三度笠の刺客
特徴的な三度笠の下で面が見える。面は赤く、オーガーの角と表情で怒りを見せていた。だが、その奥にある瞳は冷たく。人を殺すことに雑念が見えない。故に最高で最悪な刺客であることがわかる。武器は腰の刀であろう。刀も名工の物と思われる。
「ソーマ、引いて。あなたは彼と相性が悪いの」
「銀姉」
認めない旨を名前を呼ぶだけで伝える。私は静かにソーマに従わせるように言う。
「愛してるから聞いて。時間がない」
「……」
ソーマは何も言わないが、聞いてくるようになった。それに私は答える。刺客は様子を見ながら迫り、間合いを見極めている。一瞬で懐に入りこむ事が出来るのだろう。
「あれに対抗する武器がない。刺客は武士であり刀の一瞬で命を狩りとる」
「詳しいね」
「その説明は今はしない。先ずは『凄く今はいい環境』ってこと」
「銀姉さぁ……本当に賢いね。マクシミリアンだから『魔法の使用許可』がある」
私はソーマの背中を叩き、全力で逃げ出す。ソーマは盾を全面に構えて呪文を唱えて膨大な魔力を放出。障壁を生み出す。
「逃げ出すか。いや、読まされた」
それは刺客にとっても驚いた事だろう。向かって来る雰囲気を出していたのでフェイクにかかったと言える。背後に金属音が響き、魔法障壁が壊されて盾を斬られた事がわかる。だが、それは牽制だろう。
後ろから殺意を感じとりながら疾走し、騎士団の駐屯地へと足を運ぶ。数人の騎士が事態を知り、慌てて剣を向けているが「とまれ!!」と言う注意は全く刺客は聞かない。そして、私の目の前にもう一人。今度はとんがり帽子の刀持ちが構えて待っていた。複数人、刺客がいる。
そして私は匂う。刺客の間合いを。
「よっと……やっぱ。狙う側が狙われる側になると普通に逃げれるね」
間合いに入った瞬間、私は霧になって姿を眩ませる。その瞬間に刀の間合いがズレ。私は姿を現して脇を抜けた。
「ちっ切れなんだか」
弱点は知られて居ないようで助かり、そのまま騎士団の砦へ向かう。騎士団砦の門番はゴーレムであり、私が入った瞬間に護るよう動いてくれるだろう。
「そっちに行ったぞ」
複数人の刺客、これに対して私は逃げの手を打つ。時間が伸びれば刺客側の不利と成功確率は下がるのだ。
「死んで貰う」
だが、私は予想外な事が起きる。臭いもない、殺気もない、完璧な擬態をしていたのだろう壁から一人の刺客が現れた。その刺客は美麗な黒髪の女性で獣の特徴的な耳がついており、そして私と同じ感じがする。私を越える圧倒的な隠蔽に全く反応できない。
「人狼?」
「ええ」
時が長くなる感覚、目の前に迫る魔力の乗った刀が迫り、私の顔を切りつけようとする。私はそれをそのまま。
ガチン!!
噛みつき、止まった一瞬の隙に霧になって頭だけを避ける。そのまま、ひっくり返えった姿勢のまま足を蹴り上げて人狼の顔を蹴り飛ばした。魔力込めた一撃は霧にもダメージが行くだろう。
「つぅ!? どうやって!?」
「頭蓋骨で脳漿ぶちまけてないわね。何者よ? あなたは知らないわよ?」
「姉さま!!」
答えない。普通の事に私は踵を返し、新しい刀の凶刃に晒される。それをナイフで流しながら防御するが2体1で挟まれたこの状況は非常に苦しい。人狼である黒い髪の姉妹にはどうしても霧になる事が知られており敵わないだろう。耐久性も高く、殺るための武器がない。
「一太刀、二太刀を潜るその身のこなし。流石は大陸の人狼と言った所でしょうか……」
隙のない身のこなしでゆっくりと距離を詰めてくる。何かしなければ詰む状況であり、私は大きく溜め息を吐き、そのままお腹に手を当てる。
「ごめんなさい」
潔く、私は笑う。ナイフを構えながら。
「なるほど、どちらかと共に討ち果てるつもりですね。わかりました。お覚悟を!!」
刀を八相の構えで近付き、私は玉砕覚悟で突っ込もうとした瞬間。目の前の黒髪の女性がそのまま構えを解き、私に背を向ける。チャンスに私は投擲用のナイフを構えるが思い止まった。「恐ろしい何かで動けない」のだ。黒髪の女性の先を見ると、ドレス姿に手甲と騎士剣の両手刃を持った女性が走り込んでくる。
「エルミア姉さん!?」
何の間違いか、マクシミリアン女王陛下その方が騎士団の誰よりも早く、速く、私の危機に気付き来てくれたのだ。その速さに人狼は狼狽える。
「縮地!?」
しかし、やはり玄人。刀を構え、袈裟斬りを行えるように間合いで待つ。エルミア女王は右手の片手だけで剣を支え、下段の構えで走り混む。そのまま二人の間合いは重なり。目にも止まらない上段が振り下ろされた。
私はそれを騎士剣で打ち合い、刀と言う打ち合いに向かない「弱点を突くのでは?」と思っていた。しかし、それは全く予想外な攻めをマクシミリアン女王陛下は見せる。
ギャン!!
振り下ろされた刀を左手の手甲で横に弾き刀を空かせ、その脇腹に右手の本来は両手で持つだろう騎士剣を振り抜いた。人狼として霧になり、手応えは無いのかと思った瞬間。ブチブチと音が響き、表現のできない惨状が生まれる。
霧ごと強引に凪払った剛剣の勢いのまま一回転し、その勢いのまま剣を投げる。剛剣は魔法によって回転せずに刃を前に突き進む。
「姉さま!?」
私は慌ててしゃがみ、あまり様子を見えてなかっただろう後ろの女性に向かう。私の髪は靡き数本切り、慌てて避けた結果。全く予想外な攻撃に晒された娘のど真ん中に突き込まれる。
「あがっ!?」
剛剣の大きさで貫かれた娘の体は大きく吹き飛ばされ深く深くに剣が刺さったまま転がっていく。私好みの大惨事を見ていた私は問う。
「エルミア姉様、お強いですね……」
「ふふ、伊達に1000人以上帝国騎士を斬ってないわ」
私は初めての足の震えに戸惑いながらたてずに居ると刀を拾ったエルミア姉さんが近付いて手を差し伸べる。
「そこの刀を拾いなさい。マクシミリアン首都での蛮行、全て極刑として処罰しに行きましょうね」
私は初めて「恐怖」を感じた。圧倒的な力の前に矮小な小娘だった事を見せつけられて。




