悪役令嬢の第三歩:ライバルを作ろう後編(失敗)
僕は恋愛小説を渡した。「これが真意」といい、「それが本心だ」と説いた。それから2週間。カフェテラスで僕は恋愛小説を読んでいたときに声をかけられる。そう彼である。
「……銀姉。ひとついいか?」
「なーにソーマ。私に」
仲良くなってしまった。「もうバレてしまったらしょうがない」と言い。「秘密を守る」と言うことで少し情報を解放したのがダメだった。「銀姉とお呼び」とか冗談で言ってしまい。「恋愛小説大好きで大好きで」と欲望解放したために。真面目に読んでもらい良さを知ってくれたのだ。そう、最高の理解者になってしまったわけだ。
「銀姉、破滅主義者か?」
「どうしてそう思うの?」
「あっ!? 銀姉!! ノブリスとシンシアさんがキスを!?」
「!?」
バッ!!
「どこっ!?」
双眼鏡を構えたまま、四周を警戒する。
「銀姉。嘘だよ」
ビイイイイイイン!!
「あっぶな!? 銀姉!! ごめんって!!」
棒ナイフのダートと言う投擲武器を投げた。後ろの方へ飛んでいき。薔薇園に落ちる。
「次は眉間を狙う。乙女の楽しみを騙した罪は死ぞ」
「はいはい………分かりやすい」
「………そう?」
僕は首を傾げる。分かりやすい性格とは思えない。
「恋愛小説好きなのはわかった。だけどそれを思いっきり拗らせて狂ってるのは驚いたよ」
「てへぺろ」
バレてた。狂っているのも知っている。
「はぁ……知れば知るほどに奇っ怪ですね。銀姉は」
「そんな化け物みたいな………私は恋愛好きな乙女だよ?」
「暗器を扱う令嬢の何処が乙女だよ………」
「ソーマけっこう……ズケズケ言うようになったね?」
「………慣れました。趣味の話はしっかりしてくれますし、暗器の練習を見せてくれましたからね」
最初はオドオドと1拍置いての会話だったが。今ではスラスラと喋られる。まぁ仲良くなりシンシアにぶつける作戦は順調といった所だ。暗器の練習も彼が「武芸を見たい」としつこいから見せたが。目をキラキラさせて褒めるのでつい………色々と見せてしまった。
「んで、シンシアちゃんは?」
「今日は一人です。ノブリスは数人と面会だ」
「流石ノブリスさん。モテますね。あなたは声をかけられないのに」
「一言余計だが。ノブリスは素晴らしい友人だ。鼻が高いよ」
「いいねぇ~その友情。あと一言余計?」
「………何が?」
「モテたいのねぇ~」
「ち、ちが」
「男の子だからねぇ。気持ちわかるわ~」
「厄介だな!! 本当に!!」
「図星ね~」
僕は一応、なぜか男の感性を持っている事を伝えた。最初は悩んでいたソーマだが、納得して接してくれる。それが楽でけっこうつるんでしまうのだ。信じてくれた理由は胆力があるから、らしい。
「どう? 揉む?」
「はっ?」
僕はニヤっとしながら胸を寄せる。自分でも驚くぐらい大きい。重い物を見せつける
「くっ………」
ソーマは顔をそらした。僕は勝ち誇って笑う。
「流石、童貞だわぁ~フフフひひひ」
「はぁ………銀姉には敵わないよ」
僕はクスクスと一通り笑い。お願いを口にした。
「僕さぁ~恋愛が見たいの。ねぇ、協力してくれない?」
「協力しない。シンシアさんを苛めるのは目を閉じましょう。しかし、過度の行為は監視します」
「えっ………学園生活………棒に振るの? やめときなよ。こんなのに付き合ったら青春無くなるよ」
「銀姉ぇえええええ!! あんたがもっと真面目に大人しくすればいいんですよ!! 皆から頼まれるんです!! 抑えつけてくれと!!」
最近のソーマは私を抑えている素晴らしい人物として株が上がっている。シンシア以外にも色んな女性に喧嘩を売って、王子が護ってくれる展開を見ようとしているだけなのだが。
「情けない……学園の男どもで唯一歯向かうのはソーマとノブリスさんだけね」
「怖すぎなんだよ。もっと優しく」
「手加減してるわ~殺してないでしょ?」
「そういうのが怖いんです!! いつか学園が血の海になったらどうするんですか?」
「あら、素敵じゃない。恋愛での死別は好きよ」
「………もういいです。恋愛ジャンキーめ。これが無ければ………黙っていれば普通の令嬢なんですけどね!!」
「はっ………そんなのつまらない………それよりも。シンシアちゃんは一人ね」
「行かせませ……速い!?」
「ソーマが、遅いだけよ」
「くそ…………軽々と薔薇園を飛び越えやがって」
僕は走り抜ける。
*
ガラスの半球ドームの中心にストーブが設けられているカジュアルなカフェ。木の暖かみを残し、薔薇園がしっかり見える綺麗な場所。そこに銀色の綺麗な髪を靡かせてシャーリーは現れる。シンシアは緊張した。「また何かを言われるじゃないか」と震えた。
シンシアはシャーリーが苦手なのだ。あまりにも絡む事が多い。しかし、シンシアはいつも疑問に思っていることもあった。
初めてあった時に「可愛い」と言ったこと。絡むのは実は私だけな事。シンシアは全て「何故なのかわからない」と悩む。
「あっら~田舎娘じゃない~」
「ぎ、銀姉さま………」
「王子さまは~? どこかしら? 捨てられたの~?」
「お、王子さま!? ち、ちがいます!! ノブリスさんは!!」
「あら? 私はノブリスと言いましたっけ?」
「くぅ………」
シンシアは顔を赤くする。
「田舎娘があんな名家と合う筈はないわ。あきらめなさい~」
シャーリーは嫌らしく言う。心では「可愛い」と思いながら、応援していた。「その身分差を越えて頑張れ」と。
「そうそう、田舎娘名前はなんでしたっけ?」
「シンシアです………」
「ごめんなさい~田舎娘さん。忘れっぽくて~」
「う、ううう………」
シンシアは震える。苛められている自分が情けなくて情けなくて。「元婚約者がでしゃばらないで」と言えたら「どれだけ、いいか」と。
「何か喋ったら?」
シャーリーは口撃をやめない。底冷えした声で喋る。「可愛い可愛い」と思いながら。
「おい、シャーリー………」
「シンシア~こっち向いてよぉ~」
「………おい」
後ろからソーマが肩に手を置く。そしてシャーリー耳元で囁いた。
「………引け。銀姉。俺が彼女をあやす………見ていればいい」
ソーマドールは学んでいた。操り方を。
「ふん!! まぁいいわ!! じゃぁあね!!」
シャーリーは嬉しそうに。その場をさる。ゾクゾクと震えながら物陰に身を潜めて舌を舐めるずる。
「ソーマドールさん………」
「……綺麗な顔が涙で台無しです。これをお使いください」
ソーマドールはハンカチを差し出す。彼は「マッチポンプ」と言う言葉を思い浮かべ、銀姉の望み通りの展開で苦笑いをする。
「……全く。銀姉………アホかと」
「えっ?」
「……いいえ。なんでもございません。お嬢様」
ソーマドールは背後でざわざわという声に自分もモテる事を再認識した。悲しいかな、男としてモテる事への喜びをシャーリーに教えてもらってしまったのだ。そして、恋愛小説を読まされ、キザな行為も学んでしまっていた。
「えっと………ソーマドールさん………変わりましたね」
「……ん? ああ、すいません。あまりにもシンシアお嬢様がお綺麗で見とれてしまいました」
「ひゃ!?」
彼らの背後でまた様子を見る令嬢たちがコソコソ話をする。ソーマドールはシンシアを評価する。実際、「本当に可愛い」と彼は思う。「綺麗な大きい目に純粋無垢な性格で尊く。髪も栗色で、口が裂けるほどの笑みを浮かべず罵倒せず。憎たらしいくなく………誰よりも誰よりも。いい子だ」とソーマドールは考える。
「………」
「ソーマドールさま?」
「………」
「しかし、なんだろうか」ともソーマドールは悩む。「シンシアは素晴らしい令嬢だ誰よりも」と考えるがつっかえる。
「……ソーマドールさま? その………見つめられると恥ずかしいです………」
「……ああ、すまない」
ソーマドールは何故だが、後ろで恍惚と笑みを浮かべているくそったれ女の事ばかり思い出す。
「はぁ………強烈だったからな」
「???」
「……いえ、こちらの悩みです」
「悩みがあるなら………頼りないですが相談にのりたいです」
「……ありがとう。ご本人に言いますのでご心配なさらず」
「………わかりました」
ソーマドールはお礼を言う。その瞬間肩を叩かれた。
「ソーマ、どうしたんだい?」
「……ああ」
ソーマドールはため息を吐いた。本物の王子らしい貴族の登場に呆れる。遅かった事よりも今の場面に対して。
「……シャーリーさんがまた来たんだ。シンシアさんを慰めてあげてくれ」
「…………お前は慰めないのか?」
「……ああ」
ソーマドールは流石に「恋を邪魔しよう」とは思わないのだが、「疑われている気」がしていた。ノブリスの真面目で真摯な瞳が曇る。彼は「おいおい」と思いながらも肩に力を入れられる。
「ソーマドール話がある。後でな」
「……わかった」
「胃がキリキリと音を立てそうだ」と毒つくソーマドールは恍惚の笑みで手招きするシャーリーを見て胃が本当にキリキリと音を立てるのだった。
*
「最高………ソーマ、最高だった」
「ああ!! そうですか!! 良かったですね!!」
俺は目の前の狂犬に怒鳴る。頬を赤くし潤んだ目で口を押さえる姿は如何にも可愛らしいだろう。しかし次の瞬間、笑みが固まる。
「ああん………もう。勃つわぁ~」
「女だろ銀姉!?」
可愛い顔してとんでもないことを言う。女を捨てている発言だ。しかし………服はしっかり令嬢のドレスではある。胸を強調して目のやりばに困るが。
「女でも勃つ物はある。知りたい?」
妖艶に俺をからかう。もちろん想像できないので、ため息と「興味がないこと」を言う。
「枯れてるわね、若いのに」
なのに、こんな言い草。剣を持ってきたら抜いてしまいそうだ。
「銀姉さん。少しはマイルドになりませんか?」
「今日の尊い行為が続けばね………学園生活が終われば居なくなるわ」
「えっ?」
寂しそうにニコッと笑う銀姉。俺は胸を掴む。
「影の世界に堕ちる。お父様の裏のお仕事を手伝うの。家は隠し子が継ぐ。私は死んだことになるわね」
「それを俺に伝えてもいいのですか?」
「友達でしょ? まぁ………全力で趣味を語っても聞いてくれるし。さぁ、これで、なんでも話したわ。こんな死んでいなくなる令嬢より他に行きなさい。婚約者に悪いわよ」
ああ、なんて自由で気ままなお嬢様だろう。銀姉は髪をクルクルとして俺に興味無さげに恋愛小説を読み出す。すごく速いペースで、「本を読む姿は絵になる程に綺麗なのに勿体ない」と俺は思う。
「銀姉は一人の方がいいですか?」
「一人でも二人でも気にしないわ」
「では…………勝手にここにおります。友達ですから」
「ん………んん!?」
「おっと驚きましたね」
「ええ。まぁ」
「俺も変わり者ですから」
「…………まぁいいわ。勝手にしなさい」
彼女は髪をクルクルさせるが。ページが進まなくなったのはなんでだろうと思うのだった。
俺はそれにちょっと、「してやったり」と思った。