悪役王子の第一歩:父上頼みます。シンシアさん頼みます。
学園の始まりが1週間遅れるらしい。理由はもちろん令嬢の拐った事件の影響だ。誰が拐ったか何の目的かを調べるために拐われた令嬢の心身の影響を見ての判断。王国の幾多の学園の警備増強。事件が広まった結果。色々と騒ぎがあるようだ。
逆に俺は運が良かったと思う。何故ならば。
「流石!! 我が息子よ!! 聞いておる!! オヴリージュ家のご子息と一緒に戦い!! 罪人を斬り伏せたと!!」
「人を殺しました。そんな褒められる事では………」
「いいや、正しい行いのために戦うのは勇気ある証拠だ。しかも!! 死体を見るに冒険者の手練れだったそうだな!!」
「……ええ」
俺も「よく勝った」と感じていた。負ける気もしなかったが。
「兄たちに見せてやりたいな。お前の勇姿を!!」
「……」
「……ソーマ。人を殺ったのがまだ尾を引いておるのか?」
「………いいえ」
父上が余計に笑みを深める。父上が何を好いているのかわかった。やはり武人なのだろう。古き人だ。本当に古い。
「何だ? 何か言いたいことでもあるんだろ?」
「はい……父上。一緒に来ていただきたいのです」
「うむ。可愛い我が子のためだ何処へ行く?」
「クドルシュチル家。ご当主の屋敷に……今は銀姉と別宅です。『ご挨拶行きたい』と思います」
「ほう………面白い。段取りしよう」
「ありがとうございます。父上の代わりに自分がお話しします」
「……お前が?」
「直接値踏みされます故………」
「ふむ。わかった。様子を見て黙ろう」
俺はほくそ笑み。「うまく行けばいいな」と思うのだった。
*
「うまく行けばいいな」と思った次の日の午後。クドルシュチル家の本家に顔を出した。段取りが早く父上が頑張って無理をしてくれた事に感謝しながら当主の執務室を訪れた。
足音を立てない隙のない使用人に連れられ、執務室の部屋に入る。
カチャ
目の前に筋肉隆々の逞しい男がボウガンを俺の眉間に突き立てる。
「よぉ~坊っちゃん。娘がお世話になってるなぁ!!」
「クドルシュチル家ご当主!! 我が息子になに……」
「父上は黙る」
「何ぃ!?」
俺は剣を抜こうとする父上を横に手を出して抑える。真っ直ぐ銀姉の父親を見た。
「すいません。話をしに来ただけですのでご安心を」
「………怖くないのか? 引き金引けば終わりだぞ?」
「殺るならすでに引き金を引いているでしょう。試されているだけですね。それに近いボウガンは全く怖くはないです。携行品のボウガンの威力はせいぜい……兎を仕留める程度でしょう」
「………大分。マクシミロアンご当主は鍛えておいでですね」
「ああ、自慢の息子だよ」
評価はいいらしい。良かった……話が進めやすい。
ボウガンが眉間から外れ、「座れ」と銀姉の父親は言う。俺と父上はソファーに座り、使用人が紅茶を用意する。毒は入ってないだろう。スッと毒がわかるように魔法も用意してきた。
「それで………無理矢理、場を設けたんだ。聞こうじゃないか。面白い話を」
「……父上いいですか?」
「ああ。ワシはただ設けただけだ。あとはお前の好きにしろ」
「ありがとう父さん。では………単刀直入に言います」
俺は真っ直ぐな言葉で言う。「銀姉と婚約」いや違う。そんな生優しいのは要らない。
「銀の姉御を俺にください。一目惚れです」
俺はそれだけを口にした。沈黙が場を支配する。そしてふつふつと銀姉の父上は震えだす。
「………クククク!! ハハハハハハハハ!!」
銀姉の父親は豪快に頭を押さえて笑い出した。愉快そうに。
「クク………お前。あれがいいのか?」
「もちろんです」
「……初めてだ。婚約者になりたい。『婚約者で物にしたい』と言うやつが居たが………『直接くれ』と言う奴は初めてだ。それもやつを知っている者でな」
「知っているからこそ……好いているのです!!」
情に訴えても効果はないだろう。しかし、興味は持って貰える。
「中々、面白い。奴の何処にそこまで言わせる物がある? 殺されても知らんぞ?」
「……殺されるならとっくの昔に殺されてますよ。夏休み前の時期にドレスの谷間に手を突っ込んで生きてます。それだけ仲がいいんですよ。実は」
「ほう!? お前は奴に触れたのか!!」
「ええ、触れた機会は多いですね」
全身も見られた。下半身も。
「……そこまで許しているのか。聞いてはいた。同じ屋根の下で訓練していたことも」
「はい」
「……しかし。好意はないらしいな」
「そうです。友達のようなそんな感じですが……絶対の俺の物じゃ……なくて……惚れさしたいです」
恥ずかしい言葉もスラスラ口に出せる。
「絶対に手に入れたい。しかし、彼女は有用です。失うのは痛手でしょう」
「たしかに……しかし、『飼い慣らせない』と使い道が難しいからどちらでもよい」
俺は強い意思をお伝えした。銀姉の父親は笑顔で頷く。その瞬間に決まった事を察した。
「面白そうだ。婚約については………」
「すいません。一つ、厚かましいのですが……いいでしょうか? 面白い事をしたいんですよ……それに腕も試したい」
俺は銀姉の性格から趣味、行動原理を全て話をした
。自分のやりたいことを伝え、話をするだけで時間がかかり喉がカラカラになる。緊張しているのだ。
だが、その熱意のお陰か………俺は虎の威を借りる事が出来たのだった。
*
俺はもう一人の知り合い令嬢の家を尋ねた。小さな家のような質素な建物。しかし、それでも貴族。裕福な綺麗な家だ。別宅のようなそんな建物である。
トントン
「はーい」
中からシンシアさんの可愛らしい声が聞こえた。ノブリスなら赤面しただろうかと思いつつ扉で待つ。
「こんにちはどちら様………ソーマドールさん!!」
「こんにちはシンシアお嬢様。拐われた時の傷は大丈夫ですか?」
「えっと大丈夫です。ありがとうございます。その……使用人は買い出しに出られてまして……」
「手紙は読まれましたか?」
「手紙? えっと……まだです」
「……今から読んでいただいても?」
「は、はい………口調変わりましたね?」
俺は前回、手渡した手紙の内容を思い出す。あれは銀姉にとっては裏切りを意味するだろう。口調が変わったのは「自信がついたからだ」と思う。
「わかりました。どうぞ中でお待ちください」
「はい」
家に入り、小さいながらも客人を受け入れる部屋はあるようでそこで待たされる事数分。手紙を持ってシンシアお嬢様は質素な服装と共に現れる。
「あの………この内容は本当ですか?」
「ええ、本当です」
「……それじゃぁ……その……ぐしっ……」
シンシアお嬢様が涙を拭う。何か込み上げて来るのがあるのだろう。銀姉のことについて。
「かわいい……って言ったの聞き間違いじゃ無かったんですね……」
「いつも言ってますね。俺に」
「うっうっ……」
シンシアお嬢様が泣き出してしまい。俺は困惑すり。どうした物かと。
「あぁ………シンシアさん。話が終わってないです」
「ごめん……嬉しくってつい。銀姉さま……やっぱり優しい方だったんですね……」
「いや、『畜生』でしょ。でも……そうですね。慣れれば優しい方ですよ。気難しいんです」
俺はそう信じているし愛してもいる。
「……友達になりたいですか? シンシアさん」
「えっ? なりたいです!!」
パッと明るい顔をする。頬が紅潮し可愛く可愛く彼女は口にした。
「銀姉さま……髪も綺麗ですし。強くてかっこ良くて………確かに苛められてたんですけど……絶対にぶったりしませんでしたし。空気を読んでノブリスさんが来たときは潔く引いてました」
「分かりやすいでしょう?」
「分かりやすいです。納得しました……良かった嫌われてないです」
「嫌いより好いている方だろうな………」
「本当にうれしい」
ぴょんぴょんと嬉しそうに小柄な体が跳ね回る。あまりの嬉しさにそういう行為に走ったのだろう。令嬢らしさが一切ないが。可愛い女の子としては凄く男が釣れそうだ。純情は甘い毒であり、特にノブリスに効くだろう。
「かわいいですね。素直に喜んで」
「えっ……あっ……はい。なんだろ……凄い大人な感じがする。落ち着いて………ますね」
「ええ、ありがとうございます。他にご質問は?」
「あ、あの………どうして私に教えてくださったのですか?」
「それは手伝って欲しいからです。自分の目的のために」
正直に俺は好意がある事の話をした。シンシアは黄色い奇声を恥ずかしそうにして話を聞いたあとに笑顔で頷き。俺が言い出す前に身を乗り出して声を出す。
「手伝います!! 私が出来ることなんでもしますから!!」
簡単に協力を得られた。軽く心で笑みを溢しながら。「銀姉さんに毒されてるな」と思うのだった。




