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仁義なき悪役令嬢   作者: 水銀✿党員
腹黒王子プロローグ
30/59

悪役令嬢と悪役王子の第五歩:婚約者テルミドール・マクシミリアン


 私は父上に呼び出された。学園を切り上げてソーマに護衛されながら顔を出す。「この前の事件の事だろうか?」と予想をつけた。


 執務室の扉を勢いよく開ける。ボウガンを突き付けられる事はなく扉の前で父上の反応を待つ。


「シャーリー来たか………あの抗争でのお前の活躍は素晴らしかった」


「お父様。やったらやり返ししただけですわ。私一人の功では御座いませんし、皆が戦ったからです」


「ソーマドール・マクシミリアンの力でもあるな」


「ええ、彼は素晴らしいです。戦闘も性格も素晴らしいです」


 押し上げておく。実際に腕は立つし、この家の「好みの人になった」と言える。


「そうか。シャーリーお前は奴をどう思うかわかった。婚約者については何か聞いているか?」


「いいえ。噂だけですわ。学園ではソーマが婚約者でしょうぐらい。まぁ、一番近くに居ますからね」


「そうだ。ソーマドール・マクシミリアンがお前の本当の婚約者だ」


「………はい?」


 私は冗談を言ったつもりだった。


「彼から何も聞かされてないだろう。ソーマドール・マクシミリアンが正式に婚約者としてお前と一緒になりたいそうだ。既に婚姻届出も用意している」


 それは……もしや………そんなすぐに決まり筈はない。では、いつからかの話だ。


「う、そ………いつから………」


「……夏が過ぎた頃だったな」


「1月以上前!? なんで教えてくれなかったのですか!!」


「断るだろ?」


「そ、それは……もちろん自由がいいですわ」


「じゃぁ。どうする? 命令は出してやろう」


「な、なんのですか?」


「……奴がお前と一緒にならない場合は異常に危険だ。嫌なら殺ってこい。あいつはわが家を知りすぎた。決めろ、殺すか生かすか」


「……ま、待ってください。こ、殺すだけは!!」


「躊躇するか……ふむ」


「あっ……いえ……わかりました。不始末は私が………」


「不始末と違うが。好きに決めろ」


 私は頭を下げてその場を去る。何も喋らず廊下の絨毯を見ながらゆっくり歩を進めるが止まってしまう。目の前に迎えにソーマが立っていたから。


「て、ソーマ………」


「銀姉どうした? 珍しく顔が暗いが?」


「く、くらいかしら……」


「ああ、暗い。美味しいもん食べに連れてってやるから元気出せ。どうせ怒られたんだろ。たまには効くって事だな。怒られることは」


「ふふ、そうね………うん」

 

 どうしてだろう。何故気が付かなかった。


 彼はこんなにも綺麗な笑顔を……私に向けるのに。私は何故……気が付かなかったのだろう。


「ソーマは………私のこと………」


「ああ、なんだ?」


「なんでもないわ……行きましょう」


「……銀姉」


 ソーマが真面目な顔で私を見る。私は視線を逸らし。胸に手を置いた。


「……好きだ。俺はな」


「!?」


「じゃぁ~何処行こうかな? 銀姉は何処へ行きたい?」


「………ど、何処でもいい」


 私は聞き間違いだったのだろうか、スゴく胸が苦しい。しかし………私はその先が怖く。恐ろしく。聞けずにそのままついていくしかなかった。聞かなかったふりをして。





 その日は、何を食べても美味しいけど美味しさよりもなんとも言えない感情が私を攻め立て……落ち着かなかった。別れたあと家に帰り、寝室の扉は修復され壊されないように二つ閂を作り、それを閂を下ろす。外着のままベットに飛び枕に顔を埋める。耳に残るソーマの声を振り払うように顔を振った。


「うぅ………ソーマ………」


 ソーマドールが婚約者なんて考えもしなかった。ずっとずっとソーマは知ってて一緒に居たのだ。「そんなの………今さら言われたって」と悶々する。


「………まぁ。でもソーマだし………まぁ~そんないい男でもないし……」


 ソーマドール・マクシミリアンは名家マクシミリアン家の騎士で強く。家の権力も兄よりも持っているのではと思うほどいまは活発に動きがある。


 我が家と交流があり、裏に精通し、ノブリスとは違い大人な雰囲気をもっている。私には学園で誰よりも監視しながも優しい。戦いも自分のスタイルを持ってしっかりと私は背中を預けられる。


 綺麗な黒髪に、女性を喜ばせれる主役の顔を持ち。礼節をわきまえて成長した。「素晴らしい男だ」と言えよう。


「なんで!! 良いところばっかあげるのよ私は!!」


 枕を壁に投げつける。


「ああああああもう!! いや!! 寝る………」


 しかし、気がつく。寝て起きてもソーマが迎えに来る事を。彼はメイドや使用人と仲がいい。屋敷で彼を倒せるものはいない。私が塩を送ってしまったために手遅れになっていた。外堀は埋められており、既に喉元に剣が来ている。


「くぅ……」


 殺す。


「…………殺す理由ないじゃない………」


 どうしたいか、どうしようか。


「…………胸が苦しい。こんな私よりもっと……いい人と結ばれて欲しい」


 父上は殺せと言った。どうしたら………いいのだろうか。


「明日、殺ってみましょう。それで………決めましょう」


 悩むのは苦手だと目を閉じた。





 俺は銀姉に早朝。学園の訓練決闘場に連れられた。朝から沈黙して一言も喋らない。何があったのだろう。そう、何かね。


「……銀姉。今日はいったい何かな?」


「聞きました。昨日ですね」


「ほう。やっとですね。噂通りでしょう」


「……知らないわよそんなこと」


「でっ……答えは?」


「殺す。『殺せ』と囁かれる」


「ふぅ。銀姉らしい」


 俺は大きな盾を投げた。石に金属がぶつかる大きな音が決闘場に響いた。


「やるんなら………殺ってみろ銀姉。俺はこの日を待っていたんだ。狼を従えるなら……ボスであることも認めさせる必要がある」


 俺は魔物の皮で作られた皮手を装備する。銀姉は使い勝手のいい小刀(ドス)を掴んだ。ドレスのスカートを切り、太ももの棒手裏剣を投げられるように用意している。艶かしい素足が見えた。本気である。


「銀姉……来いよ」


「変わったわね。そんなにギラついて………あなたはもう私の知っていた彼と大きく違ってる。私のしる一人の攻略キャラクターは死んでしまった」


「何かは知らないが行かないなら俺からいくぞ」


「………」


 銀姉の表情は暗いまま俺は勝ちを確信した。傲らずに手に力を入れて踏み出す。


「!?」


 戦いの火蓋を俺が落とす。俺が落とした。真っ直ぐ銀姉に向かい。銀姉はドスを抜き一刀垂直に振り落とす。だが、迷いがあり剣筋は遅かった。


 ガシッ!!


「迷いが見える。銀姉、刀に魔力も走ってない。こんなんじゃ何も切れないぞ」


「くっ………」


 刀の刃の部分を手で掴む。白羽取りなんて出来ないが、魔力も力も入っていない刃は魔物の皮膚は貫通も切れもしない。迷いが見てとれて満足だ。


 スッガシッ!!


「ち、近付くな!! 離せ!!」


「……銀姉は俺のことをどう思うかはしらないが」


 俺は刀を奪い投げる。銀姉が逃げようとする手を掴んだ。強く、掴み銀姉が痛みで顔をしかめる。


「俺は銀姉のことを好いている。俺の物にしたい程にな。逃がさないぞ。俺の物にするまではな、躾て首輪をつけるまで」


「ソーマ!? あなたはおかしい!! 私は何処から見ても他の令嬢とは違うのよ!! あなたは真面目に私に関わらず。普通の綺麗な令嬢と付き合うのが本筋よ!!」


「今さら、今さら………綺麗もない。銀姉……そうやって自分は蚊帳の外と思うなよ。悪役令嬢が魅力的じゃないわけがない。それも美少女だ」


「は、はなして!!」


「離さない!! 俺は俺のために!!」


 手を全力で引っ張る。銀姉の軽い体は俺の腕の中に収まった逃がさないように抱き締める。


「噛むなら噛みつけ。首にでも。銀姉」


「ぐぅ………がぶぅ」


 首に痛みが走るが俺は笑みを溢す。血は出ているだろうが甘噛みだ千切られる事はない。


「素直にならなくていい。今のままでいい。だから………俺の妻になれ銀姉」


「………ぷはっ……………………」


「もう。殺す以外に婚約破棄は出来ない。どうやってもな。外堀は埋めた。君に届く強さも今はある。さぁ……諦めろ、骨を数本折るつもりで抱き締めてる」


「……そんなに……そんなに……想ってたのね」


「俺の尊敬する英魔族の英雄は全てを裏切ってまで一人の女を愛した。なら………俺だって『出来る』と信じている」


「……私は汚れているわ……いっぱい」


「俺も汚れている」


「可愛くなれない」


「俺は君のしらない可愛いい場所を多く知っている」


「……で、でも……」


「シャーリー!!」


 俺は強く叫ぶ、名前を。彼女はビクッと体を震わせた。抱いている腕を解放し彼女を自由にする。


「文句を言うなら俺を殺してから言え……俺が死ぬまで君は俺の嫁だ」


「…………」


 俺は背中を向ける。「殺るなら殺れ」と。そして………長い沈黙の後にドスッと背中で音がするのだった。





 私は……背中を向けるソーマに対してどうしようか悩む。刺せばそれで終わるだろう。ドスを拾い刺せばいい。でも………耳に残る彼の熱い言葉に。手が震える。


 出逢って、話しかけて、笑って、一緒にずっと居た。ずっとずっと居た。考えてみればソーマドールはいつもいつも私以外の令嬢とは一緒じゃなかった。「何故気が付かなかったか?」と自問自答した。私は自分を「女性として魅力的じゃない」と言い聞かせていた。


「……そ、ソーマ」


 「誰だってこんな血生臭い女なんて嫌だ」と思っていたのに。彼は………ああ。そっか一緒になって堕ちてくれている。強くなってくれている。おやつや楽しい時間を作ってくれている。


 こんなに尽くしてくれているのに……そんな人を私は刺すのだろうか。


「…………」


ドスッ!!


 私は彼の背中に勢いよく抱き付いた。


「銀姉………いや。シャーリー………」


「黙って………こっち見るな………見たら噛み殺す」


「………ありがとう」


「お礼を言わないといけないのは私よ……きっと」


 何故私は今こんなに……泣きたいのか。そんなのは簡単だ。


「絶対にこっち向かないで……」


 彼の背中で涙を拭う。気付けば簡単。ずっと暗示をかけていたのは私だった。他人の触れ合いを求める私は自分に対して目を閉じていたんだ。素直になれないけど……でも。


「………こんな………こんな令嬢でごめん……でも………ありがとう。こんな私を肯定してくれて」


 好きではあったんだとずっと前から知っていたんだ。言われなくちゃわからなかった。そうだ僕はもう「私」とずっとずっと想っていたんだ。


「シャーリー」


「こ、こっち見ちゃだめって!!」


「涙に濡れる君を見逃したくない………」


「んぐぅ!?」


 私は……唐突の口付けに。何もかも考えられなくなる。頭が真っ白になるというのはこういうことなんだと。目を閉じて思うのだった。






 その夜。お父さんの屋敷。


「お父さま………ソーマドール暗殺は出来ませんでした。腕が及ばず。すいません……」


「ククク。わかっていたさ。でっ……婚約するのだろう?」


「ええ、彼は素晴らしい男ですわ。それに……逃げられませんでした」


「奴は恐ろしい狩人になったようだな」


「狩人ですか?」


「ああ。射止めただろ? 狩られただろ? 心をな」


「…………お父さま」


「なんだ?」


「思いの外、ロマンチストですね」


「はは。人狼は昔から狩人に敵わんからな」


「はい……敵いませんでした」


 私は立派な首輪がついた。





















プロローグ終わりました。



次から始まりです。

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