悪役王子×悪役令嬢の第一歩 :犬
正式に婚約者を勝ち取った俺は自室で人形に話しかける。ゴスロリと言われるファッションの銀姉モデルの人形だ。告白の練習として長い間、非常に役に立ってくれた。戦闘イメージもよく、動きが予想しやすい。
「今までありがとうございました。今度は本人に向かって全力でいきます」
深く深く人形に頭を下げる。今までの努力が報われる瞬間を感じた。明日が楽しみだ。
「早く寝よう。うむ。支度もしないといけないな」
俺は使用人に頼み「準備をしてくれ」と言う。これからは俺は胸を張って想いを言えるのだ。
「はぁ………ここまで来た。あとは………」
結婚するまでだ。
*
寝室。枕を抱きながら私は悶えていた。
「どうしよ!! どうしよ!! どうしよ!! どうしよ!!」
婚約者と仲良くする術は知っている。殺す術も。しかし、それは相手を「ただの有機物」と思っての行動だ。そう、例えば「壁に好き」と言うのと一緒であり、本気でも何でもなく嘘である筈で……獲物を狩る手段のひとつだった。
「あれをソーマに!? 無理無理無理!!」
「ソーマに好意を見せるなんて絶対に私は無理だ」と思った。体を差し出し、夜を楽しむなんてのも相手を疲れさせ油断させ、寝静まったら首を斬る行動も全部。「行為をソーマに出来るか?」と言われたらNOである。恥ずかしさが前面に出る。子孫断絶する。
「あああああああああああああ!! なんで婚約者に~」
もちろん、イケメンで背中は大きく。逞しく。家柄もよく、私を大切にし、私を汚れたような感じではなくて優良である。
「要素しかないじゃない!!」
バシン!!
今日も枕を壁に叩きつける。
「くぅ………気付かない日々に戻れないわ。あ、明日からどう接しましょうか!?」
殺す相手ならいいけど。婚約者にどうしろと?
「そう!! 恋愛小説よ!! そのための人生の参考書よ!!」
ベットから慌てて恋愛小説を開いて学ぶ。「さぁ!! 恋愛のヒロインたちよ!! 私に知識を教えて!!」とすがる。
「『私………好きなんです。すごく、好きで辛いんです。一緒に居てください』と出来るかあああああああああああああ!!!」
ベシン!!
私は恋愛小説を壁に叩きつけた。恥ずかしさで死にそうだ。当事者になるのは当初、嬉しがって居たがヒロインになるなんて聞いていない。
「そ、そうよ!! 悪役令嬢は狼狽えてはだめ。悪役は悪役らしく……そうすれば……甘いのも回避出来る」
私は項垂れる。気が付いた。今までの悪行を考える。
「メチャメチャ悪役ぽいことしてて………惚れられてるんですけど………このまま自由にするべき!?」
このまま我を通すとソーマに迷惑かかってしまう。怒られてしまう。
「なんで!! ソーマのこと考えて行動しなくちゃいけないのよ!! 関係ないわ関係ない!!」
どうする。
「緊急脳内会議よ!!」
私は纏めるために考える。天使と悪魔をイメージし。それに発言させる事で意見をまとめる方法だ。漫画とかよくあるあれ。
「ソーマはどんなことしても受け止めてくれるよ」
「そうだな。悪役でもヒロインでも……テルなら」
「今までだってそうだった」
「ああ、そうだな」
役に立ってない。それはわかったから。
「はぁ………怖い。明日が怖い。恐ろしい!! 別の意味で………怖い」
私は悶々としながら。寝付きの悪い夜を過ごすのだった。
*
身震いする寒さの中で私は目を覚ます。早朝、背伸びをして体をお起こし、炎の魔法で暖炉に火をくべる。閂を取り、椅子に座る。ああそろそろ本格的な冬が訪れることに私は溜め息を吐いた。冷気が飛び込んでくる時期である。
「寒いの嫌だわ」
コンコン
「いいわよ。閂外してるわ」
「おはよう。銀姉」
「おはよう……おはよう?」
目の前に男がいる。私は体を抱き締めて叫ぶ。
「キャアアアアアアアアアアア!!」
「銀姉!? 叫ぶか普通!! ショックだぞ」
「ま、まだ!! 心構えが出来てないの!! 子供はまだ早いわ!!」
椅子から降りて椅子を盾に顔を背もたれから覗く。
「銀姉……一夜明けて可愛くなるのか」
「か、かわいいですって!? ふざけないで!! こっちは心臓が高鳴って怖いのよ」
「……」すっ
「ち、ちかづくな!!」
「……」すすっ
「や、やめて!!」
「なんメートルなら?」
「10メートル。視界から消えて」
「部屋から出ろと?」
「着替えるわ!!」
「嫁なら見せろ」
「嫁じゃないわよ!? 婚約者よ!?」
「未来の嫁なら。見せろ」
「嫌よ!! 恥ずかしい!! ばっかじゃない!!」
ソーマが私を見てくる。やめて、私はまだ馴れないの。
「か、かみつくわよ」
「可愛いなぁ~」
コンコン
「ああ。入ってくれ」
ガチャ
使用人が朝食を持って現れる。温かいスープにパン。それを2人前。
「銀姉。朝食にしよう」
「え、ええ…………あなた。なんでそんなに落ち着いてるの?」
「銀姉みたいに恋愛で一喜一憂するのはこっそりするんだ。今も心では喜んでいるよ。銀姉が俺の嫁さんで」
「嫁じゃないわよ!?」
「ふん。遠からずそうなる。きみは逃げるのは難しいだろう。権力は時に圧力の枷となる」
ソーマがスープをすする。全く焦らない彼にムッとしながらも席に座った。
「………あなた………本当に落ち着いてる」
「『オマエ』とか言わなくなったな。いい変化だ」
「………」
私は無口でパンをかじるのだった。
*
「シンシア助けて………」
シャーリーは魔力ストーブが効いたカフェテラスでシンシアだけを呼んだ。ソーマはノブリスと一緒に何処かへ行ってしまい。今は二人だけである。
「銀姉さま。どうしたんですか? あの完全無欠の悪役さんと仰っていましたよね」
「その完全無欠ができないほどに追い込まれてるの」
「わかりました。銀姉さま!! お話ししてください‼」
「……今朝、ソーマと一緒にご飯を食べたあと。ずっと私も近くにいるのよ。教室は違うから離れたんだけど……今も隣に居なくてホッとしているわ。シンシア!! 教えて!! 婚約者とどう向き合えればいいの!?」
「………いつも通りでよくないですか? のろけですか?」
「ノ、ノロケじゃないわよ!! ち、ちかくにいると意識しちゃって。頭がこんがらがるの………」
「……………」
シンシアは心で毒づく。「いつもいつもくっついてた癖に」と。「ノブリスさまよりソーマドール様の方がスキンシップはうまいのが羨ましい」と比べて、自己嫌悪に陥る。
「銀姉さま………銀姉さまはどうしたいですか?」
「……ど、どうとは?」
「関係です。どんな仲でいたいですか?」
「き、清く健全なお付き合いを……ごめんなさい。思い付かないの」
「………」
「どうしよ……どうしよ……」
シャーリーは頭を抱える。「愛し方がわからない」と。
「はぁ………姉さま」
「な、なに?」
「黙って手を繋げばいいと思います」
「………そんな恥ずかしい事できないわ」
「ええ~昔は私に強要してたくせに」
「た、他人だから?」
「姉さま~私、相談乗りませんよ?」
「ま、待ちなさい!! 悪かったわ………ええ……ええ………恥ずかしがってはだめなの知ってるんですよ。でも……」
シャーリーが顔を俯く。
「………ちょっとかっこいいから辛いんです」
「…………」
シンシアはその反応ズルくないですかと。本来、私がそういう反応するべきではと憤った。
*
「ソーマ。どうしてここ空中庭園に?」
「ほれ、単眼鏡」
「え、ええ………」
「覗いてみろ」
「………シンシアと銀姉殿が見えますね」
「可愛いなぁ~照れてる」
「………」
「何を相談してるんだろうなぁ~頬染めてさ」
「………………」
「めちゃくちゃ可愛いなぁ俺の嫁さん」
「ソーマ。君はこんな趣味を?」
「趣味か………そうだな。涼しい顔していつも愛でていた。銀姉はこうやって遠くから眺める楽しさを教えてくれた。シンシアが困ってる顔もイケるぞ?」
「………どれ」
「どう?」
「中々……いいですね。友よ」
「女は眺めてよし触ってよし語ってよしだ」
「……………変態ですね」
「ありがとう。誉め言葉だ」
「……君はどこへいこうと言うんですか?」
「さぁ~な、でも……マクシミリアン騎士としてスパイは変わらない」
ソーマドールは空中庭園でシャーリーを見続け観察する。乙女の部分が出てきたシャーリーに対してニヤリと笑みを溢すのだった。




