悪役令嬢の第十七歩: 銀姉のトラウマ
時期も秋深め、冬に差し掛かる頃にその日が来た。農業者などの恵みを感謝する祭。王国では………夏にしかないが。マクシミリアンの祖国はきっと今日、カボチャをかぶって「お菓子をくれないとイタズラするぞ」と言っているだろう。マクシミリアンは農業国面が強いため、そういう文化が多い。
「豊穣感謝祭か………」
「あら? ホームシック?」
「いや。昔によくお菓子を……せびったなって」
午後のカフェテラスで俺らはいつものように対面で座る。闘技場で軽い運動したあとのコーヒーは美味しい。
「………今日のおやつは?」
「クッキー焼いてるよ。どうぞ」
「ふふ。イタズラしなくて済みそうね」
「イタズラしたいですか? なら、あげません」
「あっ……したくないからちょうだい~」
本当に最近は可愛い銀姉。クッキーは作り置きしており、いつもあげている。
食べる女の子はいつだって可愛い。それを俺は感じ取っていた。
「……ふぅ………ねぇ。ソーマ………今夜………いいえ。なんでもない」
「なんだよ。銀姉歯切れがわるい」
「なんでもないわ」
「夜のお誘い」とは違うか。少し銀姉の手が震えている。その違いは毎日一緒にいるからこそ感じ取れた。
銀姉が怖がっている。異様な光景に背筋が冷える。銀姉が恐れる物に得体の知れない恐怖が胸に落ちた。敵は化物だろう。
「………最近、私。婚約の話があるらしいわ」
話を変えてきた銀姉。真面目な表情で彼女は人差し指の第2間接をくわえた。指輪を壊したい仕草である。安心し胸を撫で下ろす。
「婚約者? 誰?」
もちろん俺だが知らないだろう。少し誇りたい。
「知らないわ。でも、どうせ………つまらない男よ」
「そっか……嫌か?」
「いいえ、どうでもいい。でも学園卒業後がいいわ。面倒だし。やっぱ嫌と言えば嫌かしら? 断ろうと思うわね」
「そっか婚約はしてないか。じゃぁ聞きたいんだけど」
「なにかしら?」
俺はカマをかける。
「俺が婚約者に立候補したら………銀姉はどうする?」
真っ直ぐ笑みを向けて俺は言い放った。銀姉は沈黙後に言葉を口にする。
「断るわ。今の関係でいいのよ」
「……今の関係とは具体的に?」
「友達よ。恋愛小説すきの集まりね」
「……いいですね。友達」
俺は嬉しくなって頷いた。友達以下ではないようだ。ならば、それを超えて妻にする。やる気が胸の中で燻る。舌舐めずりを我慢するほどに燻る。
「………ねぇ。なんでそんな変な質問を?」
「銀姉に合う男が思い付かない」
「この国には居ないってことよ。魔国なら……違ってくるでしょうね。あっちでは私は雑魚だから」
「そうだろうな」
本当に嬉しい。銀姉から歩みよる男がいなくて本当に。そして……俺は調べよう思うのだった。今日、銀姉が震えている理由を。
*
今夜である。田舎では豊穣祭の日。私は寝室の扉に閂をつけた。内側から封鎖し。窓も鉄板でボルト締めをし。布団に丸まって縮こまる。
「……1年で一番キライ。朝早く来ないかな………」
私は震える。この日だけ何故か幽霊が出るのだ。それがどうしてもたまらないほどに怖く。泣いてしまうほどだ。死より怖い。そう、染み込まされている。思い出すのは夜が怖かった日々。今は明るいが、故郷である都市は非常に生臭い血の黒が似合う死都だった。
スペクターと言う悪霊の魔物が飛び回るやばい都市である。
「……恥ずかしがらずソーマドール雇えばよかった」
一緒に寝ることはなくても近くにいるだけで安心できそうだ。
「………あああああ!! なんであんなやつが近くにいると『安心できそうだ』なんて思うのよ私は!!」
私は一応女だけど………関係ないか。
「くぅ……避けようかな彼。でも……この前の料理美味しそうに食べて………ああああもう」
私は自問自答を繰り返し悩んだ。これじゃ……本当に恋をしてるみたいじゃない。
ブルッ!!
「うっ………そんな。行ったのに」
私は股を締めてモゾモゾする。尿意が込み上げてしまい。「ううぅ」とうねりながらも我慢したが。さすがにこの歳で漏らすのは嫌だと思い。閂を抜いて廊下に出た。
「なんでおトイレ遠いの………」
水洗式ですごく嬉しいが配管管理のため屋敷の端に作られている。ああ~どうしよう。
「うう、怖い………」
幽霊にビクビクしながら廊下を歩く。昼間は近いはずのトイレが遠い。使用人もこの日は何故か屋敷から逃げるので……誰もいない。恨みの幽霊が来るのだろう。
ギシィイ!!
「ひゃう!?………家鳴り、怖い!! めっちゃ怖い!! 今日だけは怖い!!」
私は日頃とうって変わってびびりながらトイレ到着に慌てて入り、スカートをあげて………ようを足した。
「ん………ふぅ………男なら窓から…………窓から私もすればよかったかも………」
羞恥より怖さが勝った。漏らす羞恥には勝てなかったが。
「よ、よしかえろう………」
廊下の来た道を帰ろうとトイレから出た瞬間。
「ひぃう!?」
声にならない悲鳴をあげてしまった。ズルズルとドアを背に預け足に力が無くなる。目の前に白い顔で白い髪の黒い服を着た銀髪鬼の幽霊が現れた。いつもいつもこの日………体の奥底から恐怖が沸き上がり。
「…………」
声がでなくなる。目の前の白い顔が首を傾げてケケケケと笑い。ゆっくりと白い肌の手が私に伸びる。やっと声が出る。
「ひぃ!? や………近づかないで!! 銀髪鬼!! やぁああああ!!」
手をパタパタと振り回す。泣きそうなのを我慢しない
。涙が溢れてしまう。心で怖がっている。どうしてもいつだってこれには敵わない。
「い、いや………ソーマ!!」
私は何故か………彼の名前を口に出した。
バッゴオオオオン!!
「銀姉!! 無事か!!」
「え、え?」
「驚いてるな。話は後だ」
ジャキ!!
大きな盾を構えて幽霊を吹き飛ばしたソーマドールが私の前に立っていた。幽霊はユラリとして奥の廊下へ消えていく。
「銀姉……震えていたからこっそり入り込んでいたが………なんだあれ?………って銀姉!?」
私は目の前の大きい背中にくっつく。涙を拭うように彼の背中に吸い付く。
「怖かった…………あう………」
「…………寝室へ行こう」
「うん」
私は素直に従い。廊下を彼について歩き寝室に入り。閂をした。
「閂するのかよ」
「……怖いから」
「…………泣く子も黙る銀姉がね~」
「……………」
「……帰るがいいか?閂開けるぞ」
ギュ
「!?」
「……今夜だけ………いて」
私は………彼の服を少しつまんでお願いしたのだった。恐怖は羞恥を負かしたのだった。
*
俺は銀姉が眠ったのを確認し閂を外して隣の部屋に入る。
「やぁ~ソーマくん。いい一撃だった」
中では白い仮面、カツラを外した銀姉の父上が満面の笑みで椅子に座っていた。俺は頭を下げた。
「いや!! いいよ!!………君が凄く慕われているのが見えたからね」
「賭けに勝った感じですね」
俺は今。走り回りたい気分だったが我慢する。銀姉が寝ているし静かにガッツポーズを取った。
「惚れさせるか………中々いいじゃないか。3年以内所じゃない。1年未満だ」
「ええ。驚きました。銀姉がビビる姿が見れると聞いてついてきて正解でした」
「俺がビビった。あいつがあんな必死にお前を求めるとはな………」
俺は最初。この家に伝わる死よりも怖い物を作る行事に興味があり参加したが予想外だった。
「小さい頃からボコボコにして。トラウマを植え付け。死よりも怖い事で死を恐れなくさせる。夜は危ない事を教える。都市インバスの我々の風習だが。面白いのが見れたな~ははは」
「飯に下剤混ぜて正解だったですね」
「ああ!!」
俺と義父上は笑顔で語り合う。可愛い可愛い女の子の話で盛り上がったのだった。
*
「……んっ……あれ? 朝? ソーマ?」
「………すぅ……すぅ……」
「………ああ。ずっと一緒に居てくれたんだ……」
「………かわいい……銀姉」
「はぁ………なんとまた醜態を晒してしまった」
「銀姉………かわいいよ……かわいい」
「ばっか恥ずかしい事を言って……………でも。ありがとう………ソーマ。少しだけ……少しだけだぞ…………格好良かった」
「すぅ……すぅ……」
「…………はぁ。最近は私は変だな」




