マクシミリアン女王舞踏会~銀姉の凶行~
舞踏会……それは貴族令嬢が踊ったり演技を見たり酒飲んで遊んだりする社交場。多くの金持ちが触れあうような場所。
私は早朝、寒い中で……そんな場所のお誘いを受け馳せ参じだのだ。ワザワザドレスを借りて。
「……」ピクピク
私はひきつる笑顔でその遊び場にソーマとともに顔を出す。ソーマも同じようにひきつっていた。
「銀姉……顔がひきつってる」
「ソーマ……わかる? 嫌なのよ。なんで休みの日まで仕事しないといけないの?」
「銀姉……暗殺しなくていいよ」
「違うわよ!! 社交よ!! 社交!! 気を使うのが嫌なのよ……殿方に『あら~』とかいうのよ?」
「銀姉……俺に言ってくれよ」
「嫌よ気持ち悪い」
「……だよねー」
ソーマに手を握られる。いや……腕を掴まれた。「逃がさない」という意思表明に顔をひきつった。
「えーと……女王がいるから。変なことしないでくれよ」
「何故断らなかったの?」
「………女王から招待だ」
「うえぇ~胃が痛い……」
「銀姉でもアカン事があるんですねぇ」
私は腹を括った。これは拒否出来る流れではない。仕方なく掴んでいるソーマの腕に爪を食い込ませた。痛がる彼は手を離す。
「…………よし。ソーマ笑わないでよ。殺したくなるから」
釘を刺す。
「笑わない。今の君の方が魅力的だとため息を吐くだけだ」
彼の腕を掴み握り潰す。
「うれしいわぁ~」
「……褒めても怒るのかい?」
「ふふふ。恥ずかしいだけよ」
「かわいいぎぃいい!?」
ソーマは苦しそうに呻く。やはり握る力は衰えていない。
「ははは~ソーマ可愛い~」
「銀姉……」
ピリピリとした空気で宴会場に到着する。宴会場は豪華な装飾とシャンデリアに彩られ。多くの亜種族が談笑していた。料理はまだ運ばれず。衛兵たちが丁寧に対応する。そして……その中で私はふと匂いを嗅ぐ。
「……」すんすん
「銀姉?」
「お料理いっぱい出てきますわ。時間は……ちょうどね」
「そ、そうだね。暴れないでくれよ」
「暴れません。でも……ナイフは仕込んで来ました」
「……衛兵につきだすよ……いや、よくバレなかったね……身体検査あっただろ?」
私は舌を出す。
「能力使ったな……霧になって抜けたな」
「勿論……スルーでしたわ」
呆れるソーマに「いいざまぁー」と気分を良くする。テーブル席に案内されたあと。ソーマの大祖母……マクシミリアン国の女王陛下が舞台の台上にあがり挨拶を始めた。皆が酒を注ぎ私たちもテーブルから立ち上がる。
「……あれが女王」
「エルミアおばあちゃんだな」
台上には騎士のようなピリッとした姿であり、短いスカートに長い靴下を履いて脇には小さな短刀を所持していた。ドレスと言うよりも女騎士の儀礼服みたいでカッコ良さとピチッとしてエロい。特に胸と尻のラインが際立つ。
そう……妖艶な色気を持ち。耳が尖っている以外は人と変わらず。物語のエルフ族らしい美しい姿だった。そう……長命であり、人より頑丈で「子を全く生めない」と言われるほどに大変な種族である。
「何歳? あれ? 滅茶苦茶、若作り」
「指差すな……一応女王ぞ……300才越えじゃないか? 帝国の隆盛期だから。秘密らしいし……でも、歴史に名前がある」
「……女に歳は聞けないわね」
そう、聞けない。聞いてはいけないタブーである。
こそこそ二人でヒソヒソ話をしながらふと……女王陛下がグラスを掲げる。
「マクシミリアン王国の1年の無事を祝って乾杯!!」
そして、盛大に飲み干す。皆も飲み、拍手喝采の中で各々が料理を取りに動き出した。男ばっかりだが。
「銀姉。何か取ってこよう。ドレスが汚れるだろう?」
「そ、そうね。自分で取りに行き………ついてくわ」
「命令するんだろ?」
「勿論~」
ワクワクしながらはしっこの二人用テーブルを離れる。匂いに誘われてワクワクした。
何故なら……帝国にはない料理が並んでいるのだ。驚くのは生魚の料理もある。料理人が綺麗に捌いている。竈が用意され、わざわざ目の前で作って提供している。
「はい!! 注目!! 醤油は英魔国都市ヘルカイト!! 魚は英魔国オクトパスからの直送だぞ!!」
鱗が赤く、中身は白身の魚。鯛である。
「ソーマあれ。いる。あと……あの茶色い液体とごはん」
「……君。王国にいたわりに本当に変わったの食べられるね」
「逆に聞くけど……結構料理豊富ね」
「まぁーばあちゃん好きなものだから」
私はソーマからそれを聞き。エルミア女王を見ると。丁寧にナイフと……箸をつかい口に含んで幸せそうに頬に手をやる姿が映った。皆が会話しようにも誰もその状態では声をかけずに様子を見る。
「皆、知り合いなのかしら?」
「そうだね。知り合いで家族もいるよ。血が混じってるだろうな」
「……あなたみたいな?」
「そそ。子供生まれて絶対一度は授乳はばあちゃんがすることで決まってる。忙しい場合の育児は全部見てくれるらしいよ」
女王陛下の胸を見たあとにソーマを睨む。
「む、むかし……覚えてないし……」
「それもそうよねー」
結構変わり者と言うのが分かる。だが……それはきっと苦労してきたからだろう。私は知っている。エルミアの周りに家族なのかマクシミリアンの人達が集まりだした。
「ばあちゃん。そんなに食べて……もう歳だから気を付けないと、病院では暴飲暴食が駄目って言われたでしょ」
「まだまだ、大丈夫です。ふふ、美味しい~鯛~。赤味噌の粗出しまだかしら?」
あんなに家族に囲まれて幸せそうに話をしている。
「ソーマも行けば?」
「君を置いてはいけない」
「……ふーん」
テーブルに戻り私たちもお食事をするのだった。
*
「ソーマその照り焼き手羽先の骨ちょうだい」
「……?」
俺は銀姉の皿に食べ終わった手羽先の骨を置く。
「銀姉……俺の食いかけをどうするんだよ? 投げるの?」
「まーた犬みたいな。とってこないぞ」
銀姉は人狼であるが流石にそんなことしないのだろう。
「はふはふ」
しないのだろう。
「ん……うま」
しない……訳がない。めっちゃ骨を美味しそうにしゃぶって。
バリバリ!!
噛み砕いた。その姿は令嬢と言うのを忘れさせるほどに野性味は強く。俺は若干引く。
「………たまらないほど骨が好きなの」
「いや……狼なんだなそこ。初めて見た」
「……まぁ。『子孫は死体を食べて生き長らえていた』と聞いてるからね。あんまり食べるとお腹が痛くなるし怒られるから……コッソリね。ソーマには初めてよ」
「体に悪いんだな」
銀姉に注意をしないといけない食べ物らしい。
「銀姉の父さんに聞いてみるよ」
「……あっ」
銀姉が口を押さえて失言したと言うような顔をして睨み付ける。いや……俺は悪くない。
「くっ……あなたを信用している私が憎い。隠してたのに」
「……………」
あまりに嬉しい一言に俺は笑みを溢しながら胸に目をやる。信用してくれているだけで僕は……満足できなくなりつつあった。
異様に胸の奥に渇望が生まれている気がした……そうなにか切っ掛けがあればと獲物を狙う獣のように。
「……ん……ソーマちょっと」
「あっ!? なんだい? 銀姉?」
「……先に謝っとく。すいませ~ん。臭うわぁ~」
銀姉が立ち上がり。片手に棒手裏剣を構えた、そして……皆が見ている中で投擲。
「銀姉!?」
棒手裏剣の先には自分のお婆ちゃん。マクシミリアン女王陛下が居たのだった。




