盃を交わす
冬は雪が降り人の営みは動きが鈍くなる時期。まだ雪は降っていないが雪の妖精がちらほらと見えてくる中で………俺は銀姉の父上に呼ばれた。
早朝に屋敷を伺い。気兼ねなく執務室に堂々と入ってからふんぞり返って座る。
「なんでしょうか?」
「おう、偉そうに……」
「すいません。今日は朝からシャーリーとデートさせる予定でした」
「そうか……」
「ん?」
シャーリーの父上が複雑そうな顔をする。俺はそれを見て………目を合わせた。
「娘を頼めぬか? 少し遠いところへと連れていってやってくれ」
「…………伺いましょう。なーにがありますか?」
「我が家の出来事だ……気にするな」
「シルバーファング」
「聞いてるか」
「組織名と。お父上……何かあれば手を貸します」
「………ふむ。だが……これは俺らの問題だ。首を突っ込むな」
「では………教えてください。何をするかを」
「他言無用だぞ。娘にも」
「陽に誓って」
「………」
カチャ
お父上は棚から何かの酒と何か赤い入れ物を用意する。懐かしいものでビックリする。
「お前はこれが何かわからないだろうな」
「いいえ……知ってます。盃と米酒」
「……そうか。お前の祖国では当たり前か」
「はい。ですが……なんでしょうか?」
「注いでやる。飲め。男だろう」
「はい」
一応、酒は16からと決まっている。全ての地方の共通認識となっており地方でまちまちだ。大陸の覇者の一声で決まった事でありギリギリではある。だが………飲めと言うなら。空気を読もう。
「いただきます」
「ああ……」
盃に注がれる綺麗な透明色の酒を一口で飲み干す。
「おら、盃を貸せ………そして注ぎな」
「……はい」
俺は本能で理解する。これは………何かの儀式だ。お父上の盃に注いで。それを飲み干すのを見た。
「これで俺らは親子だ。これはな………俺らの風習で。兄弟、父子の盃って言って絆を強くする風習だ。俺の事をオヤジと言え。ソマ坊」
「オヤジ……それは」
「家族だ」
「オヤジ!?」
俺はオヤジの真面目な顔で察した。なのかヤバイことをしようとしている。この一連の行動でわかった。
「オヤジ!! いったい何を!!」
「……シャーリーの母はシルバーファングの姉御だ。そして……今、シルバーファングはな薬に手をつけてしまった。それをやめろと言い争う」
「薬……薬ですか?」
「ああ。頭が吹っ飛ぶやつな。痛み止め程度ならいいが………依存するようになる。非常に強い幻覚を見て気持ちがフワッとする」
「毒ですね」
「そう、金になる毒だが。売買は禁止されている」
「……何故。それをやっていけないのですか?」
「俺らは極道だ。外道じゃない。まぁ……俺が気に入らないだけだ。同じ悪いことでもな」
「……極道……とは?」
「娘に聞きな。ソマ坊………お前ならずっと一緒に護ってやれる。何かあったら遅い………俺の代わりに頼んだ息子よ」
「……オヤジ。わかった」
俺は納得し。頷き。それを見たオヤジは満面の笑みで俺の頭をつかんで撫で回すのだった。息子のように。
*
「パンコロー」
コロコロコロコロ
私は早朝。机の中に懐かしい物を見つけて遊んでいる。コロコロと転がして遊ぶ玩具だ。
ガチャ
「ただいま。銀姉」
「遅かったじゃない~」
「色々打合せしてたんだよ。冬休みのな」
「ふーん」
どうでもよさげに私は反応する。そんなことよりも玩具だ。
「銀姉……それ……めっちゃ懐かしい」
「でしょ!! パンジャンドラム!!」
玩具の名前はパンジャンドラム。ドラムのような形で丸い車輪がついており。小さな魔力の石で駆動させてコロコロと転がして遊ぶ。英魔国で皆が遊ぶ玩具だ。開発案はなんと英魔共栄圏の女王陛下さまらしい。流石は私の尊敬する人である。
「銀姉……俺もパンコローしたい」
「いいわよ。どうぞ」
私は彼に手渡す。彼はそれに魔力を流して呪文を唱える。
「パンコロー」
コロコロコロコロカツン
壁に当たり転がりが止まる。
「昔はずっと転がしたり。廊下で真っ直ぐ転がせるように色々と工夫しましたね」
「やった……やったわ。何処も一緒なのね。やることは」
「ああ。銀姉、それに俺は空飛ぶパンジャンも持ってたよ」
「マジ!? 高かって買ってくれなかったんだよね!!」
「あれ……面白くて。よく何処かに飛ばして慌てて探し回ったよ」
空飛ぶパンジャンはその場で回るパンジャンの派生方で回る勢いのまま空に飛んでいく玩具だ。子供時代の憧れだったが英魔国のみユグドラシル商会販売なので数が出ずに。転売のみでしか入らない。王国だけ……入ってこないのである。差別だぁ!!
「いいなぁ……」
「実家に帰ったらあるね。銀姉。明日には実家に行くから準備してくれ」
「実家? あの屋敷」
「あれは。マクシミリアン騎士団駐屯地で俺の実家はマクシミリアン第2王国」
「えっ………えっ?」
「国外だ。実家に挨拶いくぞ」
私はパンジャンを落としてしまう。
「嫌よ!?」
「挨拶いくぞ!!」
「挨拶!?」
「挨拶。俺の母と………そうだな。もしかしたら会ってくれるかもしれない」
「ま、まって!? まだ早いよね!? あと数年で別れるかもしれないよ!? 婚約破棄するかもよ!?」
「それはない……潔く準備しろよ~冬休みの間だけ帰省するから」
「冬休みって結構ありますよね!? 嫌です家から出たくない!!」
私は惰眠とか貪りたい。外なんて寒いし。私は布団に飛び込んでくるまる。
「銀姉。魔物狩り」
ピクッ
布団の継ぎ目から獣耳を出す。
「美味しい美味しい。沢山の物………そうだな。寒い時期専用の店もある。連れてってあげよう」
ピクッピクッ
「パンジャンドラムの玩具屋もある」
ピクッピクッピクッ
「あとは観光として。湯治用の温泉もある。あれは確か……都市ヘルカイトの真似だけど。本場に近いレベルでいい温泉宿もある」
ニョキッ
「結構……王国より豊かね」
「現人間が治める場所では1番だ。第1王朝よりも栄えてる」
「…………」
「行きたくない?」
「ま、まぁ~行ってあげなくてもいいんだけどー」
「一緒に行こう」
「まぁーそこまで言うなら行ってあげないこともないかなぁー」
「よし。絶対に良かったって言わせてやるよ」(オヤジ………暖かくなる日には決着つけろよ)
私は布団からいそいそと抜け出し。立ち上がった。箪笥から魔物の革の鞄を取り出す。
「何がいるかな? いるかな?」
「………」(あっかわいい。耳がピクピクしてる)
「黙らないでよ。せっかく頭下げたからついていってあげるわ~」
「あっああ……えっと。服は現地で買って俺の実家に置かせて貰おう。今はとにかく極寒用の服を用意して明日、着て出よう時間がない」
「わかった~ふふ~ん」
「そうだ。妹どっか雲隠れしたよ」
「あっそ~ふふーん」
「オヤジには報告した」
「はーいはー…………」
私は準備をする手を止めた。
「オヤジ?」
「あっいや。父上」
「………盃交わした?」
「…………おう」
「あぁ……そっか。信用してたもんね。はぁ……心を決めよう」
もう。婚約破棄は死を意味する事を理解し。私は準備を進めるのだった。
「あっ!! パンジャン持っていっていい?」
「邪魔になるから置いていきなさい。現地で買ってあげるから」
「……はーい」
私はパンジャンを棚に戻すのだった。
*
「明日には実家に帰省します」
「そうか。母さんにはヨロシク言っておいてくれ」
「……帰らないのですか?」
「愛してるが。帰ったらどうなる?」
「あー喧嘩します」
「そう………離れていれば愛しい。しかしな~近いとちょっとなぁー」
「母さんも騎士だもんなぁ」
「……まぁその。ヨロシクな。これ、手紙」
「わかった。お父上。いってきます」
「ああ………」




