悪役令嬢の第十五歩:新たな令嬢(こいついる?)
昨日の今日。午後のお茶会でソーマドールだけが現れた。話を聞くとシンシアさんはノブリスと一緒らしい。「昨日の庇った事でヨリが戻ったようなそんな感じなのだろうか?」と思う。恋愛は複雑だ。また、それがいいのだけど。
「昨日の戦いは素晴らしかったよソーマ。でもいいの? 勝ったのに試合に負けたような感じよ」
「別に義務は果たしただけ。シンシアさんはノブリスに好意があるし、俺はそれを応援している」
「………好きでは無かったの?」
私は少し首を傾げる。「奪う」と言っていたのにこんな結果は少し矛盾しているような気がする。
「いいえ」
「じゃ……どうして」
「どうしてでしょうね?」
ソーマドールが問いを投げて返してくる。これに私は「わからないのだから聞いたのに」と考え睨む。
「わからないから聞いたのよ」
「……見えないもんなんですね。いいや……自分は対象外としか見てないのか……」
「何よ!! わかるように言いなさい!!」
「情報持ってないのですか?」
「なんの?」
「シンシアさんとノブリスが婚約予定なのを。両家の挨拶は済んでますよ」
「………ほぉ~初耳」
「おかしいですね。知ってそうなのに」
「私だって調べないとわからないわ。気にしてなかったし」
「そうですか」
婚約予定なら、手を引くのも頷ける。でも……「好きでもない」と言うとなんとも、行動原理がわからない。
「好きな人がいると言ってたじゃない………シンシアさんじゃ無ければ他にいるの?」
「……います。そういえば婚約予定者一人も居ないんですよ。ただ予定はあります」
「婚約するの? 誰よ?」
「まだ、しません。そのときになってから。ですが崔は投げた」
「誰よ~教えてよ~」
「………黙秘」
「チッ!!」
私は「新しい私の獲物になるのでは?」と思っていたが、彼は私をわかっているのか教えてくれない。
「銀姉……逆に聞きます。銀姉こそ好きな人はいないのですか?」
「いるわけないわ……」
「そうか。よかった。もし『居る』と話すなら……話さないと等価じゃない………いや………おやつ代、本代」
「いやぁ~助かってるわぁ~」
私は実はソーマドールに頭が上がらないのではないだろうか。おこつがい恵んでいるのは彼である。
「助かってるなら。好きな人ぐらい教えてくれよ」
「いないわよ!!」
「恋愛感情は?」
「ないわ……うーん『ない』と思うわ。肉よ……所詮」
私は腕を組んでウンウン言う。死体と一緒ではないが興味がない気がする。それにまだ、生前の記憶が尾を引く。
「恋愛感情無くして恋愛小説読めますか?」
「…………読めてるじゃない」
「わかりました。銀姉さん明日からちょっと忙しいのでここに来れません」
「そう……何があるのかしら?」
「お仕事です。ええ、お仕事」
なんのお仕事だろうか。まぁ……私には関係ない。それよりも口調が変わった事が気になる。
「最近、口調変わったね。男が見える」
「心境の変化かな? 短い期間で考えが纏まった。変わっていくのは『普通だ』と思う」
「ふーん。普通ね……」
紅茶を口にして悩む。「本当になんなのだろうか」と。ずっと笑顔のソーマだが、目だけは笑っていない。まるで獣の目をしている。結論が出ぬまま、次の日からソーマと触れる機会が大幅に減るのだった。
*
数日が経った。短眼鏡で物影からシンシアとノブリスの仲睦まじいのを眺める日々が続く。ちょっかいを出さずともシンシアは積極的にノブリスに絡んで笑顔を振り撒いていたし、私以外の令嬢の攻勢も堂々と追い返していた。強くなったと染々思う。
私の出る幕でもなく。美味しい日々が続いていた。しかし………なにか違和感がある。
「ソーマ!! みてくださ……………」
短眼鏡でシンシアがソーマのせいで右手を負傷したノブリスにアーンをする行為。いつみても甘い行為。ノブリスも顔が赤い状態で照れていた。それを……私は誰もいない隣に声をかけてこの甘さを共有しようとする。
「………」
誰もいないのに。
「はぁ……ソーマどうしたんでしょうね?」
「少しだけ……少しだけ。寂しいのかもしれない」と頬に手を添える。
「………はっ!?」
僕は頭を振って考えを消し去る。
「……これじゃぁ……恋い焦がれて待っている乙女じゃないですか……はぁ……そうじゃないんですけど」
「唐突に居なくなるのも困りもんですね」と私は目を閉じて頷く。まぁ……一人でいいんです別に。別に。
「すいません……シャーリー・クドルシュチルさんですね」
「んっ?」
一人の女性に声をかけられた。長い緑色のエルフぽい女性に僕は彼女が一瞬で帝国側の人間ではなく英魔族だと知った。
*
場所を移し人気のない自分だけの居場所に案内をする。いつもなら先にソーマは来ているが最近は全く来ていない。学園には居るらしいが「時間が不定期」と言う。何をしているのか。
「どうぞ。紅茶は準備してなくてすいません」
「お気になさらず」
彼女の名前はメアリー・デビルローズと言うらしい。エルフと思っていたが魔族の悪魔族と人間のハーフらしい。悪魔と言っても姿形も人間と変わらない。身分的には難しく魔族の中の人族。私たちと同じ人外種族だが少し違うのだ。英魔族の種族分布は難しく思う。現に私たちも色んな種族の血が混じっているために純血は居ないのだろう。だから……今の世は血より家を大事にする。
「何の用かしら? 私に……」
「ちょっと交渉をですね。あなた………転生者ですか?」
「……転生者?」
「過去何処か知らない遠い土地の知識を持ち得た人をそう呼んでいます」
「………」
「あなたの行動はすごく変です。ゲームキャラらしくない」
「………あのぉ……」
私は頭を押さえながら彼女に言い渡す。
「精神異常の兆候が見られます。やぶ医者ですが精神科医を紹介しましょうか? 祖国に帰って医者に見て貰え」
「精神異常じゃないわよ!!」
「精神異常でしょう。変なこと言わないでください。『不思議な事ばかり言ってます』と頭が痛い子ですよ。『昔に私もそうかなぁー』と思いましたがそれはただの思春期から来る妄想と予言のような空想です」
「あなたにだけ言われたくないわ!!」
「失礼ね~」
「失礼は貴女でしょう!! 話を聞け!!」
「はいはい~」
本当に私と変わらない。歪んでそう。
「聞いてあげるわ。明日には忘れてるでしょうけど」
「くっ………流石悪役令嬢。イラつくわ」
「あら? 褒めるのお上手ね? 照れるわ~」
「くぅううううう!! はぁ………気のせいかしら?」
「何が?」
「『転生者じゃないのかな』と思いまして」
「……無駄知識なら有してますよ。シンシアさんとノブリスさんがくっつく……ぐらいは」
「あの………名を忘れた初代の正史ですね」
「正史?」
乙女ゲームでは色んなルートがあってそれが公式に「これが正しい」と言われたルートだ。続編を書くときに使われるもの。なお、色んな人に議論をさせる劇薬でもあった。
「やっぱり……転生者じゃない。私と同じね。シンシアさんは違ってましたけど。あなたはそうでした」
「ふーん。どうでもいい」
「変わってますね。ヒロインじゃないから自棄ですか? 次回作では何故か人気があったにも関わらずに学園卒後。姿形も無く変死してましたしね」
「ふーん。別に今さら死んでもねぇ~」
「変死なら。影武者だろう」と私は思う。「暗躍している」と言うことだ。
「達観してますね?」
「満足してるだけよ~でっあなたの目的は?」
「ふふ、目的はもちろん!! こっちの学園で王子さまを探すためですわ!! わざわざ、無理言って人間の親にお願いして通ってるんです」
「王子さま?」
「実は~私もずっとずっと憧れてたんです!! ヒロインに!! 夏の時期に入る前に思い出したのです!! ゲームのヒロインになっていることを!!」
「ふーん」
「……本当に興味ないのですね」
「だって……関係ないでしょ?」
「いえいえ!! 関係ないわけがない!! だって、私に対して嫌がらせをするキャラですもの‼」
「おっと………私は次回作でも悪役令嬢かしら?」
「そうです。賛否両論の多い作品でしたが。正史の裏側として。シンシアさんに振られた人を攻略するゲームでした!! 2番煎じですが憧れのヒロイン!! いつも書いては叩かれてましたが!! 夢をつかんだのです!!」
書いては叩かれて………もしや。
「作家?」
「本当にあなたは転生者なんですね。そうです!! 妄想の捌け口でいっぱい書いてはエタってました」
「死ねば。いや……殺す」
ナイフを構える。「殺りたい」と魂が叫ぶ。
「何でですか!?」
「エタるなら消せ………私は何度………裏切られた事か!!」
「毒者でしたか………」
「あん? 毒者? エタるお前が悪いんだろうがあああ!! 一作でも完結しろよ!! いやしてよ!!」
何故か記憶が蘇り。殺意が湧く。
「まぁ……まぁ……落ち着いてください。『哀れな女の戯れ事』と思っていてください」
「死ねば静かになるわよ。堅気に手を出すのは嫌だけど。喧嘩は買うから。いいや押し売る」
「おかしいなぁ~おかしいなぁ~ゲームだとこんなに狂った人じゃなかったのに~」
飄々としてイライラさせるがナイフを収め睨み付けるだけにする。
「普通の悪役令嬢でしたわね。まぁいいです。死に方選ばしてあげます。おすすめは強酸風呂です」
「やめてください!! 怖いことを………でっ……話なのですが~」
僕はテーブル下でナイフを構えた状態で睨みつけたまま話を聞く。
「シンシアさんに振られたと思われるソーマドールさんに会いに来ました。一応、ルート的には決闘後編入した私と恋をする設定なんですよ。貴女が悪役令嬢として苛めて助ける感じです」
「ワンパターンな」
「悪役令嬢はかませですから。そこまで毒者は気にしません」
「そうね。気にしませんね………苛めてねぇ………」
なんと言うか、この令嬢は苛めても面白そうじゃない。ソーマドールの好きな人ってこんなやつなのだろうか、もしかして。
「まぁ、あなたも変な趣味ね。ソーマドールの何処がいいのかしら?」
「ソーマドールさんは無口で静かな人です。黒髪のイケメンでツンツンしてるんですが口を開けば『愛してる』や。こう……深い愛を感じれる行動をする人で~私だけにしっかり喋ってくれるんですよね」
「ふーん」
全く静かじゃない気がする。
「そんで~夜は優しくして………ふふ。ゲームでも押しメンなんです。彼で小説書いたほどに。婚約破棄して現れる王子さま役でね~」
「うわぁ………うわぁ……」
「な、なんですか?」
「なんか……痛い……」
私はドン引きしながら語るこの人に何か悪寒が走る。なんか聞いてはならない闇を感じる。そう遅れたなにか、行き遅れたなにかの負を感じる。
「いいじゃないですか‼ あなただってあったでしょう!! 妄想とか!!」
「読者だから。見るのが好きで………自分をヒロインに立ててまではちょっと。人生を楽しんでなかった訳じゃなかったような……気がする」
「リア充め……私はチャンスなんです!! あんな惨めな人生やめてこっちへ現実逃避したい願望が叶ったのです!! しかも!! 大好きなキャラを攻略する事が出来るんです。幸せですよ!! 私よりもっと痛い人が多い業界だったでしょう!!」
「あっ……うん」
なんかすごく残念な人が転生してしまったようだ。ソーマドールもこんなやつに絡まれてかわいそう。
「が、頑張ってね。私は応援はしないけど関わらず。ひっそりと避けるから」
「待ってください!? 同じ転生者ですよ? どうして邪見にするんですか?」
「いや……その……臭いでね。こう、人生なめてそうだから。苦手だわ……あなた。英魔族領内でも金持ちのお嬢様なんでしょ……勝ち組よ」
「流石、悪役令嬢。酷いですわね」
なんだろう。「可愛い」と思えないのは辛い。初対面にこれはキツい。もっと淑女っぽく。大人しく。はい、私も淑女ぽくなかったね。鏡みて叩き割らないといけない。
「まぁ、いいですわ。なのでお願いします。ソーマドールさんと……くっつく手伝いをお願いします」
「わかったわよ……それよりも聞いていいかしら?」
「なんですか?」
「前世は女の子?」
「もちろんですけど……なにか?」
「前世………本当に? もしかしてと思っただけです。ふーん。『女の子っていう年じゃない』と思った」
「うぐっ」
私はなんとも同志を見つけることは出来たが「他人の振りをしよう」と思ったのだった。




