悪役王子の第三歩: 意味もない決闘
俺は今日もシンシアと一緒に銀姉の元へ向かい。いつものように彼女と対峙した。シンシアも何を言われても気にせずに接する行為は効果を上げ、ついに銀姉が折れる。無駄だとわかった瞬間に手に平を回し、接し方が180°変わった。
「銀姉さま。拐われた理由は何だったのでしょう?」
「バカね。もう、大体予想はついてたから確定したわ。ソーマわかるでしょ?」
「いいえ、わかりません」
全く予想は出来ない訳じゃないが予想はしているが確定じゃない。しかし、「わからない」と言う。
「仕方ないわね。説明してあげるわ」
「彼女の声をもっと聞きたい。彼女の声をもっともっと聞きたい」と願うために。簡単に嘘を吐けるようになった。
「さすがお姉さま。さすおね」
「ちょっとそれは馬鹿にしてるのかしら?」
「ごめんなさ~い」
「はぁ……いいわ。説明してあげる。ソーマも愚かだしね」
「すいませんね~愚かで」
愚かでいい。愚かで、もっと俺を下に見ろ銀姉。傲りが隙を生む筈だ。
「一番、この事件で儲かったのは誰でしょうね。金の流れはどうなったでしょうか?」
「…………?」
「金の流れ?」
予想通り。金の流れを見ていたらしい。
「父上に聞いたわ。騎士団………お金稼いでるそうじゃない」
「護衛費、警備費の増額。事による騎士の地位向上」
「えっ? ソーマドールさまわかってるのですか?」
「予想だけ。しかし………確かに増額している」
「そう。危険意識から……生まれた恐怖はお金になるの。我が家もそうやって稼いでる」
「脅し」
「そう、脅し。私の家は直接。騎士団は関節。『俺らが護らないと事故は起きる』てね。家に依頼があったそうよ。令嬢の暗殺ね。私も声をかけられ令嬢の情報を流してる」
「やるの?」
「『やれ』と言われれば」
「お、お姉さま」
シンシアが怯えた表情をする。しかし、目を閉じて目を開いたときその表情は消えた。
「……あら? シンシア? 怖くないの?」
「怖いです。本当は………でも!!」
「でも?」
「私がお姉さまを止めても。そういうことは行われるでしょうし……力を持ち合わせてません。そして、弱い女の子のままなんて嫌です。勉強してます」
「へぇ~」
俺は「さすが令嬢なんだな」と思った。受け入れる大きい器がある。彼女の答えは知っていても受け入れるつもりなのだ。可愛い小さい体でも令嬢は令嬢なのだ。クローディア家は地方田舎と言いながら「大領地の豪族だからこそ」と言えよう。
だからこそ。シンシアさんは実は優良物件だったりもする。可愛い。だが俺は荒い女の方が好みだ。
「ふ~ん。少し大人になったようね………」
「まだまだ必要悪を学んだだけで………お姉さま。ソーマドールさんに比べてまだ子供です」
「体の事かしら? 年齢偽装はダメよ」
「…………お姉さま」
シンシアの目の中の輝きが消える。これは……皮肉の言葉の効果が抜群に効いたらしい。銀姉はこれでもかと胸を見せつけ笑みを向ける。
「シンシアちゃ~ん? お胸さんはどこにあるの?」
「お、おねえさまが大きいだけで!! しっかり………ふ、膨らみはあります!!」
「銀姉大きいからなぁ~揉んでわかったけど感触も………」
「ソーマドールさん!? え、ソーマドールさん!?」
真っ赤になるシンシアに俺は笑みを向ける。
「お、大人です」
「あぅ……」
「ソーマ? 死にたい?」
「約束果たせないですよ?」
シンシアを庇うように俺は銀姉をセクハラをする。睨み付けられるが肩をすくみ飄々とした態度をとった。つくづく面の皮が厚くなった気がする。そんなことを思いつつ午後の時間に……一人の王子が顔を出した。剣を帯剣しており、護衛としての立ち振舞いだ。
「あっ!! ノブリスさま!!」
「ああ、シンシア……元気そうですね」
「はい!! お姉さまとのお茶会!! 楽しいです」
「私は楽しくないわ……」
「シンシア。あれは疲れてるだけだから」
「わかりましたー」
「………」
「そうですか。楽しいか……」
ノブリスは複雑そうな顔をする。シンシアが喜ぶ姿に嬉しさと寂しさと銀姉に対する疑惑が渦巻いてそうな顔だ。俺もよく分かる。
「……ノブリス。俺に用だろ?」
「ああ……君に彼女をかけて決闘を申し込む」
「やったああああ!! きたあああああ!!」
誰よりも早く、誰よりも反応よく銀姉が立ち上がって脇を締めながら笑顔で叫んだ。
「「「…………」」」
「えっ……あっ……おほん。殺し合いは好きよ」
銀姉が笑顔で叫び立ち上がったのを俺は冷たい眼でみる。殺し合いが好きじゃなくて「親友同士が一人の女の子を奪い合う決闘がみたいだけだろう」と知っている。シンシアも知っているため苦笑いで銀姉を見ていた。ノブリスだけは奇人を見る目ではあった。
「まぁ……そういうことだ。僕は手加減しない」
俺は「手加減しない」とやっちまいそうだ。親友が決闘の末に圧死はちょっと嫌である。
「……わかった。今からでもいいな」
「決闘場は借りている」
手際がいいじゃないか親友よ。俺はアイコンタクトをシンシアに送る。シンシアは頷き目を閉じて精一杯の大声で叫んだ。
「お願い!! 私をかけて戦わないで!!」
名演である。しかし、笑いそうなのを堪える。
「勃つわ~!!めっちゃ勃つわ~!!!」
「「「……」」」
名演であるのに。銀姉のそれは………萎えるな。
「あっ……なんでもないわ。どうぞお好きに?」
「銀姉落ち着こうな?」
銀姉は滅茶苦茶、瞳がキラキラと輝いている。乙女のように。そう、劇場の前席。いい台場に真下から見上げるほどの勢いで恍惚な表情を見せていた。腰も下ろさずに中腰前傾。尻尾があれば全力で振り回しているだろう。いや、幻かフワフワした銀尻尾を振り回してるのが見えた。いや、尻尾がある。まぁそれは後で聞こう。
「ふん!! ふん!!」
どれだけ恋愛小説すきなんだよ。この人は………まぁ……だから絶対に巻き込んでやる。
絶対に俺のものにする。過去の勇者のように魔王を独り占めする大英雄の裏切り者のように。
「じゃぁ、行こうかノブリス」
「あ、ああ………」
「わ、私、恥ずかしい事……頑張って言ったのにお姉さまの変な発言で……無かったことに……」
各々の思いが混じる中。決闘場まで無言で歩いていくのだった。
*
決闘場は四角に区切られた魔法石で囲まれた部屋であり城壁と同じ材質なため堅牢だ。そこまでの防御が必要なのかわからないがちょっとの魔法で大惨事はない。私はワクワクしながら。その部屋の真ん中で対峙する二人を見ていた。
「……本当にやるんだな」
「ああ」
名場面集トップ10に入るかもしれない状況。苦楽を共にした親友同士が一人の女を求め剣を握る。The王道の展開だからこそ。それを生で見れるなんて素晴らしい。姫なら心が痛い状況だろう。だが私は外野の悪役。特等席で他人の恋沙汰を見れる素晴らしい場所である。
いけない、涎を拭こう。
「陽の女神よ。感謝します」
「銀姉さま……」
隣のシンシアは私に不安そうな顔を寄越した。
「もし………相手を殺りそうなら。間に入って大怪我しなさい」
「えっ………あっはい。ソーマドールさんの言うことより過激ですね」
「………奴は関係ないでしょ。さぁ……始まりますよ~試合」
「銀姉さま。どちらを応援しますか?」
「あー勝って欲しいのはノブリス君かなぁ~やっぱり王道主人公のように勝って手を差し伸ばして~」
ギャン!!
「くっ!?」
「……ノブリス。技のキレだけで勝てると思うな」
「無理そうね」
ソーマドールが持って来た大きな木斧で力任せにノブリスをボコっていた。防御もあったもんじゃない力になす統べなく吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。
「ノブリスさん!?」
ガシッ!!
「男の戦いに首を突っ込まない」
「でも!? もう決着は!!」
「戦う意志があるかぎり、『もしかしたら』があるわ。決着は全て終わってから」
シンシアの肩をつかんで制止させた。ソーマドールは容赦なく木の剣に持ち変えて、相手を蹴り出す。
ゲシッゲシッゲシッゲシッ!!
「ぐはっ!? がっ………がは!!」
容赦なく徹底的に蹴り入れる。あっこれ決着ついてるわ。しかも、あんなボールを蹴るようにねちっこく………彼……強すぎ。
「お姉さま離して!!」
「え、ええ………」
「ソーマドールさん!! もうやめて!!」
あの名場面の男のギリギリの戦いが一方的過ぎて私が引いている中。シンシアがソーマドールとノブリスの間に入る。
「これ以上やめて!! もう……戦えないよ!!」
「……し、シンシア?」
「どけ、敗者に情けはいらない」
何これ。ソーマが容赦ない。でも、お陰で庇う女の子を見れたので親指を立てた。いいぞソーマ。悪役っぽいけどいいぞ。そういうのもいいぞ。
「……ふん。シンシア。負け犬につくか………いいだろう。傷を癒してやれ」
「……ノブリスさん。大丈夫ですか?」
「ああ、ソーマ……お前……何故こんなに強く……」
「……さぁな、ノブリスを任せた。俺は行く」
「ソーマドールさん!! なんでこんなに酷いことを!! えっと……えっと……台詞は……後でノブリスさんも説得します。任せてください」
私は予想外からの王道展開を眼に焼き付ける。ソーマドールが武器を持って私の元へ来てすれ違う。その瞬間だった。
「楽しかったか? 銀姉………よかったな」
「!?」
優しい声をかけられ振り向いてしまう。ソーマドールの背は大きく………そして何故か背筋が冷えるのだった。そう、初めて。自分自身が獲物になったような気がしたのだった。




