悪役令嬢と悪役王子の第三歩:汝は人狼なるや? 後編
満月の夜……裏路地の民家の前で俺はある扉の前に居る。銀姉の嗅覚と耳による索敵によって見つけたのだ。獲物を追うが如く追跡も出来るらしい。恐ろしいのはたった一枚の羊皮紙と死体の匂いをかぎ分けた嗅覚だった。それはもう人間ではない事を裏付ける。
「ここ、ついた」
路地のギッシリつまった家の扉のもとへ俺らは移動する。
「化け物だなぁ。本当に……会話は聞こえるか?」
「静かに………明日の襲撃はどうするか打ち合わせてる。面白いのは私たちの隠れ家の担当が『成果をあげた』と言うこと」
「………筒抜けだ~」
聴覚もいいらしい。目を閉じて集中し、何かを聞き取って判断しているのだろう。
「ふふ、焦ってるらしいわ。殆ど失敗に終わったから。これからは総力戦だって………ワクワクするね」
「先に俺らだけ動いていいのか?」
「怖じ気づいた? ソーマ」
「ばーか……『独り占めしていいのか?』と思って聞いたんだ」
「あら? あなたの取り分ないじゃない?」
「銀姉……聞こえなかった? 銀姉の分ないから」
「言うわねぇ~ふふふ!! ふふふ!! いいわぁ~めっちゃかっこいい~!!」
銀姉のその高揚した表情に俺は盾を構え直す。
「行くか」
「行きましょうか」
大盾で勢いよく扉を壊し、驚いた表情の男どもに銀姉とともに殴り込むのだった。
*
早朝、私はソーマに頼んで死体を広場に晒したあと。騒ぎになるまで襲撃した場所で仮眠を取り。そのあと広場が見える位置まで移動した。私だけ屋根の上で様子を伺う。
「銀姉………見える?」
「見える。騎士も出てきた………でっ………一人だけ群れから離れるように路地に消えたの居た」
スタッ
私は屋根から降りて、ソーマと向き合う。
「行きましょうか」
「ああ。ふぁ~眠いなぁ」
「だらしないわね。仮眠取ったでしょ」
「取っても眠い」
「クスッ。寝癖ついてる」
「治す暇がないから………」
「いいんじゃない。お間抜けな感じがよりいっそう出て好きよ」
私は彼の手を掴む。
「ついてきなさい………逃げまどう獲物がまだ居るわ」
「おう……にしても。恐ろしいな……銀姉は」
「恐ろしいのは魔物よ。昔は木の森だった。今は石の森。変わってないの」
「確かに……魔物は恐ろしいな」
血がへばりついた大盾を背負った私のペットの手綱を引きながら。何件もの家を襲撃するのだった。
*
恐ろしい事が起きている。昼夜問わず襲撃され時間が立つたびに被害が大きくなっている。私は身の危険を感じ、使用人に『警備を厳重にするように』と言い渡した。
「くぅ………何が起きている……」
見えない何かに私たちは困っている。霧の中から攻撃されているようなそんな気分だ。こっちは見えていないのにあっちは見えている錯覚。広場に晒したのも恐怖を煽るためだろう。
だが、そんなのには乗らない。俺らの家、俺らの新しい枠組みを作るのだ。
「情報を集めろ!!」
「はい!!」
部下に激励を飛ばす。悲願だった目的が遠くなってしまう前に。
トントン
「ご主人さま。情報をお持ちしました」
「誰だ? 聞かない声だな………」
「新入りの騎士です」
「そうか………入れ」
扉を開けて異様な姿の騎士が見える。マクシミリアン家の紫の鎧に身を包み。大きな盾を背負っている。雇った記憶はないが…… 警備を厳重にと依頼はしている。マクシミリアン騎士なら、確かに優秀だ。
「ご主人さま。情報をお持ちしました」
「ふむ。それはなんだ?」
「賊が屋敷に現れました」
「な、なに!?」
「その賊は銀髪鬼です」
「なに!? 早く出向け!! 追い出せ!! 俺は逃げる!!」
「その、銀姉は俺の後ろに居ます」
「はーい!! こんにちは、こんばんわ!! ミル家ご当主。思い切ったことをしたねぇ。人間が『魔族』に敵うにはまだまだ先なのにねぇ」
「な、なな!?」
マクシミリアン騎士の後ろから女性が顔を出した。部下が窓から逃げようとするが板で防いでいるために出ることが出来ずに隅で縮こまる。剣士である彼が恐怖していた。
「何故!? マクシミリアン家の者と!! いいや!! そうだったな!! 『仲がいい』と言う噂は本当だろうと思っていた。商売上そういうのはある!! 所詮……騎士は騎士か!!」
「バカにされてますよ。ソーマ」
「今は好きなだけ言わせておこう。ご当主……家族は先に逃がすべきだった………」
「なっ!?」
「ソーマは優しいね……優しいけど。酷いよね」
「……」
「か、家族に何をしたああああああ!!」
「さぁ?ソーマは知ってる?」
「知らないな……」
目の前の男が大きな盾を構え迫る。
「悪魔め!! お前らは全員地獄へ落ちろ!! 何が暗殺者だ!! 何が狩人だ!! ただの人殺し集団が!!」
「ふふふ。小物だねあなた」
「銀姉。お腹すいたな」
「すいたね」
「狂ってる!? お前らは狂ってる!!」
大きな盾が頭上に迫る。ゆっくりと時間が長くなり頭の頭蓋が割れる音と一緒に………俺は意識が飛ぶのが。
*
俺らは「学園をサボりながら昼食を俺の屋敷で取ろう」と言う話になった。風呂で血糊を取り、鎧も使用人に洗うように依頼する。昔からの使用人は戦争があった過去を思い出すようで俺に対して「大きくなりましたね」と言う。
「マクシミリアン騎士は脳みそ筋肉」と言われているが、本当に戦闘狂いだったのかもしれないと染々と思う。歴史がそうなのだ。銀姉の後に風呂に入り出た後。寝間着姿の銀姉が部屋で待っていた。
「ご飯、待ってくれてたんだんだな」
「そうよ。だから、早く呼びなさい」
「まぁ~まて。マクシミリアン家の料理は合うかわからないぞ」
「和食でしょ? 大好き」
「和食? 食べる機会はあったのかい?」
「生まれ変わる前にしこたま食べたわ」
「……なんの話しか聞こう」
トントン
「ああ、入ってくれ」
「はい、若殿。お食事はどうされましょうか?」
「すまないな。いきなり帰ってきてしまって」
「いいえ、夜に『お戻りになられるだろう』と思いましたので遅いぐらいです」
「ねぇねぇ卵焼き、味噌汁、魚の焼き物出来る?」
「彼女の要望通りで出来るかい?」
「はい。用意いたします」
「やった!! やった!!」
「銀姉……えらく東方かぶれだな」
「それはマクシミリアン王国の方でしょ? 場所的に反対方向よ」
「まぁ、そうかもな……」
本当に食文化で困りそうにないのは嬉しい誤算だ。銀姉が「あれは嫌だ」と言わないよりも積極的に言うのは嬉しい。話が合う気がする。
「卵焼きはダシでお願い。ネギ入り、チーズこみこみ!!」
「畏まりました。若殿。彼女は詳しいですね」
「ああ、驚くけど逆によかった……話の彼女はこの人だよ」
「左様で……素晴らしい令嬢様です」
「だろう?」
「なんで、私がほめられてるのにソーマが嬉しそうなのよ。お腹すいたわ!! 早く早く!!」
「はい、畏まりました。腕によりをかけて作らせます」
「ああ、親父は?」
「ご当主は……広場の死体の調査です」
「ふぅ。直接出てきたか………後で頼むか。下がってくれ」
「はい」
使用人を下がらせて俺は銀姉の対面に座る。俺だけだろう彼女の目の前で唯一殺されない男は。
「これでソーマ。これでまたマクシミリアン大きくなるね」
「出る杭は打たれるのだがなぁ~」
「ソーマ。出る杭が大きいと入らないよ」
「そうだな。今回は……楽しかった」
正直に初めての共同作業が血生臭いものだったが。銀姉の戦い方を知れるいい機会でもあった。
「明日、忙しいな。銀姉だけ学園出ろよ」
「休む。疲れたわ」
「………おやつを贈ろう」
「行く」
銀姉を物で釣れるぐらいに俺は近くなった気がする。狼というのは警戒心が強いが……一度信頼関係を築けばこんなにも近くに居れるのだろうと俺は納得した。逆に家畜犬を思い出す。
「銀姉はやっぱ人狼だな」
「なんですか? そうですよ。ふふふ。首を噛み付いちゃうぞガオオオ」
「ははは。殺れるなら殺ってみろ」
「おやつなくなるから嫌だわ」
いい空間だと………俺は思いながら。話に花を咲かせるのだった。




