旅
次の日、早朝。私は目の前の光景に驚かされた。何故なら家の庭に……魔物が居るのだ。
「ド、ドラゴン!?」
そう、強靭な鉄のような赤い鱗に獰猛な爪。大きな大きな体。誰もかも驚くだろう。そんなドラゴンが居るのだ。そのドラゴンがソーマと何かを話していた。
「ソ、ソーマ。ドラゴンの言葉がわかるのですか?」
「銀姉。起きたか」
「ああ。こちらがシャーリーお嬢様ですか?」
普通に人語を話しました。これは英魔族です。
「そうです。銀姉紹介するよ。マクシミリアン騎士御用達のユグドラシル運送のレットンさんです」
「英魔族竜人。レッドドラゴン・レットンです。どうも」
「シャーリー・クドルシュチルですどうも………」
頭を下げるドラゴンに私は笑顔をひきつった。竜族の噂は聞いていたが「本当にドラゴン」とは思いもしなかった。
「銀姉。彼を貸し切った。結構、いいお値段を安くしてくれたよ」
「いやー。重取引先ですから。仕切りが違うんですよ。仕切りがね」
「まぁーマクシミリアンで良かったよ」
「では、準備が出来次第。教えてくださいね」
ドラゴンが庭一杯に寝そべる。背中には騎乗用の椅子がついていた。
「銀姉。荷物はあの鞄に入れる」
ソーマの指を差す先にドラゴン用なのかすごく大きい鞄がある。
「ソーマ」
「なんだい?」
「……ドラゴン乗れるとは思わなかった」
「俺は昔はよく乗せて貰ったよ。ワイバーンは王国にもあるだろ?」
「あるけど………マクシミリアンって何?」
私はドラゴンを指差す。昔から知っているソーマのイメージが全力で否定される。寡黙の一般騎士ではない気がする。私の知る物語にはドラゴンは「倒すべき敵」「評価をあげるためのイベントのやられ役」などだ。
「まぁー騎士と思っていればいいのでは?」
ちょっと納得いかないが、私はドキドキしながら出発準備を行う。
冬休み二日目からすでに驚かされる。慌てて荷物も持って鞄に入れる。聞けば運搬用の鞄らしくこれでいつも運搬で飛んでいるらしい。朝食もソーマに食べ方汚いと言われながら詰め込み。支度は整う。
いざドラゴンに乗るという行為をワクワクしながら待ての状態で先によじ登ったソーマを待つ。手綱を垂らす。それを掴み。引っ張りあげてもらった。
「まって!? 近い!! お腹さわるな!!」
「ちょっと失礼」
シュルッ
私のからだとソーマの体を結び。席の所に結び直した。
「落ちないようにだから」
「ち、ちか」
「我慢してくれ。よし!! 大丈夫」
「じゃぁ……いきますよ!!」
バサッ!!
「揺れます。二人とも気を付けてください」
庭に風圧を撒き散らしながらドラゴンは屋敷を旋回しながら空に上がっていく。冷たい風が顔に当りちょっと寒い。慌てて目を保護する眼鏡はつける。
「お、おう!?」
「銀姉。離れない。俺にしっかり捕まって」
捕まってと言われても紐で繋がれているのでくっつくしかない。文句一つでもとは思ったが。真面目に手綱を持つ彼の横顔に何も言えず。黙って従う。
「二人かた。夕暮れにはつきます。落ちないように気を付けてください」
「はーい」
「レットンさん。お願いしますね」
レットンさんから見る眼下の都市は驚くほどに大きく。そして、私はその光景に感動する。
「こんなところに住んでいたんですね」
「いい光景だな」
「はは。シャーリーお嬢様は凄いですね?」
「あら? どうして?」
「最初は怖がって下を見ませんよ」
「怖いですわよ」
「怖そうに見えない。銀姉」
「ふふ、ポーカーフェイス………っと言うよりも」
私は下を見続ける。
「こんな。光景が見れるのに目を閉じるなんて勿体ない」
「あー、好奇心が勝ってるんだね。銀姉は」
「ははは。元気がいいご令嬢ですね」
私は青い空。白い雲の間を飛んでいく中。彼の腕の中でずっと景色を見るのだった。
*
数時間の空の旅の途中。ある青いドラゴンと数匹の青いワイバーンぽい群れが背後から現れた。戦闘になるのかと思ったが。予想外。向こうから声をかけてきたのだ。よく見るとパンパンの鞄を持っている。
「よぉ~レットン」
「おお、レックスじゃないか」
どうやら知り合いらしい。
「こんなところでどうした?」
「いや、息子たちにな仕事を教えてるんだ。おら挨拶」
「「「「「こんちゃ!!」」」」」
「結構子沢山だな?」
「妻が頑張ってくれたよ。ワイバーンだから。多いんだ。もっとゆっくり話したいが。残念ながら今は速達便だから急がせて貰うぜ」
「「「「「さようならーおじさん」」」」」
1団がそのまま追い抜いて飛んでいく。飛ぶのが速いドラゴンなのだろう。みるみるうちに消えていく。
「ソーマ」
「なんだ?」
「もしかして。私って世間知らずだった?」
「銀姉。そうだよ。箱入り娘らしいね」
そっか。あの光景は普通なのか。この会話を聞いていたレットンさんが笑い出す。
「ははは~王国では亜人はまだまだ珍しいでしょうね」
「一応……私も人狼の亜人なんですけどね………生まれも育ちも王国で……いや~」
「そんなもんですよ。王国はうちら入れませんからね。特殊な入国届けがいるんでさぁー。めんどくさくてめんどくさくて。だーれも壁の外しか降りねぇです」
なんとも、世間はもっとこう。広い。知らないことが多くて多くて。興味がそそられる。
「銀姉、亜人なら。一応俺も亜人らしい」
「はっ?」
唐突のカミングアウトに私は威圧した。
「なぜ今ここで?」
「まぁー故郷に帰ったら話すよ」
「ははは、まぁ。もう亜人も人間も英魔族なんですけどねー女王陛下はすごい」
「英魔国の女王はすごいわね………」
私はなんとも。女王への威光に笑顔になるのだった。
*
暗がりの東方側の屋敷の畳の広間でそれは行われる。
「姉御……旦那がお帰りです」
「………通しな」
「はい」
「よぉ。姉御。久しぶりだな」
「こいつをやれば……」
「まー待て!! お前は姉に似て血の気が多い。牙を収め」
「……ふんふん」
「ほう。その子が別の誰かとの子ね」
「ああ、そうだ。俺も尊敬されてるってもんだ。姉御のようにな」
「……そう。シャーリーは何処?」
「さぁ? 男と国外じゃないか?」
「…………まぁいいわ。なーに? せっかく来たのよ。久しぶりに交わりに来たわけでもあるまい」
ドスン!!
「まぁ、そうですね………座りながら腹割って話しましょうや。下のものから聞いてます。薬に手を出したと」
「そうよ。何が?」
「そうすっか。やめて貰えませんか? 姉御」
「………ダメじゃ」
「はん? うちらはな!! 極道じゃけど!! 外道に成り下がった訳じゃありません!! 姉御!!」
「ダメじゃと言うとろうに!! あんな事ばかりじゃぁ飯は喰っていけん!! わかるじゃろうが!!」
「他の方法でやりくり出来ている状態でこれ以上の富はいりゃせんじゃろが!!」
「わしゃいるんじゃ!! 極道は金がいる!! 仁義だけで腹は膨れん!! 大人になれ………ガゼル」
「大人になれか………わかった。わしゃぁー大人になれへんようや」
ドンッ!!
「盃、返すさかい………ワシの自由にさせてもらいます。今までの恩、こんな形で返す形になってほんますいません。では、いくぞ」
「父上……」
「ふぅ………」
「ど、どうしますか? 姉御?」
「どうしようも……裏切り者は裏切り者。変わらず殺るだけじゃ」
「………姉御それでいいんですか?」
「何度も夜を共にしたがの。ああいうのは一夜の遊び。所詮……一夜の夢ぞ。あんな坊主だったのがこうまでなるとわのぉ………ワシは醜いかの」
「…………いえ。お美しいと思います」
「………そうじゃろな」
(醜い……醜い……ワシは醜いの………だからこそ………金がいる。力がいる)
「ワシの夢のために………消えてもらうかの……奴には」




