悪役令嬢と腹黒王子の第一歩:汝は人狼なるや? 前編
朝、僕は起き上がり背を伸ばす。下着姿で秋の終わりを感じながら身震いする。
「そろそろ。服着て寝ましょうか………ん?」
ベットから起きるとショーツの中がイゴイゴする。ふっくらと感触がして気持ちわるい。
「んん?」
ショーツを脱ぎ後ろを見るとそこには………銀色の綺麗な毛並みがある。触るとフワッとしてゴワゴワし、触られる感触が伝わる。
「…………」
鏡も見ると立派な尖った獣耳が生えていた。
「あら………先祖返りしてますね」
困った………納めようとしても収まらない。いつもは小さく、隠せているのに。今日は大きい。
「まぁ~休めばいいですね」
そんなことを暢気に考えていたとき。思い出した。毎朝、私をおこしに………ソーマドールが現れることを。あわてて閂を用意した。
*
俺は銀姉の屋敷に顔を出し寝室前の扉に立つ。無表情のショートボブヘアーメイドは首を振った。
「お嬢様が声をかけても無視をするんですが。健康がよくないようです。開けてくれません」
「ん? おーい銀姉!! 学園行くぞ!!」
「行かない!!」
「………ソーマドールさまには反応するんですね。私には無視でした」
「嬉しいなぁ~………でも。銀姉!! サボるな!!」
「嫌だああああああ!! 行きたくない!! 帰れ!!」
「開けろ!!」
「閂したから無理よ諦めなさい!!」
「扉は弁償するわ」
俺は扉から離れる。そして背中の大きな盾を構えた。
「過去、英魔族オーク族は盾で突貫し騎馬部隊よりも恐ろしい突撃を見せ、多くの敵を倒した。オーク族直伝。猪突猛進!!」
勢いよく踏み込み廊下の絨毯が抉る。摩擦で靴裏が焦げた臭いを撒き散らした。
「だっしゃああああ!!」
バキバキ!! バゴン!!
扉の閂と壁ごとぶっ壊して中に入る。
「しゃぁああああ!!」
俺は叫びベットにくるまっている銀姉を見つける。盾を置いて近寄り、布団を力任せに剥ぎ取った。
「さぁ!! 学園行くぞ!! …………えっ?」
「………」ぷるぷる
下着姿で獣耳を倒し、股間を尻尾で隠し、手で胸を隠す。銀姉狼。あまりの美しさと可愛さに呆気にとられた。人間じゃない。いや、尻尾を見てたから「もしや」と思っていたが。
「くそばかあああああああ!!」
俺は顔面に彼女の足の裏が見えて後ろに吹き飛ばされる。そして倒れて天井を見た。痛みよりも……目に焼き付いた光景に心を封じ込めながら。
*
俺らはテーブルに座り朝食を食べる。耳が生えた銀姉はたまらないほど似合っていてかわいい。
「銀姉……本当に人間じゃなかったんだね」
「………そうよ………わるい?」
「……かわいい」
「くぅ………悔しいわ。確かに鏡でみる私はかわいい」
自分で言うのか………でも。そこもかわいい。
「………種族は英魔族獣族か?」
「そうだけど、ちょっと違うわ。あれは先天的な発生の種族。私たちは後天的な種族発生で人狼よ。昔は病気みたいな物だったけど。今ではただの人間みたいな感じよ。英国内では英魔族セレファ族長獣族人狼族よ」
「滅茶苦茶長いな。まぁ、英国はあまりにも多種族で溢れてるからな。ふ~ん………尻尾触りたい」
「ダメよ!! 感じちゃう!!」
「……感じちゃう?」
「あっ………な、なんでもないわ」
俺は口を押さえながら我慢する。「襲いたい襲いたい」と男の本能が叫ぶ。「獣はどっちだ」と俺は自制しながら苦笑いを浮かべた。
「失笑するなんて。ひどい人」
「まぁまぁ~いいじゃないか。俺もサボって一緒に居るよ」
「か・え・れ!! か・え・れ!!」
「殺すか。生かすか選べ」
「物騒ね………ん?」
銀姉が黙り、耳をピンっと伸ばした状態で顔を窓に向ける。俺はその真面目な横顔に見とれると同時に盾を掴み立ち上がる。銀姉の真面目な雰囲気で背筋が冷えたからだ。殺気を感じた。
ガッシャーン!!
窓から二つの人間の頭以上に大きいガラスのボールが入れ込まれる。
「なにあれ!?」
「ソーマ!! ガードして!!」
ガダンッ!!
銀姉はテーブルを倒して盾にし俺は咄嗟に銀姉の横へ行って盾を構えた。
バガアアアアアアン!! ガガガガ!!
大きい破裂音と同時に鉄針が部屋中に撒き散らされた。次に煙が立ち部屋に満ちる。
「毒じゃない。煙幕よ」
銀姉がテーブルの裏に用意されている。棒手裏剣とナイフを装備し俺は舌を巻く。こんな所に武器、準備の良さに感謝する。
「何が起きたんだ?」
「恨まれること多くてわかんない。だけど……抗争の匂いだわ。ふふふ」
「なるほど」
俺は理解した。「煙幕に紛れて入ってくるな」と。襲撃だ。
「煙幕での精神攻撃……ふふ。楽しいから歌を歌います。デンデデッデデレデンデデッデデレデンデデッデデレデンデデッデデレ ヘエーエ エーエエエー エーエエー ウーウォーオオオォー ララララ ラァーアーアーアー」
「!?!?!?」
唐突に熱唱しだす隣の狂った令嬢の銀姉にビックリしながら煙幕が晴れるのを待つ。一応物音はして何か探しているのはわかった。なお、位置はバレてこっちに向いている気配はしている。それに向けてか銀姉が棒手裏剣を何本も投げた。
「ぐわっ!?」
「殺られた!? あが!!」
2分ちょっと銀姉が歌い終わりと同時に視界が鮮明になった瞬間、二人の男が目を押さえて血を流していた。目と足に刺さっている。鎧は着ていない所を見ると………盗賊ぽい。
ブオォン!!
視界が良くなった瞬間に俺は近付き。大きい盾を横から凪ぎ払う。二人いっぺんに巻き込まれて壁に叩きつけた。「げふっ」と音を立て倒れそれにすかさず銀姉はナイフで首を刈り、無力化した。
「身動きが取れやすいのも考えものね。軽装じゃぁーあの攻撃受けれないわ」
「鎧でも貫通させるくせに」
「同じ事を言うわ。着てても打撃で叩き潰す癖に」
「鎧いらんな」
「いらないわね」
俺たちは遺体の身ぐるみを剥ぐ。なにか情報をと捜し、メモらしき羊皮紙を見つけ……それを広げた。
「2流ね。証拠を残すなんて」
「普通に殺せる自信があったんだろう。あの玉は知らないと死ぬ」
「まぁそうよね。魔力で爆発させて杭を撃ち込み弱体化させる武器よ。死にはしないけど戦力を落とすわ。なお、暗殺向きじゃないし英魔族には効かない」
「おっそろしいな英国民」
メモらしき羊皮紙を俺たちは確認した。内容は銀姉の抹殺依頼と同時襲撃時刻だった。
「早朝から仕掛けるなんて………やるわね」
「夜じゃないのか普通は」
「そこよ………裏をかけるわ。でも残念。耳と嗅覚がいいからバレちゃうの」
「ふーん。人狼って便利だな」
「便利になっただけよ。本当に人狼だったときは大変だったって聞くわよ。人を喰う化物で理性が消えるから」
「……まぁそれは詳しくいつか聞くとして。どうする?」
「そうね。隠れ家にでも行きましょうか?」
ドタドタ!!
「お嬢様無事ですか!!」
「ええ、無事ですよ」
血塗れの槍をもってメイドが走ってきた。白いメイド服は所々赤く染まっている。
「みんなは無事ですか?」
「はい。数人は怪我をしましたが大丈夫です。あと、屋敷にいた族は全て殺しました。掃除が大変です」
「優秀ね。隠れ家に行くわ。きっと他も襲撃されているでしょう。夜まで逃げます」
「はい。屋敷はお任せを」
「ええ……じゃぁいくわ」
窓に移動し降りようとする銀姉に俺は掴む。
「俺ん家に行こうぜ。その前に調べものもあるだろ?」
「あら? 誘ってくださるの?」
「ああ、俺も血に飢えてるようだ」
「………他言無用なら付き合わせてあげる」
「ありがとう」
先に俺は窓から降りて銀姉を姫様だっこで受け止めて下ろす。
「抗争参加は死ぬかもよ?」
「死ぬならそれまでだ。鈍っていた所だしちょうどいいよ」
「性格変わったわねぇ~」
「そうかな?」
俺はとぼけて空を見る。雲ひとつない空で思うのだ。今日がちょうど満月だったことを。




