人狼抗争事件①
刺客は計画的な行動だった。一瞬で仕留めるベストなタイミングだったろう。ただし、それは確率論であり、予想外な出来事はいっぱいある。
例えば今の状況である。刺客の狙いは「私」だった。しかし、私は「縁」を持っていた。それは恐ろしく有用で、最悪な事故である。
「ある女王は言ったわ。『縁は大切』と。私もそれに同意する。『老いてますます盛んなり』と全盛期から1倍の私は戦える」
奪った刀の血を振り払いエルミア姉さまは歌うように私に教えを説く。彼女の戦い方は非常に荒々しく品はない、武器を投げての遠距離攻撃に倒した相手から武器を鹵獲し、防御は手甲を使い、また殴打攻撃に転用もする。
丈夫な体と何度も相手を越える瞬発力。エルフ族とは思えない野戦騎士の戦闘術だ。魔法を一切使わず、魔力を肉体強化と剣に這わせるだけの愚直な旧い戦い方である。見るからに無茶苦茶荒い。
「あの子はどこ?」
「殿を……だから私一人だけだったんです。それよりも落ち着いたので……何故、私の危機を?」
私も拾った刀の血を布で拭う。血糊がベットリとつき非常にきれいな紅が私たちのドレスを彩る。
「勘。大切な私と王の血縁の子孫が死ぬ気配がした。だから、慌てて出たから武器も装飾過多の飾りと儀礼用物。手甲だけ装備して出たの、鎧は拾うつもりで」
「勘ですかぁ。ありますよねぇ。勘」
「そう、あるのよ。で、大体こんな感じね」
エルフ族なのに野生的な人である。だからこそ今まで生き残れたのだろう。
「銀姉!!」
「ソーマ!! 大丈夫だった?」
「ああ……ありがとうございます。女王陛下」
ソーマの盾には切り刻まれた跡とべっちょりとした肉片がくっついてた。湿っている盾は非常に汚い。
「気にしなくていいわ。ただ……銀ちゃんが狙いなのは何故でしょうね? 心当たりは?」
「多過ぎてわかりません。恨みは積もってます」
「ソーマちゃん」
「えっと、エルミア婆ちゃん。俺はたぶん、妹などの刺客と考える」
「妹がいるのね。なら、後継者争いね。まぁ、生きてる刺客は逃げたから、わからないわね。口を割らないだろうし、教えてもらえてないでしょうね」
エルミア姉さんは刀を捨て移動を始める。そして、切り落とした死体に触れて魔法を唱えた。すると死体から白いモヤが上がり、それに向かって魔法の鎖を投げて縛る。
「禁術なんて何年ぶりかしら。懐かしいなぁ、帝国騎士をこれで捕まえて情報吐かしたこと。二人とも黙っててね。これは……神聖とは逆の深遠の禁術。反魂の術に近い」
私とソーマは頷き余所見をする。それに満足したエルミア姉様は尋問を始めた。尋問というよりも自白に近い。くぐもった声で説明する。
「我々、黒狼組は銀狼組に抗争を仕掛けた。銀狼組の党首は既に殺め、次に後継者を殺り組織力を落とす」
「ん、後継者……お母さまがいらっしゃたような」
「金狼様は我々黒狼組に与している。故に後継者を始末し、銀狼組は解体。再編し、黒狼組が帝国を牛耳る」
ベラベラと喋る。全く、秘密も糞もない。禁術の理由もわかる。こんなのは「人権」なんて全く意味をなさない。エルミア姉様はそのまま鎖を解いて解放し、次に炎の魔術を唱えて死体を焼く。
「銀姉、金狼ってお前のお母さんか? 何故そんな事を?」
「それはわからないけど。お父様……亡くなってる可能性がある」
「党首……殺めてる。それは本当なのか?」
「わからない」
私は腕を組んで悩む。しかし、情報が足りず大きくため息吐いた。
「組同士の抗争は確実かな。帝国戻って情報集めないと。マクシミリアン女王を仕留めるのは嘘の情報だった。狙いは私で確実」
「銀ちゃん、今は危ないわよ?」
「危ないですけど……私は帝国民です」
故郷は帝国である。私の生まれは帝国である。やっと意識がハッキリした私の人生の故郷だ。
「ソーマちゃん、どうするの? 刺客たちは不利な環境でも確実に殺りに来たのは……あなたがここに連れ出した結果よ」
「銀姉には帯剣してもらい、服も魔法に対する修道服を着て貰う」
「うぇ!? 修道服ぅ!? 嫌よ!!」
「大丈夫、銀姉。修道服と同じ布地で縫ったドレスだから。マクシミリアンは婆さんがこんなだろ? 修道服は結構、ファッションとしての側面が強い。マクシミリアンのマークさえ何処かにあればいいしな」
「それなら……着てやらんでもないけど。マクシミリアンの宗教の修道女でもないよ。効果あるの?」
「銀姉の気にする事はない。それより、エルミア婆さん」
「なに?」
「帝国に帰る。だから……ありがとうございました」
「顔を見せなさい。愛しい私と王の子らよ」
ソーマとエルミア姉さんは頭のおでこを当てる。愛されている子孫であることがわかり、今度は私が抱きしめられた。
「あなたは暗い暗い家の子だってわかってる。頑張りなさい。私はここにいるから」
抱きしめられて私は感じる。これが「マクシミリアン国の特徴」なのだと。名君として非常に熱い方である。
「はい」
「足を洗いたくなるほどにこの人はいい人」と思いながらも、私は帝国に帰る事を決める。私の問題に関わってくれた事を感謝しながら。
「あっ、禁術は教えてあげる。だって人狼のあななたちは口が硬いでしょ?」
前言撤回。この人は私たちの「天敵」の一人である。




