするための道具じゃった。何故に『意識』がある」
「意識とは? お母様のお話は難しゅうていけません」
「とぼけるな。ワシはお主を禁呪で魂を汚した。生まれる前に娘である前に男の魂を入れ、廃人同然の性格難病に作った。機能不全で『ぽー』としてる筈のお前がなぜ、私の前に出てこれた!!」
「銀姉。どういうことだ?」
「ソーマあなたは黙って。私も混乱中。ここまで通した理由も考え中」
お母様は私に何かしていた事を供述し、そして私を値踏みしていた。考えて見れば昔は「ぽー」と夢見がちで、実感がわかない人生であり、ハッキリしだしたのは最近である。問題行動も増えたのは今である。不思議と全く疑問に思わなかったが、昔の私は確かに「生きてない」のだ。
私は言葉に出して悩む。
「一つの体に2つの魂。生前男性だったと言える事。そして、昔は夢見がちで。でも、一冊の本に出会って」
私は背筋が冷える。「夢」見と、一冊の愛読本と私のバックについている存在の関係性に。
一冊は「魔王の冒険譚」。夢に関して「魔王は夢魔」であり、影響があった事が伺える。魔王は歴史で初めての婬魔で頂点に立った傑物。影響を受けてしまったのだ。
「あーあ、通した理由は『生で起こった予想外』を確かめるためかぁ。あーあ、いいでしょういいでしょう。私の、俺の予測でいいならお答えしましょう。ソーマも聞きなさい」
私は大きな声で語る。
「生前、女々しい女の趣味が好きな男でした。今世に思い出した私はさぞ都合よく『物語』の世界に入り込んだと『勘違い』しておりました。ああそう、一つの体に2つの魂を無理やり入れての廃人計画は『成功』してます。男の過去を思い出し歪んでしまいました。しかし、生前の夢や冒険譚からの男らしい物語も欲した心がございました。そう、今は『いい状況』です」
私は金光の刀を抜き、一足で飛び御簾を切り払う。目の前に金色の髪に切れ長の少女が私と同じように刀を抜いて撃ち合う。金色から銀色に変わる魔力刀は軽く、小指を失った私でも強くすいつくように握れた。
「銀姉ぇ!!」
「ソーマ任せた」
背後で霧から多くの人狼が姿を示す。その数はゆうに数十数百を超えるだろう。目の前にいる私より小さい少女姿はギリギリと刀を反らす。キツネのような、人狼に私は問う。
「キツネですか?」
「どこ見て言っておる。正真正銘、人狼ぞ。いいのかえ? あいつのようにお父様で旦那の糞犬のような死を迎えるぞ」
「私の背後を守らせるんです。死んでも守れ」
「無茶苦茶を」
「無茶苦茶なのはお母様です」
刀を撃ち合い、力で押す。お母様の表情は険しく。そして、何度も何度も瞳術を使っているのがわかる。しかし、私は私の特性で躱す。瞳術は睡眠、催眠術。魂に作用するようで私は2つの魂で受け止める。背後では大きい金属音が響き、悲鳴が木霊する。
「憎々しい」
「ありがとうお母様。容量多いと2重にかけないといけないんですねぇ。あー悔しいけどお母様お強い」
「銀姉、やるぞ」
「だから、キッカケ必要よね」
私は横へ避ける。その場所に人狼が投げ込まれお母様にぶつかり大きく吹き飛ぶ。そこにナイフを投げ込んでお母様の顔に差し込めた。しかし、お母様は投げ込まれた人狼を避けて立とうとし、首を私は落とした。一瞬の隙を狙った攻撃は成功したが。
「なに? この手応え?」
木を切ったような手応えに私は眉を歪ませて服を破く。精巧な人形の中心にあるコアのような物に手を突っ込んで引き抜くとそれは人狼の尻尾であり、傷口は縫い合わされた物で背筋が冷える。
「お母様、傀儡士だったの。それも尻尾を斬って。あーあ罠ぁだよねぇ」
「銀姉!? 多いぞ!!」
背後で苦戦していると思われるソーマの情けない声が響いた。私はお母様の刀を拾い。刀身を眺めて笑みを溢す。
「刃こぼれなしの名刀。使わせて貰おう」
激しい激しい激戦の中でソーマが血に濡れた黒盾を振り回して人狼を薙ぎ払う。霧になっても黒盾の速さは耐えられないのか四肢を失った人狼で溢れる。そんな中で私の周りにも霧から人狼が飛び出して攻撃を仕掛けてくる。
「あーあ」
2刀持ちで私は人狼を切り払い、ドレスは血で赤く紅く彩ってくれた。
「ソーマ、愛してる」
「銀!?」
「最後になるかも。言葉は残した。私は地獄ね」
「俺も地獄だ」
「ははははははは、そうね。そう、そう」
楽しい。楽しい。女の私は笑顔になる。男の私は戦々恐々とする。
「なーんだ私ってオカシカッたんだ」
人狼の波に私は刀を振り回しながら突っ込み。血飛沫を上げる。名刀は霧さえ斬れる「対人狼」の刀だった。お母様の殺意が私を救う。気付けば私は人狼を追っていた。
そう、追っていた。
「はははははははははははははは」
噛みちぎる。




