悪役王子の第七歩:努力をする悪役王子
午後の自由時間。いつものように人気のいない場所ではなく人気の多いカフェテラスにシャーリーとソーマドールは面と向かいあって紅茶とコーヒーを嗜んでいた。 シャーリーは驚く。そんなものがあるなんてと。
「ソーマ、なに飲んでいるの?」
シャーリーは知らない訳ではないが一応聞いてみることにした。
「珍しい飲み物でコーヒーと言います。豆を燻し、砕き、高価だか紙で包み、ゆっくりお湯で煮出す方法が楽で美味しい。サイフォン式には劣るがな」
「なんで今まで飲んでなかったんですか?」
「金額的な問題さ。今は凄く金回りがいい」
コーヒーをそのまま飲み、ため息を吐くソーマドール。それをシャーリーは肘をついて眺めていた。コーヒーの懐かしい匂いに手が延び、カップを奪う。
「ちょっと飲ませなさい」
生前、昔はブラックで飲んでいた事をシャーリーは思い出し匂いを楽しんだ後に口に含む。
「うっ……ぐぅ」
シャーリーはスッと飲み込み口を押さえる。その姿をみたソーマドールも口を押さえてにやけるのを隠す。心で可愛いことを賛美しながら。
「に、にがい…………」
「そうか。銀姉には苦いか。これがうまいんだけど人を選ぶね」
「み、ミルク……欲しい」
「あるけど。それは俺のコーヒーだ」
ソーマドールは顔を逸らした。心では可愛すぎる。あの泣く子も黙る銀姉がミルクがないとコーヒー飲めないなんてと可愛いと悶える。
「ごめん………返す」
「ああ………ん………」
シャーリーは口直しに紅茶を飲んでいた。ソーマドールは気が付いた。
「………ん? どうしましたソーマ。固まって?」
「………」
「どうしましたの?」
ソーマドールは気が付いた。間接的にあれな感じになることを。
「間接キスになるかなと」
「飲み口違うわよ」
「………」
彼は苦悩する。飲み口を変えるか変えないか。
「銀姉は女の子だ。そういうのはよくない」
「ソーマ~恥ずかしがって意識してる~やっぱ男の子だねぇ~えぇ~」
「ああ、男の子だ。だから………」
クルッ
飲み口を変えてシャーリーの飲んだ口に触れた。ソーマドールは恥ずかしいよりも。シャーリーがどういった反応するか気になったのだ。シャーリーは唇を両手で押さえて驚いた表情になる。
「……少し苦味が薄くなって甘いかな」
「…………」
「……やらないと思った? 残念、その顔が見たかった」
「くぅ………ヘタレるかと思ったのに」
「それは昔の俺。今はやると言ったらやる」
「なんで!! 私が恥ずかしくなるのよ!! くっそ!!」
「時間差で恥ずかしくなるのか? 驚いたな」
「その澄ました顔、殴りたい」
「やってみろ。おやつはないぞ」
「おやつ!? なになに!?」
ソーマドールはカフェテラスのメイドにお願いする。例の物をと。メイドは頷き、皿に添えて持ってきた物は芋のお菓子である。
「えっ!? これって!? スィートポテト!?」
「ああ。コーヒーの口直しにどうぞ。銀姉」
こんがり黄金色に焼かれた品。ほんのり焦げ目がつきシャーリーの目が輝く。ソーマドールはやはり乙女だなと用意して良かったと思ったのだった。
「マクシミリアン第2王国の親族である女王陛下の仕送りだよ。今年もいい芋が取れたらしいからね。横流し品だ」
「うわぁ~いただきます」
「どうぞ~」
「………ぱく………ンンンンンン~芋の風味に薫るバニラが凄く美味しいです!! シットリして舌に優しく絡む~」
「良かった良かった」
シャーリーは数を気にせずぱくぱくと頬張る。遠慮せずに。ソーマドールはそれを注意せず。コーヒーを飲みながらシャーリーの笑顔で甘く感じるコーヒーを飲み干した。
「懐かしい……本当に懐かしい味………」
「ここまで感激してくれるなんて作ったかいがあるよ」
「作ったかい………えっ? ソーマドールが作ったの?」
「もちろん。デザート用にシェフを雇うなんて大金かかるからしない。自分で作ったのをいつも用意しているよ」
「………まさかクッキーも?」
「もちろん」
シャーリーは微妙な顔をする。ソーマドールはクククと低く笑った。
「男が料理するなんてと思うかい?」
「い、いえ………素晴らしい料理長は男性しか居ませんから男の方が繊細な舌をお持ちなんでしょう」
「……本当にそう思うかい? 俺は女性を喜ばせる術として。『持っているのでは?』と思う。現に銀姉は笑顔だった」
「…………は、恥ずかしい事を言わないで!!」
「本心の言葉さ。まぁ実際は月経などで舌が変わり、安定させた旨さは難しいとも聞く」
「あっそ、夢がないことを」
シャーリーは恥ずかしい事になれていないのか天を仰ぎ。ソーマドールは人形に対していつも練習しているのが役に立った事を感じた。「恋愛小説の男どもは何故こうも恥ずかしい台詞を……」と思い。「言ってみると良いものだ」とソーマドールは感じ取った。もっと鍛えようと。
「まぁ………一番は。もう一度銀姉の料理を食べたいからなんだけどね」
「食べたい?」
「夏に食べたが……もう一度ね。俺が作ったお返しにどうかな?」
「夏に鍛えたのはチャラよね……………わかった。休日来なさい」
シャーリーは「つくづくソーマには甘いわね」と心で思いつつも。いつも用意してくれているので恩は感じて誘うのだった。もちろんそんなことは一切言わない。調子こいたらムカつくからである。しかし………それも知っているのがソーマである。
「ああ………案外甘いんだな銀姉は」
「!?」
銀姉はソーマドールの顔を覗く。「心を読まれたか?」とおもったからだ。ナイフもテーブルの下で構える。「心を読むのは危ない」と知っての行動だった。
「銀姉……凄くうれしい。休日が楽しみだ」
「………」
シャーリーはソーマドールの笑顔にナイフを仕舞う。「なんと言うか………ズルい」とシャーリーは心で毒づいた。ソーマドールの綺麗な黒髪に優男のイケメンの笑みはシャーリーを黙らせることに成功し、許してしまう。
「……ソーマドール。変わったわね本当に」
「君のお陰でね。人生は楽しい」
「その、幸せ分けてよ。最近監視で鬱憤たまってるの」
「模擬戦闘でもするか?」
「いいわね。でも、誰かを殺りたいわ」
「殺らせないがな。休日、朝からいく」
「早い」
「遅い方だ、今から行くより遅いだろ?」
「どんだけ………楽しみなのよ……ばっかじゃない。良いもの出ないわよ」
「銀姉のならなんでも食う」
「いったわね!! 毒をし込んでやる!!」
「それで死ぬなら本望。それと銀姉………」
「なによ」
「入れる入れる言って入れないだろう?」
「…………堅気に手を出さないの」
「この前は敵と言っていた」
「ああああああああ!! もう!! 足下掬いやがって糞やろう!!」
その後にシャーリーは口を閉ざした。沈黙がカフェテラスに舞い降りる。周りの令嬢と貴族がこの二人を息を潜めて眺めていた。黙っていれば絵になる二人だけの空間に少し……外野の皆の心がひとつになる。
(((シャーリーさん………ソーマドールが近くに居ると大人しい。流石ソーマドールさん)))
ソーマドールの株が上がったのだった。
*
私は夜中のベットで今日の事を思い出していた。ソーマドールの嬉しそうに休日を楽しみにしている顔が離れない。
「くぅ………流石は学園内のイケメンの四天王。火力が違うわ」
それに………
「ソーマドールの作ったお菓子………美味しかった」
恐ろしい程に懐かしいお菓子が出てきて。嬉しかった。生前であったものが出されると思い出すのだ。美味しかった記憶が。その時の淡い記憶が。
「………私のためにね………」
私は最近、本当にソーマドールに甘い気がする。罵声も少なくなり。気付けば普通に会話する仲だ。殺そうとしたって隙はなく。負けるだろう。
「…………」
今のソーマドールならゲームでは何処まで人気キャラになれるだろうか。セシリーも手に入れたいワケだと理解する。
学園随一の男になった気がする。ノブリスよりも。大人で。
「ああああああああああ。なんであいつの事ばかり考えるのよ!! くっそムカつく!!」
私は枕を壁に投げつけるのだった。




